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【究める vol.75】藤田 健人さん(商学研究科 博士後期課程)の論文が、Journal of Business Economics and Management 誌に掲載されました

2022年03月15日

 

藤田 健人(ふじた けんと)さんの論文が、Journal of Business Economics and Management 誌に掲載されました。藤田さんは、「親会社と子会社の少数株主の間に生じる利害対立の分析」を研究テーマとしており、本論文は、藤田さんと指導教授である山田 哲弘(やまだ あきひろ)准教授の共同執筆によるものです。


<Journal of Business Economics and Management 誌とは>
Journal of Business Economics and Management は、原著論文を掲載する査読付きジャーナルです。このジャーナルは、ビジネス・エコノミクスとマネジメントなどに関する論文を世界各国から受け付けています。Web of ScienceのSocial Science Citation Index(JIF 2.028, Q2)やElsevierのScopus(Cite Score 3.5, Q1)といったデータベースにも収録されており、質の高いジャーナルとして国際的に認知されています。

論文の詳細について

<著者・タイトル>
Fujita, K., & Yamada, A. (2022). Conflicts between parent company and non-controlling shareholders in stakeholder-oriented corporate governance: evidence from Japan. Journal of Business Economics and Management, 23(2), 263–283.

掲載論文はこちら

 

<概要>
日本企業では、企業グループ内の子会社に親会社以外の少数株主(非支配株主)が存在する場合が多いことが知られています。私たちのデータによれば、東京証券取引所一部上場企業の実に71.5%の企業で非支配株主持分が連結貸借対照表に計上されています。加えて、日本では子会社を上場させるケースが諸外国に比べて多くなっています。子会社の上場は連結貸借対照表上の非支配株主持分の増加を招きます。

こうした非支配株主の存在は、プリンシパル・プリンシパル・コンフリクト(PPコンフリクト)と呼ばれる、株主間の利害対立を生じさせると考えられます。PPコンフリクトが生じうる状況下では、親会社が子会社の非支配株主の富を搾取することがあります。その結果として、エージェンシー・コストが増加し、子会社あるいは企業グループの経営が非効率性になることが予想されます。一方で、いくつかの先行研究は、日本企業のようなステークホルダー志向のコーポレート・ガバナンスを採用する企業では、売上高の最大化を通じてPPコンフリクトが緩和される可能性を指摘しています。

そこで私たちは、親会社と非支配株主の間のPPコンフリクトによって生じうる子会社から親会社への利益移転と、子会社への売上高成長機会の分配を通したPPコンフリクトの緩和について、日本の企業グループのデータを用いて分析しました。分析に際して、日本では親会社の個別財務諸表と企業グループの連結財務諸表の両方が利用できるため、親会社単体と企業グループ全体のデータを比較し、企業グループ全体への影響を観察することが可能となります。分析の結果、(1)非支配株主持分比率が大きくなるほど子会社の利益が親会社へ移転されること、(2)非支配株主持分比率が大きくなるほど子会社の売上高成長率が大きくなることが析出されました。これらの結果は、親会社が子会社の非支配株主の富を利益移転によって搾取する一方で、非支配株主の存在する子会社へ売上高成長機会を分配することでPPコンフリクトの影響を緩和することを示唆しています。さらに、追加分析から、ステークホルダー指向の強い企業群ではそもそも親会社による搾取が生じにくく、また、売上高成長が促進されることでPPコンフリクトの影響を緩和していることを示唆する結果が得られました。

掲載にあたって

私たちの論文は、先行研究や現実の社会経済に対していくつかの貢献があると考えられます。第1に、この論文はステークホルダー指向のコーポレート・ガバナンスがPPコンフリクトの影響を緩和するという実証的証拠を提示しています。この点は、コーポレート・ガバナンスに興味がある研究者だけでなく、コーポレート・ガバナンス制度の設計に携わる政策決定者や、これから他国企業との提携を考える経営者や株主にとって関心があると考えられます。
第2に、この論文は子会社におけるPPコンフリクトを分析した先行研究を拡張し、親会社を含めた企業グループ全体を分析しています。これによって、子会社における親会社と非支配株主のPPコンフリクトが、子会社の経営だけではなく、企業グループ全体のマネジメントに影響することを明らかにすることができました。

博士前期課程在籍時から取り組んできた論文をこのようなレベルの高い学術誌に掲載することができ、大変うれしく思います。多くの時間と労力をかけて取り組んできた研究なので一定水準以上の学術誌に掲載されたいと思っていましたが、期待以上の成果が得られました。この成果は、共著者であり指導教員でもある山田先生のご助力があってこそのものであり、先生には心より感謝しています。
今後の研究では、本研究を拡張し、企業グループ内のPPコンフリクトが企業の経営行動や会計行動に与える影響を明らかにしたいと考えています。また、本研究では、日本のデータを使って分析する意義を再確認できました。今後も引き続き日本のデータや日本特有のセッティングを活かした研究を行いたいと思います。

山田准教授からのメッセージ

私の研究室では、一般的な理論に日本企業の背景にある独自のコンテキストを織り込むことで、より現実的な仮定をおき、よりインパクトのある研究となるように、教員も院生も一緒になって議論し研究しています。そんな研究仲間でもある藤田君の努力が良い成果につながり、大変うれしく思っています。これからも院生の皆さんが、第一線の研究者となれるように、私も一緒に勉強していきたいと思います。