大学院

【究める vol.135】修了生の声 太田 信さん(法学研究科 博士後期課程)

2024年04月01日

「究める」では、大学院にまつわる人や出来事をお伝えします。今回は「修了生の声」をお届けします。博士後期課程の1回目は、法学研究科 博士後期課程を修了した太田 信さんです。大学院時代の研究テーマをはじめ、進学理由や大学院での過ごし方、印象に残っていることなど、様々な角度からのエピソードを掲載しています。

時には大好きな野球観戦でリフレッシュしていました。

太田 信(おおた まこと) さん

2024年3月に法学研究科 博士後期課程 公法専攻を修了し、
博士(法学)を授与されました。

 

<博士論文タイトル>
「一般的法義務の免除」の構造

大学院時代の研究について

「一般的法義務の免除」と呼ばれる問題を研究対象としてきました。日本では、エホバの証人剣道不受講事件(最判平成8年3月8日民集50巻3号469頁)がこれに関する判例であるとされています。法律などを通して課される義務が、ある宗教の信者にとっては、自らの信仰上の義務と対立するときがあります。このとき、信仰に従うことを選べば、義務を課す法律に反するということになります。反対に、法律に従うという選択をすれば、自らの信仰に反することとなります。つまり、どちらの選択肢を採ったとしても、法律上の義務のような世俗の義務と対立する信仰を有する人にとっては酷な状況となります。では、この酷な状況を回避する手段はないのでしょうか。そこで考えられるのが、そうした義務から免除することを求め、それを認めるということです。
しかし、免除の可否を考えるにはいくつもの考えなければならないハードルがあります。例えば、国などが上記のような状況に直面した信者に対して、法義務からの免除を認めれば、特定の宗教に対して優遇しているような状況となります。このとき、信教の自由を考えて免除を認めるか、政教分離を考えて免除を認めないかという選択をしなくてはなりません。もう少し踏み込めば、信教の自由と政教分離が対立関係に立っているように見えるということにもなります。しかし、例えば日本では、信教の自由と政教分離は基本的に対立しないと考えられています。とすると、この対立関係をどのように解けば良いのかという難問が生じます。この他にも、そもそもなぜ義務を課すことができるのかなど、いくつもの難問がこの問題には横たわっています。
このように難問を抱える「一般的法義務の免除」を考えるに当たっては、日本のそれまでの判例や学説を検討するだけではなく、比較法研究としてアメリカにおける判例や学説、そして立法を研究対象としました。アメリカで「一般的法義務の免除」という問題は長きに渡って繰り返し問われてきました。その中では、現在まで議論の対象となっている判例があるだけではなく、近年では文化戦争とも言われる事柄との関係が問われています。アメリカでの議論から、この問題に内在する問題とは何かということを注意深く見出し、それを踏まえて日本でのこの問題を考えるということをしてきました。

中央大学大学院への進学を決めた理由を教えてください

中央大学法学部では、3年生から橋本基弘先生のゼミに所属していました。そのときに、憲法に関して研究をしたいと思い大学院進学を決めたこともあり、引き続き橋本先生にご指導をお願いしたく、中央大学大学院に進学しました。また法学部には、大学院の授業を受講できる大学院授業科目履修制度があり、学部4年生の1年間は、それを利用して橋本先生の大学院の授業を受講しました。中央大学大学院の雰囲気を経験することができ、是非ともその環境で研究をしていきたいと思ったのも、進学先を決めた理由の1つです。

ご自身にとって大学院はどのような場でしたか

少し大げさかもしれませんが、生活すべての中心となる場でした。大学院生は、朝起きて夜寝るまで研究に関することをじっくり考えて良いという時期ですから、その中で考えられること、考えなければならないことをとにかく深めていこうとしていました。ときには、友達と飲みに行ったり、旅行をしたり、野球観戦に出かけたりしましたが(もっと研究しなさいというお叱りはその通りですが)、結局は研究のために色々と考えていました。

中央大学大学院へ進学してよかったことについて

1つには、研究環境が充実していることでしょうか。多摩キャンパスでは、研究室から走れば(実際はちゃんと周りに気を配って走っていましたが)、30秒ほどで図書館にたどり着くことができました。そして図書館は、開架・書庫を問わず、法律に関する書籍は数多く所蔵されており、研究を進めるには十分な資料が揃っていました。茗荷谷キャンパスに移転してからは、同キャンパスに所蔵されていない書籍については多摩から送ってもらうという形になりましたが、それでも一日あれば届きますので、研究に特別支障はありませんでした。また、コロナ禍を経てからさらに充実したオンラインデーターベースから、欲しい論文をネット環境さえあれば入手することができました。論文を執筆しながら急に必要となった文献に素早くアクセスできたということもありました。
先生方との距離が近いというのも良かった点であると思います。指導教授の橋本先生だけではなく、同じ分野の先生方からも数多く指導を受けられる環境があるのも特徴だと思います。授業や学内の研究会でご指導いただくだけではなく、学内でたまたまお目にかかった際に、研究のご相談をしたことも幾度となくあります。そしてその距離が近いというのは、単に自分が研究分野としている分野の先生方に限ったことではありません。私の場合は、新井誠先生(研究開発機構 機構教授)にお誘いをいただき、博士課程後期課程2年生のときに、ゲッティンゲン大学での研究会で報告する機会を与えていただきました。ドイツで、日本やアメリカ法に関するテーマを英語で報告するというその貴重な経験は、その後の研究に大きな影響を与えました。

大学院時代の印象に残っている出来事について

研究室にて他の院生と色々なことを話したのはとても印象に残っています。その会話の中から、研究の方向性を修正したり、その後の研究のテーマを考えるきっかけになったりすることも度々ありました。実際のところ、研究の話よりも関係ない話が多かったような気もしますが(ここでもお叱りを受けそうですが)、同じ院生同士話が尽きず、気づいたら大学が閉まる23時だったということは何回もありました。
また、博士課程後期課程1年生のときに参加した、ミュンヘン大学のサマープログラムであるMUSTプログラムもとても印象に残っています。このプログラムは、中央大学とミュンヘン大学の提携によって、毎年、中大生のための枠が確保されています。たった1ヶ月という短い間ですから留学に行ったという訳ではないのですが、単に様々な国からの参加者と共に勉強をしたという経験以上のことを私に与えてくれました。いかに自分が井の中の蛙であったかを理解することができましたし、今の自分のキャリア、研究テーマの方向性にもその時の経験は活かされています。

修了後の進路について

札幌学院大学法学部に教員として着任する予定です。

受験生のみなさんへ

大学院生としての最大目標である博士論文を執筆する中で、私は数多くの壁にぶつかりました。その中で、先生からはなぜその研究テーマを選んだのかを大切にしなさいという言葉をいただきました。その言葉から、困ったらその都度出発点に戻って考え直すという作業を繰り返すことで、なんとか博士論文を完成させることができました。
このように、大学院生として取り組むべきことにはそれなりの時間がかかります。ある意味、現代社会で嫌われるコスパの悪いことをしていくことになります。しかし、そのコスパの悪いことをする時間は、自分の興味を集中して突き詰めることができる大変貴重な時間であったと、修了した今は思います。
その貴重な時間を最大限に活かすことができる環境が、中央大学大学院にはあります。
一歩を踏み出して、その門をたたいてみませんか。

                               
                                                  ※本記事は、2024年3月時点の内容です。