大学院

【究める vol.111】留学生の声 李 姝さん(文学研究科 博士後期課程)

2022年12月19日

「究める」では、大学院に関わる人や活動をご紹介しています。
111回目となる今回は、留学生の李 姝さん(文学研究科 博士後期課程)に中央大学大学院へ進学を決めた理由やご自身の興味関心、研究テーマについてお話を伺いました。

韓国・ソウルにて(2019年)

  李 姝 (リ シュ) さん

 文学研究科 博士後期課程 社会学専攻 

研究テーマや大学院で過ごす日々の様子について、詳しくお答えいただきました。
中央大学大学院への進学を考えている留学生の方はもちろん、大学院で研究をすることに関心があり、進学を検討しているみなさんは、ぜひご覧ください。

日本の大学院で研究しようと思った理由について教えてください。

私は、学部で第二外国語を選択するときに日本語を選び、日本語の勉強を始めました。その後、私はオンラインで日本に留学している友人ができ、日本での留学生活や文化、習慣などをいろいろ耳にしました。大学卒業後、私は日本に留学することにしました。新大久保の中国人が管理している寮に4年以上住んでいました。その間に、周りの人の話を聞いて、多くの女性たちが偽装結婚して日本に来たことに驚きました。最初この事実を聞いた時、私は「これは違法だろう」と考え、複雑(偏見と差別的)な気持ちを持ちました。しかし彼女たちと一緒に生活をして、詳しく話を聞くうちに、実は皆それぞれの事情を持つことが分かりました。彼女たちが、毎日必死に仕事をして、何度も倒れて病院にいく様子を目にしました。彼女たちはいったいなぜ「偽装」結婚までして日本に来たのだろうか。せっかく日本に来たのに、このような苦しい生活をしていて本当にいいのだろうか。一生懸命貯金をして国に仕送りをするのはどうしてだろうか。私はこのような疑問を持ち、日本の大学院で研究しようと思いました。

中央大学大学院を進学先として選んだ理由を教えてください。

私は日中の「偽装」結婚をテーマに修士論文を書きました。しかし、これは中国国内で受け入れられやすい研究テーマではありません。さらに研究を続ければ、調査を行うリスクは大きくなります。例えば、風俗業に従事している中国人女性への調査を行うことは、危険性が高いと思われます。そこで、私は研究テーマを変更しました。研究テーマが変わっても、実は問題意識は同じです。修士(博士前期)課程では、中国東北部や地方出身の女性に焦点を当てました。彼女たちが生存戦略として親族ネットワークや同郷ネットワークを利用して日本に来たように、地域間格差が拡大している現代中国において、多くの地方出身者が生活のために出稼ぎ労働者になっていました。一見すると安定な雇用がある50代半ばの中年世代が、実際にはサンドイッチ状態に陥っていることに注目しました。このように、私は中国における地域間格差・世代間格差に変わらず関心を持ち、引き続き進学することを決めました。そして当時の指導教員の紹介で、中央大学大学院(博士後期課程)への進学を決意しました。

大学院での研究テーマについて

私は、中国中部内陸地域のある地方都市の出身です。自らが生まれ育った地域で高齢世代や中年世代、そして若年世代の不平等な現実を目の当たりにする中で、世代間関係および老親扶養関係について関心を持って研究しています。
私の研究は、現代の中国中部内陸地域における河南省一地方都市Z市に在住する、きょうだいをもち、経済的に安定している中年女性を照準した上で、当該女性たちが他にきょうだいがいながら、いかに老親の扶養を担わざるを得ないのかを明らかにするものです。これまでの先行研究においては、「ひとりっ子の老親扶養の厳しい現実」が描写される一方、「老親の息子扶養から娘扶養への変容(ケアの担い手の嫁から娘への変容)」が中心に描かれてきました。それに対して、私の研究は、地方都市においては、相対的にきょうだい間での経済間格差が大きくなるがゆえに、経済的に安定した娘が経済的に扶養を担わざるを得ないと同時に、身体的・心理的サポートまでも担わざるを得ないこと、同居して老親を担うことは少ないにせよ、近居で全面的に老親扶養を担うか、他のきょうだいが老親扶養をしていても、「後方支援」として老親扶養に強くコミットせざるを得ないことを明らかにするものです。私は、こうした現代中国に立ち現れている家族の変容をインタビュー調査およびフィールドワーク等から提示しようと挑戦しています。

中央大学大学院に進学してよかったこと

私は質的調査が非常に優れている中央大学に入り、複数の優秀な先生方の指導下で、豊富な緑と山に囲まれている静かな環境の中、研究に励んでいます。コロナ以降、中国での現地調査が困難であったため、中国に戻って現地調査をすることが不可能でした。今まで対面で行われた研究会発表や学会発表はやむを得ずオンライン会議になってしまい、必要な情報収集や研究者間の交流ができませんでした。さらに、外出が制限され、ずっと家にいなければならないことによって、私は心身の調子が悪くなり、健康管理がうまくできませんでした。
このような苦悩を抱え込んでいる状況で、指導教員および他の先生方が研究上の指導のみならず、生活面についても私を全力でサポートしてくれました。論文執筆の中でも、先生方、そして同じ専攻の仲間たちに色々と助けられました。きわめて困難な状況にありながらも、私は信頼できる仲間たちと一緒に努力し、先生方のような優秀な研究学者になることを目指しています。

ご自身にとって大学院とはどのような場所ですか。

私にとって大学院は、学部生から社会への過渡期だと思います。現在、私は大学院生として在籍していますが、授業への参加や期末テストのみに集中していた学部生時代とは異なり、大学院に進学後は、研究以外で社会とつながる機会が増えました。大学院での学生生活において、進学後すぐにTA(ティーチング・アシスタント)として採用されました。TAとしての勤務では、インタビュー調査の過程で、研究倫理の問題や困難さを学ぶことができました。その後、RA(リサーチ・アシスタント)として採用され、研究会やオンライン研究企画を中心に研究を進めました。また、研究会の運営や研究チームのメンバー間の連絡および調整等は、貴重な経験となりました。学外の研究生活においては、日本に留学する/した高齢者養老に関する領域に所属する若手研究者たちと一緒に研究チームを立ち上げ、多様な情報発信、日中国際オンライン会議の開催等を行っています。
私は中央大学大学院に進学できなかったら、このような貴重な機会を得られなかったと思います。「勉強から研究へ」、「知識から実践へ」、私の院生生活はまさに中央大学のユニバーシティ・メッセージ――「行動する知性」のように進んでいます。一緒に頑張れる仲間がそばにいること、信頼できる先生たちが応援してくれること、これらは一つ一つの研究課題や困難を乗り越える際に非常に心強かったです。将来、私が日中の架け橋となる研究者になり、中央大学を拠点に研究を推進し、個人的な研究を進展/展開するにとどまらず、社会学、家族社会学研究の全体を大きく推進/展開する人になりたいです。

大学院を目指すみなさんへのメッセージ

新型コロナウィルスの感染拡大により、この三年間、大学院授業はほぼ完全にオンライン授業となり、学会や研究会等もほとんどオンライン開催となったため、同じ研究科に所属する院生たちとのコミュニケーションができず、全国および国外の研究者との交流や情報交換が困難でした。また、現地調査を行うことも非常に不便となり、やむを得ず研究課題を変えた院生もいるでしょう。このような厳しい状況に対応するため、オンラインでの出願や入学試験の改革などが行われました。また、母国にいながらオンライン参加にて、修士論文を無事に提出した後輩もいました。
日本国内に来られるようになった現在、キャンパス内には、大学院生が利用できる研究室やパソコン教室などがあり、静かに研究できる場所が整備されています。修士論文や博士論文の日本語での執筆に苦労している学生が自由に利用できるライティング・ラボがあり、留学生や院生にとっては非常に役に立つと思います。また、中央大学多摩キャンパスの食堂は手頃な価格で美味しいです。食事をしながら外の景色を眺めることは楽しく、気分転換にもなります。春になったら、桜広場でお花見や散歩に行くのも見逃せないことです。いろいろ悩み事はあるかもしれませんが、目の前にあるこれらの困難を乗り越えることが、私たちの人生にとっては不可欠であり大切な体験になると思います。


                                               ※本記事は、2022年12月時点の内容です。