大学院

【究める vol.108】鈴木 将平さん(文学研究科 博士後期課程)が日本生命倫理学会で若手論文奨励賞を受賞しました

2022年11月01日

文学研究科 博士後期課程 社会学専攻に在籍している鈴木 将平(すずき しょうへい)さんが、日本生命倫理学会で若手論文奨励賞を受賞しました。

本記事では、鈴木さんによる研究内容の紹介や今回の受賞にあたってのメッセージをお届けします。

日本生命倫理学会は、科学技術や倫理、社会的な課題の学際的な研究を推進する学会で、会員数は1160名です。若手論文奨励賞は、当該年度の学会誌に掲載された論文の筆頭執筆者で、40歳未満の学会員に対して、研究を奨励するためのものです。

【参考】学会ホームページ
概要 | 学会について | 日本生命倫理学会 (ja-bioethics.jp)
若手論文奨励賞 | 学会誌 | 日本生命倫理学会 (ja-bioethics.jp)
 

今回の鈴木さんの受賞は、次の論文が対象となりました。

【報告論文】
鈴木将平・河村裕樹・高島響子・荒川玲子・松井健志・山本圭一郎,2022, 「常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)病における保因者検査の現状とELSI」『生命倫理』32(1): 76-85.

鈴木さんの研究内容について

私は現在、希少難治性疾患の倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues: ELSI)に関する研究プロジェクトに携わっています。希少難治性疾患は、身体的・心理的・経済的な負担がとても大きい一方で、患者数が少ないゆえに治療や研究開発、社会的な支援などが十分でない病気のことです。

近年では、遺伝学的な検査技術が大きく発展したことで、胎児や新生児の段階で病気を早期に発見し、対処することが可能となってきました。また、私たちが持っている遺伝子の特徴や変異を知る事で、将来の発症可能性などを予測する民間の遺伝子検査ビジネス(Direct to Consumer: DTC)などもあります。

中には、両親の遺伝情報から、将来の子どもが重篤な疾患を発症する確率を知るための「保因者検査」があります。私たちはとくに症状がなくとも、誰もが何らかの遺伝子変異を複数もっていますが、同じ遺伝子変異をもった人同士が子どもをもうけたときに、ごくまれに、子どもが重篤な疾患を発症する病気があります。これを、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)病(Autosomal Recessive Disease: ARD)と呼びます。保因者検査は、両親がこうしたARD等に関する遺伝子変異を持っているかどうかを調べるためのものです。多くの場合、遺伝子変異を持っている本人は症状がないため、日本では「非発症保因者」と呼びます。

日本ではあまりなじみがありませんが、北米や地中海地域、中東から東アジアにかけては、特定の民族や集団に多くみられるARDに対処(早期治療や結婚の回避等)するために、1970年代から集団的な保因者検査(Carrier Screening)が行われています。2010年代になると、幅広い遺伝子変異や一般人口を対象にした拡張保因者検査(Expanded Carrier Screening)が試みられています。

今回、奨励賞を受賞した論文は、こうした保因者検査の歴史や国際的な動向、日米のアプローチの違い、先行研究で論じられている課題をまとめたものです。

受賞にあたってのメッセージ

医療技術の発達(development)は、病気そのものだけではなく、私たちの身体、経験、意識、感情、知識、教育、家族、ジェンダー、セクシュアリティ、コミュニティ、エスニシティ、宗教、科学、情報、産業、経済、道徳、法律、政治、国家、芸術、文化、歴史、環境など、人間存在のあらゆるプロセスにおいて重要な一部分となっています。そのため、一見するとつながりが薄いように見える人文学的な視点や発想を通して、あらゆる側面から複数の方法で取り組み、現在起こっていることや、これから起こり得る変化の特質をとらえることが必要とされています。

今回の奨励賞は、さまざまなバックグラウンドをもつ研究者のチームでの共著論文になりますが、私が担当した調査から論文の執筆のプロセスには、中央大学の学部・大学院でさまざまな専攻・専門の人とともに社会学を学び、ライティング・ラボでチューターを経験したこと、文学研究科の院生協議会*で発行している『論究』のとりまとめを経験したことなどが大いに活かされていることを実感しています。ぜひ、大学の環境を活かしつくしていただければと思います。

*大学院学生協議会の略称。大学院学生(在学生)により組織される任意団体。

 

※本記事は、2022年11月時点の内容です。