大学院

【究める vol.122】大学院の授業をのぞいてみよう!⑤ 文化社会学特講A(文学研究科・社会情報学専攻)

2023年06月26日

「究める」では、大学院に携わる人々や行事についてご紹介します。今回は「大学院の授業をのぞいてみよう!」の5回目として、文学研究科社会情報学専攻の「文化社会学特講A」(辻 泉(つじ いずみ)教授)の授業の様子をお届けします。

「文化社会学特講A」は木曜1限の授業ですが、同2限の「文化社会学演習A」と一続きで行われているため、授業内容や大学院生へのインタビューでは2限の様子も併せてご紹介します。

授業概要

文化社会学特講Aについて

本授業は、メディア論・文化社会学における基礎理論の理解を目的としており、メディア論・文化社会学に関する文献を輪読しながら、それに関わる社会現象を理解するための、理論枠組みを習得していきます。各回ごとに読む文献と担当者(報告書とコメンテーター)を決め、毎回丁寧に読み進めながら、議論を深めています。授業は、プレゼンテーションとディスカッションが中心です。基礎的な理論枠組みを習得した後は、それをもとに、実際の現象についての実証研究による自分なりの分析・知見・意見に基づいた社会への提言ができるようになってもらうことを目標としています。

本日(6月15日)の授業について

この授業は、1限から2限にかけて行われています。

1限は文献購読の時間です。本日は、『YouTubeでスマホにハマるを科学する』の6章と7章を購読しました。6章では、動画推奨機能やキーワード検索検索などの、アーキテクチャの利用パターンによって分けられたグループの特徴を、3つの心理傾向から明らかにしています。着目された心理傾向は、①YouTubeに対する印象、②情報接触傾向、③YouTubeにおける情報過多感です。結果としては、YouTube利用者は過多感をある程度抱えつつも、動画視聴を楽しんでいることがわかりました。7章では、利用者がYouTube外でも類似の情報に接触しているのかどうか、アーキテクチャクラスターと動画ジャンルクラスターの分析から明らかにしています。
分析の結果、YouTubeで視聴する動画ジャンルと、YouTube以外のネットサービスやテレビ番組のジャンルは似ていることがわかりました。さらに、推奨アルゴリズムを使った機能は全体的にあまり影響力を持たないが、一部の利用者の視聴内容を変える可能性があることも明らかになりました。

2限では、研究の進捗報告と、調査法の復習のどちらかを行なっています。
本日は、各自が研究の進行状況を報告しました。執筆状況や今後の研究計画の報告、最近読んだ文献の紹介などを行いました。定期的に発表する場を持つことは、周囲の進捗状況を知る良い機会であるとともに、モチベーションの維持にもつながっています。

履修者の声

本日の授業はいかがでしたか

この日の授業で面白いと思ったポイントは、YouTubeとテレビの比較です。ほとんどの人が、YouTubeとテレビで同じような内容に触れる一方で、音楽のジャンルにおいてはそうではないことが明らかになっています。ここから話題は世代における「共通文化」の話になりました。最先端の情報源であり、共通文化を提供していた音楽番組は既にその役目をネットメディアに譲り、バラエティ番組化してしまったことから、オタク文化に取って代わられたのではないかという可能性が示唆されました。まさに自分も中学生時代を過ごした2010年代前半ごろから共通文化を持った経験が薄れていったと感じ、ネットメディアの影響力の大きさを改めて実感しました。

(博士前期課程 藤本さん)

毎回、授業の冒頭で先生が、購読文献の内容を身近に捉えるためのアイスブレイクを挟んで下さります。今回のテーマは「自分にとってYouTubeはどんな存在か?」でした。
質問に対し、参加者全員が簡単に意見交換をすることで、自分ごと化してから本題に入ることができています。
本日の授業で興味深かった点は、利用者がYouTubeとそれ以外で接触する情報内容は全体的に似ている一方、音楽や消費・生活のジャンルは例外である点です。私が研究対象としているYouTubeのメイク動画の視聴者も、YouTubeを含むインターネット上で、自分が好む個人的な情報を中心に接触しているとしていると考えられます。

(博士前期課程 藤城さん)

YouTubeという新しい「メディア」について、ディスカッションをしました。授業の冒頭で「あなたにとってYouTubeとは?」という意見を共有してから、文献の内容を詳細に検討しました。とくに印象に残ったのは、「現代の若者にとって音楽は共通文化になりえるのか」というテーマです。それぞれの経験をもとに意見を出し合っていくなかで、リアリティをもって文献の内容を理解することができたと思います。さまざまなメディアが複雑に絡み合うなかで、どのように「文化」を思考すればよいか、ヒントが得られました。

(博士前期課程 小島さん)

前半はYouTubeアプリに関する書物について議論し、後半は研究についての近況を報告しました。前半については、同じ資料に対する読解が人それぞれで、その思考についてのコミュニケーションができて、より理解が深まったように感じます。また、後半は自分の最近の研究進捗について、全員で討論します。私の研究テーマについて詳しくない先輩もいます。そこで、自分から見えない角度で指摘してもらえることによって、これからの研究の進み方向をより明確にしてもらえました。

(博士前期課程 黄さん)

今年度前期のゼミでは、人々はなぜスマホアプリでのYouTube視聴にハマるのかをテーマにした書籍を輪読しています。文化社会学の授業なのですが、現在の輪読書籍の内容は心理学の枠組みで分析されている研究なので、幅広い知識を得られたり考察をすることができると思います。また、受講者の顔ぶれも他専攻からの参加者がいるため、お互いに情報交換することでも幅広い知識が得られます。

(博士後期課程 岡村さん)

この授業(文化社会学特講A)を通じてどのような学びや発見が得られますか

授業の内容は、文献講読と院生各人の個人研究発表に分かれます。
私は他学部の卒業のため、恥ずかしながら学ぶことだらけではあります。その中でも特に、個人研究発表における先生や先輩方からのコメントは大きな学びや発見に繋がります。自分の研究について一人で考えていると、行き詰まってしまうこともよくあります。そんな時に、一歩引いた視点からいただけるコメントは、新たな気づきや価値観を与えてくれ、研究の道しるべとなっています。

(博士前期課程 藤本さん)

今期は授業内容と自分の研究が直結しているため、先生や履修者の皆さんのコメントからヒントを得ることが多いです。本日の授業では、YouTubeを視聴する動機や、メディアとしての位置付けを知ることができました。購読文献の内容が直接関連していない場合も、自身の研究に当てはめて考えることを意識しています。授業内の学びとして終わらせるのではなく、自分の中に落とし込み、活かしていくことが大切だと感じています。

(博士前期課程 藤城さん)

授業に参加している学生は、それぞれの研究テーマを発表する機会があります。教授だけでなく、ほかの学生たちと研究テーマについてディスカッションをするため、研究の進め方を見直すきっかけになります。文献講読では、指定された文献の内容だけでなく、社会学・メディア論の知識を広げることができます。参加している学生によって、意見はそれぞれです。その違いを認識することで、自分では気づくことができなかった切り口から、学びを深めることができます。

(博士前期課程 小島さん)

この授業では、主にメディア論や文化社会学に関する文献読解や調査方法についての学習や実践をします。文献購読を通じて、資料のまとめ方やプレゼンテーションのやり方などを学べます。また、同じ文献や資料に対する議論を行うことによって、様々な角度からの意見が聞けて、自分が見えなかった方向からこのテーマに対する知見が得られます。調査方法については、学部で同じ研究分野を学んだ人に対しても、学んだことない人に対しても、様々な調査方法が紹介され、やり方が学べます。それによって、より自分の研究テーマに合うものが選択できるようになったと考えています。

(博士前期課程 黄さん)

院生各人の研究関心に沿って授業中に先生からコメントを求められることも多々あります。授業の雰囲気は基本的に和やかですが、院生らしい深い知識も要求されるため緊張感も同時にあります。
また、前期・後期課程の双方の院生が同じ場に集まるので、前期課程の院生から学ぶことも多く刺激になります。

(博士後期課程 岡村さん)

上記とご自身の研究や将来とのつながりを教えてください

私は少女メディア、特に魔法少女アイテムの所持と女性のアイデンティティ形成の関わりについて研究をしています。ほかの院生もテーマは多様で、ドンピシャに被る研究をしている人はいません。そのため、毎回の授業の内容が直接的に研究と関わる訳ではありません。一方で、一見関係ないと思われるテーマでも思わぬところに接点がある場合もあります。授業を通して、一見異なるテーマも自分の研究の参考になるという学びを得たり、根底では繋がっていることを発見したりすることに、面白さを感じます。

(博士前期課程 藤本さん)

私は、YouTube上のメイク動画と視聴者の行動を研究しています。授業を通じて皆さんの利用実態を知ることができるため、特に視聴者の行動分析を行う上で大変参考になっています。卒業後は広告・web系の一般企業に就職する予定です。研究内容と志望業界が一致していなくても就職活動は可能ですが、私はメディアとそれを受容する人々の動きに興味があるため、広告業界を中心に見ていました。今後は大学院での学びを一助にしながら、社会人として社会に貢献していきたいです。

(博士前期課程 藤城さん)

メディア論の観点から、ミュージアムの来館者について研究しています。とくに、来館者の「写真撮影」を介したコミュニケーションの様相を明らかにしたいと考えています。授業では、文献の内容を理解するだけでなく、研究テーマとの共通点を意識しながら読み解いています。修士課程を修了後は、物流業界の企業に就職する予定です。研究テーマについて考えるなかで、将来やりたいことが形づくられていきました。研究と就職活動の両立はとても大変でしたが、将来について考えを巡らす時間になりました。

(博士前期課程 小島さん)

私は、日本アイドルの海外進出についての研究をしています。アイドルの研究において、メディアはかなり重要なものとなっているため、授業中の様々な文献に対する読解により自分の研究につながるものも多いと感じています。また、日本アイドルの海外進出はある意味、ほかの日本のサブカルチャーにも関わるものであって、そういった面でも、メディア論についての文献が役立ちます。ほかに、文献に対する様々な角度からの意見を聞くことによって、アイドルについても「この角度からも補充できる」といった考え方が生み出すことができます。

(博士前期課程 黄さん)

私の研究テーマは『手帳と日本社会と人々』で、手帳が社会と人々との間でどのようにメディアとして機能したか、歴史的な流れを追って解明しようとするものです。
中大以外にも受験校の候補があり進学説明会にも参加しましたが、手帳を研究対象にしたいというと、たいてい驚かれました。しかし、この授業には、私と同様に、それは研究対象になるんですか?と思われたり驚かれたりしたであろう院生が何人も参加していて、社会学やメディア論の学術研究として成立するように鍛えられます。

(博士後期課程 岡村さん)

学部と比べた際の大学院での授業の特徴を教えてください

学部は大教室の授業もありますが、大学院は少人数なので、ほとんど全ての授業がゼミ形式で行われています。そのため、発言の機会が多くなることが特徴です。つまり、大学院の授業の方が、主体的に参加して、自分も授業を作る一員になっているという感覚が強いです。最初は何を発言すれば良いか戸惑うこともありました。今は、とにかく何かしら話せば、先生や先輩方が話題を拾って広げてくれるという絶対的な信頼感があるので、なんでも自由に喋っています。

(博士前期課程 藤本さん)

全員参加型の授業であることが特徴だと思います。少人数だからこそより活発な議論が可能になり、気づきや疑問点を深く掘り下げることができていると感じます。
またこの授業は、他専攻の院生や留学生などが履修しており、研究テーマも様々です。
自分1人では気づかない新しい視点を得ること、互いの研究に役立つ文献の紹介をすることも少なくありません。貴重な情報共有の場であることも、特徴の1つだと思います。

(博士前期課程 藤城さん)

大学院の授業は、少人数のゼミナールで行われます。そのため、学生の主体的な参加が求められることが特徴だと思います。学部の授業では、先生の話を一方的に聴きながらメモをとる形式が一般的です。しかし、大学院にはそのような授業はありません。また、大学院を修了するために必要な単位数がとても少ないことも特徴です。それだけに、授業の準備にかなりの時間を取られることになります。とはいえ、準備を怠ると、授業をとおして学びを深めることができません。また、発表の機会が多いため、人前で話す訓練になると思います。

(博士前期課程 小島さん)

最も大きい違いとしては、同じ分野での議論の違いだと考えています。研究分野の近い人たちが集まっているので、より深く、豊かな議論が行われているように感じます。一方、研究テーマがそれぞれ違うため、同じ研究分野でも様々な角度から議論できます。また、少人数の講義がメインとなっていて、多い場合10人、少ない場合学生2人の講義もあります。そのため、教授が一人一人と会話ができ、より細かいところまで交流ができるようになると感じています。

(博士前期課程 黄さん)

私は学部と博士前期課程は他大に在学、かつ修士号取得後は長期間働いていたため、昨今の大学事情をお伝えするには適任ではありません。そのため中大の博士後期課程に入って感じたことをお伝えして責めを塞ぎたいと思います。
入学後以降、研究テーマの知識を深めるのと弱点をつぶすのと両方の目的で、諸先生方からどの分野を勉強すべきか、ていねいなアドバイスをいただきました。そして他専攻や学部の授業にも参加した際にもご担当の先生からも温かく迎え入れていただいたと同時に、自分から先生方にアドバイスを求めたところ、快くコメントしてくださいました。
このように風通しのよさが社会情報学専攻や広く文学研究科のよさかと思います。

(博士後期課程 岡村さん)

辻教授からのコメント

今年度の大学院辻ゼミはとっても「いいかげん」です。
なるほど、「いいかげん」というと、チャランポランでまとまりがない、と思われてしまうかもしれません。
たしかに、院生たちの研究テーマは、YouTube動画に、アイドルに、魔法少女アイテムなどなどと、一見すると、真面目さを欠いた「いいかげん」なものに思われてしまうかもしれませんが、それは大きな間違いです。
この授業では、一方でそうしたポピュラーな文化事象を取り上げながら、もう一方で難解な理論や実証研究の知見を照らし合わせながら、現代社会の理解を深めていきます。
まさに、ちょうどよいバランスとしての、「いい(感じの)加減」で授業が進んでいるのです。
男性も女性もいて、複数の国や地域からの留学生も、さらに他専攻からの受講生や、博士前期課程だけでなく後期課程の院生もいて、参加者たちのバランスも、とっても「いい(感じの)加減」です。

一人で自室の机の前でうなり続けるのではなく、そうした「いい(感じの)加減」のゼミを通してこそ、院生たちの研究は進んでいきます。
あなたも、そんなゼミの仲間となって、一緒に研究を進めていきませんか?

 

※本記事は2023年6月に取材した内容をもとに作成したものです。