中央大学について

理事長挨拶

「Chuo Vision 2025」 の実現を目指して

理事長 大村雅彦

 大学の使命は、教育、研究、社会貢献といわれますが、歴史を振り返ってみると、中央大学は人材(人財)育成を最大の使命としてきたのではないかと私は思います。それはもちろん、教育、研究、社会貢献につながる人材育成です。137年を遡る昔、当時の神田区錦町で創立された英吉利法律学校は、輝かしい歴史と実学の伝統を経て、今日の中央大学となりました。難関国家試験に強く、ことに日本の法曹界では本学卒業生がその大きな部分を占めてきました。これは誇るべきことです。しかし、ただ単に弁護士や公認会計士などの資格試験の合格者数が多いということだけが中央大学の特色ではありません。

 そもそも本学創立者である増島六一郎は、明治初期にイギリスのミドルテンプルに留学し、帰国後まもなく英吉利法律学校を立ち上げ、初代校長を退任した後は、外国に自分の事務所を開いたり、アメリカの弁護士会と交流するなど、国際的に法律業務を行うグローバル・ロイヤーでした。彼の国際的な業績を私たちは十分に顕彰する必要があります。現在の本学の教員にも国際的に活躍されているグローバル・パーソンが数多くいます。私も、法務省・JICAの法整備支援事業でカンボディアの民事訴訟法典起草を支援する仕事を引き受けたのは、国際的な社会貢献への思いが基礎にあったからです。地雷で足を失ったたくさんの人々がプノンペンの中央市場で物乞いをしている姿を目撃するたびに、同国の発展と幸福に自分の仕事が些かなりとも役立つ日が訪れることを願いました。中央大学で学ぶ学生諸君には、広い視野と国際的な目標を持ってもらいたいと思います。

 さて、本学は、2016年度から中央大学中長期事業計画「Chuo Vision 2025」(10年計画)を実行しており、2022年度に7年目を迎えます。振り返れば、国際経営学部と国際情報学部の開設、多目的国際交流スペースのグローバル・ゲートウェイと国際教育寮および学部横断的利用施設であるフォレスト・ゲートウェイの建設などがすでに実現しました。2023年春には、茗荷谷キャンパスが完成して法学部が移転し、理工学部・国際情報学部・ロースクールとの連携を踏まえた新たな法学教育および文理融合教育の展開が期待されます。駿河台キャンパスも2023年春に竣工予定であり、ロースクールとビジネススクールを収容し、高度専門職養成拠点とするとともに、卒業生のための都心拠点としても活用します。さらに、後楽園キャンパスの1号館建替え計画も決定しました。このように、本学は最大規模の多摩キャンパスと新たに増強される都心キャンパス群とで構成されることになるとともに、法学部の都心移転後は全学生定員の半分近く(45%)が都心で学ぶことになります。この機会に、本学の教育とそれを支える各種サービスのDX化を一層推進し、キャンパス間の連携を強化して参ります。さらに、今後の重要課題として、法人と教学の協働により「多摩キャンパスの将来構想」を策定することになります。まずは学長の下で若手・中堅の教職員により、教学の基本方針を整えてもらいます。20年後、30年後の活力ある多摩キャンパスの姿を描いてくれることを期待しています。

 中央大学は、法律、政治、経済、言論、スポーツ、芸術・文化の各分野で著名な人材を多数輩出してきました。私は本学のアイデンティティをより明確化していく一方法として、社会の発展のために画期的な貢献をされたレジェンドともいえる本学卒業生の功績を広く知ってもらうためのミュージアム(資料館)を、何らかの形で設置したいと構想しています。例えば、創立者増島六一郎はもとより、民衆の刑事弁護の第一人者であった花井卓蔵弁護士、大正デモクラシーを代表する言論を展開したジャーナリスト長谷川如是閑氏、東条英機内閣に忖度せず衆議院選挙無効判決を下した吉田久大審院判事、四大公害訴訟で被害者勝訴の道を切り開いた松波淳一弁護士、新たなビジネスモデルを確立して一時代を築いた鈴木敏文氏(セブン&アイ)や鈴木修氏(スズキ自動車)、被爆アメリカ人捕虜の埋もれた歴史を発掘した森重昭氏など、多数のレジェンドがいらっしゃいます。こういった多くの卒業生の業績を顕彰し、その苦労から学び、それを超えていく心構えを学生諸君に持ってもらうための資料館が必要ではないかと思う次第です。

 終わりに、中央大学の伝統をさらに強化しつつ、その魅力と競争力を一層向上させ、世界に存在感のある大学にしていくために、皆さまのご協力を得て、「Chuo Vision 2025」を着実に実行してまいりたいと存じます。

2022年3月1日
学校法人中央大学
理事長 大村雅彦

 1954年兵庫県生まれ。1977年中央大学法学部法律学科卒業。同大学院博士前期課程修了後、1979年中央大学法学部助手、1983年法学部助教授、1990年に法学部教授。2004 年法科大学院教授・法務研究科長。2012年国際センター所長。2014年常任理事。2017年5月理事長。このほか、テキサス大学ロースクール、ケンブリッジ大学法学部、カリフォルニア大学ヘイスティングス・ロースクールにて在外研究、1998年カンボディア法制度整備支援委員(JICA)、2002年に文部科学省学校法人運営調査委員会委員、2003 年文部科学省大学設置・学校法人審議会大学設置分科会専門委員、2013年大学基準協会法科大学院認証評価委員会委員長、2015年 Vice President, International Association of Procedural Law、2016 年文部科学省私立大学等の振興に関する検討会議委員。法学博士。専門は民事訴訟法・民事司法制度。