学生相談室ハラスメント相談への対応

(1)困りごとの二面構造

 学生からの様々な相談に対応する上で、私たち教職員は、「どのようなことが相談者にとっての解決なのか」、「支援する側として何をしたらよいのか」を考えなければならない立場にあります。その際、忘れてはいけないのは、学生達が抱える様々な悩みごとやトラブルが、「大学」という環境の中で起こっているということです。Personal is Political-「個人的なことは政治的なこと」というフェミニズムから出てきた言葉がありますが、寄せられる相談やトラブルが、必ずしも個人の気持ち・心の問題というだけでなく、教育/指導・管理し権限を行使する側とされる側という力関係がある大学・教育現場・社会構造的な問題として起こっているという二面性があることに留意する必要があります。

(2)被害/抑圧を受けた側の心理、加害/抑圧側の意識・行動

 学生から相談を受けたとき、その内容に誇張や矛盾を感じることがあるかもしれません。あらかじめ被害側、加害側によく見られる傾向、陥りやすい心理状態などをふまえておくと、その時の相談者の状態をアセスメントし、相談内容を整理していく上で役に立つと思われます。

<被害/抑圧を受けた側の心理>

  • 被害を受けた後の心理:被害を受けた直後は、起こったことが信じられず、平静を保とうとしたり、友人や家族にも相談しなかったりする傾向があります。被害が長期間にわたり、時間が経過してくると、人への不信感、孤立感が強まり、不眠、うつ状態など心身の健康を害することもあります。
  • 「自己評価、自尊心が低くなる」:被害や抑圧された状態が続いた場合、相手にNoと言えず、無意識に相手の言い分を受け入れてしまい、自分自身の気持ちが分からず混乱していることがあります。力の強い養育者のもとで抑圧されて育った場合においても、抑圧を受けている状態が普通だと思い、対等な関係性がどのようなものなのかが分からず、「自分はだめだ、自信がない、自分が悪い」と思い込んで、相談者が悪循環に陥っていることがあります。
  • 「境界線が引けない」:自分の問題なのか他者の問題なのかが入り混じってしまい、自分の問題なのに他者や制度のせいにしたり、大学が「何とかしてくれるはず」と依存的になったり、「悪いのは相手であり、大学である」と攻撃的になったりすることもあります。
  • 「自分の価値観が正しく、それ以外は受け入れられない」:自分の価値観・感じ方が優先されて当然との環境にある場合や、他者への理解・コミュニケ―ションが苦手であることからが絡んでいることもあり、発達障害/愛着障害が背景に潜んでいる可能性もあります。発達障害の傾向がある場合、葛藤の中でずっと我慢させられ、つらさやストレスを感じ続けてきた経験を持っていることも多く、その部分が非常に強化されていることもあります。子どもの頃に養育者との間で安全感・安心感を獲得できなかったことで、他者との信頼関係を持ちにくくなる愛着障害が絡んでいることもあります。ですので、相談員はそうした視点も持ちながら、専門家とも連携することも大切です。

<加害/抑圧する側の意識・行動> 

  • 「自分中心の考え方」をする:相手が嫌がっている、拒否している「表現」やそうした気持ちがあっても「言語化できない」力関係の差に気づかない場合があります。相手の気持ちを想像せずに無視する、相手を下に見て自分の気持ちが優先されて当然と考えてしまう状態です。
  • 「自分こそ被害者である」:加害者であることを受け入れず、自分が正しいとの認知のもとに、逆に自分が被害者であると主張するケースもあります。

(3)相談を聴くときの注意点

 相談内容を聴くときには、どのような点に留意すれば良いでしょうか。まずは相手の話を丁寧に聞く、傾聴することが大切です。その際、相談者の気持ちの部分だけを受容していると、事実関係・背景をつかめず曖昧になってしまいます。逆に事実だけを追ってしまうと、相談者の気持ちが置き去りにされて、相談者は話しづらくなります。個人の心の問題と実際に起こっている事実、背景・物事の部分を整理しながら聴くようにすることで、曖昧な部分を明確にすることができます。
 また、相談を受けていて、相談者の言葉や態度、気持ちに無理があるように感じられたときには、ひと呼吸おいて、それらについて直に指摘・批判をせず、別の角度から聴く、丁寧に確認すると良いでしょう。話を丁寧に聴き取っていくことで、一人では自分の問題と他者の問題に「境界線が引けない」相談者の場合でも、相談を通して少しずつ自分なりに整理していくことができるようになることもあります。

(4)単純な「解決」はない

 相談者の背景に、親子の問題やいじめや虐待体験、発達障害などがある場合、たとえ目の前の問題が解決しても、また別の問題が起こる可能性はあります。その人にずっと寄り添い、伴走するような支援ができれば理想的ですが、4年間の大学生活の中で、私たちができる範囲には限度があります。ただ、大学で自分の悩みを受け止め誠実に対応してもらったという体験は、その後のその人の人生において、大きな力にもなり得ます。たとえば、問題に直面しても一人だけで抱え込まず誰かに相談する・助けを求める、別の支援に繋がる、生きやすい方向へと自らのものの見方・とらえ方を変えていくようになるかもしれません。<今・ここ>の相談が、相談者の将来にも関わることだと意識して、学生の相談に対応していただくことは大切なのではないかと思います。