学生サポート

発達障害とは

 近年、発達障害という概念が、大学のキャンパスにおいても広く知られるようになってきました。ここでは、発達障害をもった学生の特徴と彼らへの対応方法を簡潔に述べます。
発達障害とは、「発達の早い段階からみられる精神疾患」と捉えられており、自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)、注意欠如・多動症(注意欠如・多動性障害)、学習障害などを包括したものです。ほとんどのケースでは、大学入学前から特徴的な兆候が認められ、本人もそれゆえの生きにくさを感じています。

(1)自閉スペクトラム症とは

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder;以下ASD)とは、これまで自閉症ないし広汎性発達障害と呼ばれていた障害で、アスペルガー症候群も含まれます。現在使用されている診断基準、DSM-5(アメリカ精神医学会、2013年)では、当病態にスペクトラム概念が導入され、彼らの特性が把握しやすくなりました。
 DSM-5の自閉スペクトラム症の診断には、次の2つの基本項目を満たす必要があります。それは、「A. 複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥」と「B. 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式(や知覚の障害)の存在」で、いずれも発達のごく早期からみられます。
彼らは、周囲の人と関係を築いたり、それを維持することが難しく、また、自分が言いたいことや感じていることを相手にわかりやすく伝えたり、相手が言っていることや感じていることを理解したり、気づくことが苦手です。さらに対人関係上の出来事のなり行きを予想することも不得手です。そのような彼らは、自分の興味のあることや心地よい行動パターンにこだわり、それ以外の要請に対しては抵抗を示すことがあります。換言すれば、ASD者には、「他者とともに生きる」という視点がうまく育っていないと言えるでしょう。

(2)自閉スペクトラム症の学生の特徴

1)自閉スペクトラム症の学生は、どのような人(性格)にみえるか?

以上の特徴をもつASDの学生は、キャンパス内で以下の人物像を呈します。

① 場の空気を読めない人: 彼らは、「人の気持ちを読めない人」「場の空気を読めない人」に映ります。ときには一方的な言動から、「高飛車、生意気」といった印象をもたれるかもしれません。一方、積極的に他者との関係をもちたがる人もいます。そのような人には他者配慮の姿勢もみられますが、しばしば話題や振る舞いなどに、「ズレ感」がみられ、浮いた存在となりがちです。

② 暗黙のルールがわからない人: 学生生活には、それなりの常識、暗黙のルールがありますが、ASDの学生は、それをうまく察知できず、たとえば初対面の教師にため口をきいたり、先輩に平気で用事を依頼したり、また実験や研究では自己流になったりしりがちです。

③ 融通が利かない人: 上述のような彼らにも、学生生活を円滑に営む工夫はみられます。ただそこで彼らがよく利用するのは、自分の中で作り上げたルールであり、それにしばられがちになります(最初にそのルールありきの行動)。こうなると周囲からは「融通が利かない」人にみられます。ただこの特徴は、いったん決めたことは必ず守るといった面にもつながり、「正確な人」にも映ります。

④ 正直すぎる人: 彼らには基本的に「裏表」はなく、したがって忖度のない正直すぎる行動がみられ、それが人間関係を難しくしてしまうことがあります。

⑤ 本音のつかめない人: ASDの学生の行動には、「本音がつかめない」ことがあります。たとえば、「前回の講義で、あんなにしつこく質問してきたのに、今回はまったく興味を示さない」といったことです。これを理解するには、彼らの「心の構造」がタッチパネル状になっていると考えるとよいと思います。パソコン画面にはたくさんのウィンドウがあり、私たちは、その都度開いたウィンドウの世界に入り込んで作業しますが、ASD者の日常もこれに近いところがあります。ですので、たとえば講義を聞いている中で、疑問の心のウィンドウが開かれてしまうと、彼らはその世界に没入し、納得がいくまでしつこく質問します。逆にそれが開かなければ、関心すら示しません。さらにタッチパネル型の心をもつ彼らは、開かれるウィンドウによって、こだわりの内容や気分も異なり得るので、余計に「本音がつかみにくい」のです。

2)どのような課題の得意、不得意が生じるか?

ASDの学生にとって、課題をこなすうえでの得意・不得意となる面を表1にまとめました。

表1 ASDの学生が得意・不得意とする面

得意な面
妥協しない。
ルーチンワークをこなす。
納得するとスピードが速く、作業も正確。
飽きずに真面目に取り組む。
特定領域の能力を発揮する。
知覚の認知に優れていることがある。
不得意な面
ルールが決まっていないと行動できない。
細かいことにとらわれすぎる。
切り替えができない。
積み重ねが利かない。
連続性がない。
同時に複数の課題に取り組むことが苦手
知覚過敏による集中困難。

課題の遂行では、個々の体験の積み重ねがなかなかできず、何度も同じミスをしたりしますが、逆に特定の単純作業やルーチンワークでは、(通常の学生が嫌がるようなことでも)淡々と、しかも正確にこなすところがあります。また複数の課題を同時にこなすことは苦手ですが、得意とする作業では人並外れた能力を示すことがあります。さらにASD者には知覚(聴覚、視覚、嗅覚、味覚、触覚)への敏感さがしばしばみられ、それによって課題への集中に障害が生じること(たとえば複数の人たちが会話している場面は、「雑音の嵐」として捉えられます)がありますが、逆に知覚の敏感さは特異才能にも繋がり、それが職業選択に活かされることもあります(楽器の調律など)。

(3)自閉スペクトラム症の学生への対応

ASDの学生に対しては、不得意な面をサポートし、得意な面を伸ばす工夫が肝要です。表2は、それをまとめたものです。

表2 対応の工夫

1)コミュニケーション面

  • 穏やかな語り口で話しかける。
  • 短い・わかりやすい言葉で話かけを行う。
  • 情報量は必要最小限にする。
  • 双方向性の内容確認を行う。

2)人間関係及び環境面

  • アクティブラーニングやゼミでは、集団構成を考慮する。
  • 精神の安定が必要なときは、刺激の少ない場所に移動させる(臨機応変な退室許可、別室での自習)。
  • 相棒や通訳がいれば、その活用(一種のスチューデント・アシスタント)。
  • 必要なときには社会常識を積極的に教える。

3)授業での配慮

  • アクティブラーニングに対しては、別枠(1対1対応)での対応やレポート提出など、可能な範囲で適切な配慮を行う。
  • 課題の提示は、具体的にする。
  • 講義は、なるべくシラバス通りに行う。
  • 予定変更は、あらかじめ伝言しておく。
  • 情報提供は、積極的に視覚の活用を行う。
  • なるべく作業は単純にする(講義を聴きながら、穴埋め問題の解答を行うなど、2つの作業の同時進行は不得手)。

4)卒業後に向けて

  • 本人の特性を理解してもらえるような就職先を考える。
  • 自分のペースで行える職種を考える。
  • ヒューマンサービス分野は、一般的に不得意。

なお、ASD(この後に述べる注意欠如・多動症も同様)の学生には、二次的な反応として、他の精神障害(や症状)を併存することがあります(幻覚・妄想様症状、緊張病症状、気分障害、パニック障害など)。 その際には、彼らの特性を理解しつつ、現れている症状に対して精神医学的治療が必要になることがあると思われます。

(4)注意欠如・多動症

注意欠如・多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder;以下AD/HD)とは、DSM-5によれば、不注意と多動性および衝動性とが12歳以前からみられる発達障害です。子どもでは5%、おとなでも2.5%の有病率であり、大学キャンパスでも比較的多くみられます。彼らの多くは、大学に入学してくるまでに、忘れ物の多さ、集中困難、落ち着きのなさに対する注意を繰り返し受け、学業や生活のしづらさを実感し、中には自信を喪失している学生もいます。
AD/HDの学生は、しばしばその言動のまとまらなさ、動きの多さ、物事の失念の多さなどから、アクティブラーニングやゼミの運営に支障をもたらし、研究場面では、種々の課題に取り組んでは放置するなど、周囲にネガティブなイメージを与えます。ただここで注意しなければならないことは、これが彼らの「性格」の問題ではなく、あくまでも発達障害による特性であることです。 かたや彼らの特性は、その尽きることなきエネルギーゆえに、偉大な業績を生むこともあります。

<注> ASDとAD/HDとは、実際には鑑別のつかないことが少なくありません。どちらの特性がより強いかで、対応を考えていくのが実践的です。