国際連携・留学

12月8日(土)シンポジウム 講演者3

国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP) 冨名腰 あん 氏

私は現在、国連大学のサステイナビリティと平和研究所にいる。中大法学部国際企業関係法学科を卒業し、皆さんと同じキャンパスで勉強していた。本日は、久しぶりにキャンパスに来られてうれしい。

 

私はこんな人

私は、中央大学を2006年に卒業し、2008年にオランダのユトレヒト大学で法学修士号を取得した。国際法が専門。人権、国際法、紛争分野に興味があり、国際司法裁判所があるという理由で、オランダを選んだ。フランスで、買春問題や子どもの性的搾取などの問題に取り組んでいるパリのNGOにインターンシップに行った。職歴としては、国連大学に来る以前、公益財団法人結核予防会で、結核対策に携わっていた。結核というと古い病気と思われがちであるが、今でもHIV/AIDS、マラリアと同様、世界で大きな問題になっている三大感染症の一つ。今、国際保健の仕事から離れてはいるが、そういう経験もしていた。
また、昨年から国際法学会の会員にもなって国連大学のISOワーキンググループのメンバーとスタッフウェルフェアコミッティーのメンバーにもなっている。私は語学が好きで、英語とフィリピン語を話せるフィリピン人とのハーフである。これまでオランダとスウェーデンにも留学していたが、小学校からずっと日本で育っており、皆さんと同様の教育課程を進んできた。最初から英語が話せていた訳ではない。

 

国連大学と私の現在の仕事

国連大学の業務についてお話しする前に、国連大学についてまず紹介したい。国連大学は渋谷にあるが、何をしている機関かご存知の方はいるだろうか?ちょっとわかりにくいが、国連大学は1975年に国連システムのシンクタンクとして設立された、本部が日本にある唯一の国連機関。世界15カ国に研究所、研修センターがある。そのミッションは、緊急性の高い地球規模課題の解決のために、共同研究、教育、情報の普及、政策提言を通じて寄与すること、となっている。特に力を入れているのが、平和と開発、サステイナビリティの研究においてグローバル・リーダーシップを発揮すること。国連大学には、大学という名称が付いているにもかかわらず、今まで学生がいなかったが、2009年の12月に国連大学の憲章が改正され、学位授与ができるようになったことをきっかけに、現在では、世界各国から学生が学んでいる。途上国の学生もいる。ただ学部がなく、大学院からとなっており、修士と博士過程のみ。私の仕事は大学の入試や履修登録、奨学金に関するスポンサーへの報告など、学生サポートに関わる部分。
国連は平和活動の印象が濃いと思うが、私の場合は裏方であり、研究者や学生のサポート、事務となっている。国連職員の中には、紛争フィールドに行く人もいれば研究する人もおり、またそれをサポートする人もいる。その立場で大事なことをいくつかあげる。

 

国連職員に求められる能力

まず、国連には海外スタッフが多く、文化もそれぞれ異なるということ。他国文化の理解が重要になり、一人ひとりの文化を尊重し、英語環境で海外スタッフと一緒に仕事をすることが必要になる。また、仕事の取り組み方は様々あるので、他のスタッフのワーキングスタイルを理解し、コミュニケーションを取りながら円満に仕事を進めることが大事になる。もちろん、コミュニケーションには高い英語能力が求められる。大使館や海外の国々とやり取りをする際に、円滑にコミュニケーションをしなくてはならない。
仕事の上では判断力も大事になる。取り組んでいる仕事にもよるが、様々な業務があり、多いときはどの仕事を優先すべきか、自分で考えてうまく仕事を進めなくてはならない。どれにプライオリティーをかけていくかというのも判断力になる。会議など突然出席しなくてはならないことが起きた際に急遽対応するなど、臨機応変さが必要になってくる。一点のこだわりは時間を要してしまうと私は個人的に思う。また整理能力も同様に重要な要素。国連ではものすごく多くの文章を作成するので、それを整理しなくてはならない。
最後に、皆さんに気にして欲しいのは、常に最新のニュースを知っておくことである。大統領や大使などが講演にゲストスピーカーとして来られる時に、ニュースまたは自分が取り組んでいるプログラムやプロジェクト等について情報を求められた場合、正確な情報を伝えることが重要である。最新の時事問題について新聞等から知識を入手することを心がけると良い。

 

政策提言の重要性

私は冒頭でも説明したが、国連に勤める前は、公益財団法人結核予防会と特定非営利活動法人ストップ結核パートナーシップ日本という組織にいた。NGOとしての活動の中では、前アメリカ大統領のビル・クリントン氏も参加したHIV‐TB Global Leaders' Forum(HIVと結核のグローバルリーダーズフォーラム)にオブザーバーとして加わった。ニューヨークの国連本部の会議場には、世界中からの参加者が集まり、国際機関、NGOの代表者と関係者、患者が一つの場に集まって、問題に対するこれから必要な取り組みや、患者による結核とHIVの重複感染の体験などが話された。これまでの経験から国連ではNGOや民間の声がとり上げられてきていると感じた。WHOでも、政策提言、コミュニケーション、社会動因の連携の重要性を伝えており、例えばNGO、患者が政策決定者である国会議員に問題の現状を伝え、政策決定者が対策のために首相に申し入れ文書を提出したり、政府からの拠出金がHIVや結核のワクチンを購入するなどにつながるので、一つの活動から政策提言に持っていくことが大事だと感じたところ。学生時代は政策提言などに関われるとは思ってもおらず、ストップ結核パートナーシップ推進議員連盟という超党派の議連があるが、その事務局と仕事で関わることができたことはとても貴重な経験だ。政策提言において大変と思ったのは、選挙の度に、やりたいことの方向性も変わってしまうということ。地道に訴え続けるというのが政策提言であり、政策提言を行っているNGO団体は日本ではまだ少ない。NGOは、実際に問題のある現地に入って、現地の人たちの声、現地に届く支援をする、というのが使命。政策提言を専門とするスタッフのための人件費を割くのはNGOにとっては難しいことになるが、もっとそういったNGOが増えると良いと思うし、大事であると思っている。

 

事前に備えて現地に負荷をかけない

中大では法学部の「やる気応援奨学金」に大変お世話になった。私はインターンでインドとオーストリアのNGOに行き、途上国と先進国の両方を経験した。真逆の国だが、キャリアを考えるうえで重要だった。インドではニューデリーとアーメダバードというところに行った。各NGOが取り組んでいる問題も、取り組み方も違う。それを勉強していくことが大事と思った。NGOとか現地に行くにあたって一つ注意頂きたいことは、現地の方々は日々の暮らし中で、その問題の中にいる、ということ。日本という先進国から行き、自分が病気をしたり、世話にならなくてはならなくなったりすると、NGOに負荷をかけることになる。ある程度自分で英語力をつけるとか力をつけて、揃えてから現地入りすることをお勧めする。

 

「学生」という肩書は宝

現在は大変な就職難であり、そんな時に自分が海外に行って大丈夫かと不安になると思う。一歩踏み出す、強い目標が必要になる。私も法学部で司法試験を目標とする人の横で全く自分は違うことをしており、不安もなくはなかったが、自分のやりたい関心のあることで進めようと決心していた。実際大学3年生の時に思い切ってスウェーデンに留学した訳だが――もともと高校生の時に、横浜で開催された児童の商業的性的搾取に反対する世界会議があり、それを手伝ったことが大学時代の勉強目標・テーマのきっかけとなった。
ストックホルムで第1回の会議があり、横浜で第2回目があり、そこで何があったのかをもうちょっと知りたいと思い、ストックホルム大学の法学部で国際法を学んだ。大学3年の後半から4年の前半は完全に海外にいた。そのため、4年生の後半はフル単位で、土曜日も大学に来ており、すごく大変だったが本当に充実していた。せっかく大学生という肩書きを持っているので、それを活かした方がいいと思い、インターンシップなどには積極的に参加した。学生の肩書きがある時に海外に行くことをお勧めしたい。

 

キャリアプランを立てる理由

最後に伝えたいのは、まず、キャリアプランを立ててほしいということ。国連の競争試験――今はYPPになっており、―年に一回のこの試験には、Social AffairsやEconomic Affairsなど、色々な分野がある。自分が何に当てはまるのか、キャリアプランを立ててくださいと申し上げるのは、公務員試験同様、年齢制限があるから。そこを気にしなくてはならない。2つ目は取り組みたい分野の知識の習得について。自分の分野の専門性があれば、それを伸ばしたり、関連する分野についての知識を得るべき。そのためにはネットワークが大事。中大はやや離れたところにあるが、他大学の方たちからも刺激を受けてほしい。これは性格であるが、色々なことにチャレンジしているライバルの話を聞くと、「私も負けていないで、頑張るぞ」という気持ちになる。そして必要なスキルの取得については、予め準備しておくことが大事。何かをやりたい時に、例えばTOEFLのスコアなど、日頃から受けていい点数をキープしておくと、自分が海外に行くチャンスに巡り合った時に、そのチャンスを逃さずにいられる。頑張ってほしい。

 

【冨名腰 あん(ふなこし・あん)氏】

2006年中央大学法学部卒業後、オランダのユトレヒト大学で法学修士(LLM)を取得。学士、および修士在学中に、フィリピン、インド、オーストリア、フランスのNGOでインターンシップを行う。2008年から公益財団法人結核予防会Public-Awareness Division(国民意識の普及啓発)及び国際部、それからストップ結核パートナーシップ日本(STBJ)事務局に勤務。 STBJでは国際的なプロジェクトを担当し、結核のアドボカシーとミレニアム開発目標(MDG)の関連活動に従事。その後2011年より、国連大学のサステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の大学院修士?博士課程のプログラムアシスタントとして現在に至る。