藤田 健人(ふじた けんと)さんの論文が、Sustainability 誌に掲載されました。藤田さんは、「親会社と子会社の少数株主の間に生じる利害対立の分析」を研究テーマとしており、本論文は、藤田さんと指導教授である山田 哲弘(やまだ あきひろ)准教授の共同執筆によるものです。
ジャーナル(Sustainability)の紹介
Sustainabilityは、原著論文を掲載する査読付きジャーナルであり、環境的・文化的・経済的・社会的持続可能性に関する幅広いテーマの論文を世界各国から受け付けています。Web of ScienceのSocial Science Citation Index(JIF 3.251)やElsevierのScopus(Cite Score 3.9)といったデータベースにも収録されています。
論文の詳細について
著者・タイトル
Yamada, A., & Fujita, K. (2022). Impact of Parent Companies and Multiple Large Shareholders on Audit Fees in Stakeholder-Oriented Corporate Governance. Sustainability, 14(9), 1–20.
概要
本研究は、ステークホルダー志向のコーポレート・ガバナンスを採用している日本企業において、親会社などの複数の大株主(MLS)が監査報酬に与える影響を調査することを目的としました。ステークホルダー志向のコーポレート・ガバナンスを採用する企業では、多くのステークホルダーによるモニタリングによって、株主間の対立が緩和されるといわれています。
しかし、こうした企業の主要なステークホルダーは、私的なコミュニケーションを通じて情報の非対称性を解決する傾向があるため、監査人の監査努力は、プリンシパル・エージェント対立による監査リスクだけでなく、主要なステークホルダーの要求にも影響される可能性があります。日本の親会社は、成長性の高い部門を分社化する傾向があり、情報開示によって子会社の資本コストを引き下げるインセンティブを持っています。そのため、親会社は監査人に対してより大きな監査努力を要求し、その結果、監査報酬は高くなると予想されます。この一方で、MLSは私的なコミュニケーションを通じて内部情報を入手することができます。したがって、MLSが存在する場合、質の高い会計情報の必要性は小さくなり、必要な監査努力も小さくなり、その結果、監査報酬も小さくなると考えられます。本稿の分析結果はこのような予想と一致しています。
この論文は、企業と市場の持続的な成長と経済発展に貢献するとともに、効果的なコーポレート・ガバナンス・メカニズムの構築に示唆を与えるものです。
掲載にあたって
本研究は、私が大学院で一貫して取り組んでいる、ステークホルダー志向のコーポレート・ガバナンス下で生じる企業グループ内のプリンシパル・プリンシパル対立について、監査報酬の観点から分析したものです。山田先生と共に努力してきた成果が国際的に評価されたジャーナルに掲載され、とてもうれしく思います。今後も日本企業が置かれている社会環境・経済環境の特徴を十分に考慮した分析を行い、企業行動の要因・メカニズム・影響を明らかにしたいと思います。
山田准教授からのメッセージ
Sustainabilityは社会の持続可能性に関する非常に広範な研究テーマをカバーしており、藤田さんとの共著論文は、Economic and Business Aspects of Sustainabilityという分野の特集号"Stakeholder-Oriented Corporate Governance and Sustainable Corporations"に掲載されました。このジャーナルの査読・修正期間は非常に短く、修正期間中は、藤田さんとともに連日ほぼ徹夜で査読コメントに対応しました。過去にも厳しい査読を経験したことはありますが、これほど時間的制約の強いケースは初めてで、私にとっても良い経験になりました。
※本記事は、2022年6月時点の内容です。