大学院

【究める vol.106】アーキビスト養成プログラム 八王子市インターンシップ実施報告

2022年10月04日

「究める」では、大学院に携わる人々や行事についてご紹介します。

今回は、今年度(2022年度)より文学研究科に設置された「アーキビスト養成プログラム」にまつわる記事です。アーキビスト養成プログラムでは、科目としてインターンシップ(アーキビスト実務研修)が設置されています。初回となる今年度は、八王子市のご協力を得て、7月下旬から8月上旬にかけてインターンシップを実施しました。本記事では、その様子を様々な角度からお届けします。

インターンシップの実施にあたって

2022年度より中央大学文学研究科にアーキビスト養成プログラムが設置されました。アーキビストとは、公文書管理や古文書の整理・保存・公開などに携わる文書館等ではたらくスペシャリストです。2020年度から国立公文書館では「認証アーキビスト」を開始し、アーキビスト養成に対する社会的な要請も高まっています。

アーキビストの活動を支える学問にアーカイブズ学という専門領域があります。アーキビストに求められるのは、アーカイブズ学の理論・知識を体系的に身につけることと、それに基づく実務能力です。

アーキビスト養成プログラムの科目として設置したインターンシップ(アーキビスト実務研修)は、授業で学んだことを公文書管理の現場における経験を通じてたしかな力にしてゆくことを目的に設置された科目です。今年度は、八王子市総務部公文書管理課のご協力を得て7月25日から8月4日までの間の6日間実施いたしました。

八王子市には、プログラムへのご理解を賜り、多大なご尽力をいただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

(担当教員・教授 宮間純一)

受け入れにあたって

令和2年4月1日、八王子市は、「八王子市公文書の管理に関する条例」を施行し、歴史的に価値ある公文書の利用制度を開始しました。八王子市及び市合併以前の旧町村役場の公文書のうち、保存期間を満了し、将来にわたり保存する必要がある公文書を歴史的に価値ある公文書として一般に公開しています。明治時代からの公文書も数多く保存しており、保存方法及び利用審査について、日々課題に取り組みながら進めています。

中央大学が目指されるアーキビスト養成のプログラムとして、実習をお受けすることになりました。本市の特性を生かした実習を実施し、大学生が体験を通じ、本市の公文書がどのように保存され、市民の利用に至っているのか、公文書の管理に対する理解を深められるよう協力いたします。一人でも多くのアーキビストが誕生し、専門的な視点により歴史的な文書の管理が実現されるようアーキビストの養成に寄与してまいります。

(八王子市ご担当者様)

インターンシップの概要

今回、アーキビスト養成プログラムとして、八王子市総務部公文書管理課においてインターンシップが実施されました。実習内容としては、大まかに➀歴史的公文書の保存、②選別公文書の目録照合・修復作業、③旧役場文書の複製作成・利用審査に区分されます。

➀の作業では、公文書を保存する文書箱や、文書箱に入れる防虫剤袋を作成しました。②の作業では、目録と現物文書の照合、破損フォルダの交換、輪ゴム・クリップ等の除去をしました。③の作業では、デジタルカメラによる資料の撮影、画像ファイルにおいて個人情報のマスキングをおこないました。そのほか、保管施設である旧小学校の害虫調査をおこないました。また、八王子市役所において、公文書管理条例の制定に至る経緯の解説を受けました。

(博士後期課程1年・玉土大悟)

インターンシップを終えて

履修生より

机上で学んだ、アーキビストの仕事イメージが中々つかみにくかった。例えば、その仕事内容が博物館の学芸員のような仕事なのか、図書館司書のような仕事なのか、想像するだけであった。今回実習に行って、どんな仕事なのか一部とはいえ具体的な仕事内容を理解する事が出来た。初めに、膨大な公文書の段ボール箱に圧倒された。

机上で学んだ内容がここですっきり理解し繋がってきた。なるほど、あのページに書いてあった事はこのような事であったのだ、と実感を以て理解できた。保存管理の重要(防虫、湿気対策等々)、仕分けと公開に向けての準備、個人情報管理での注意点など、専門職としてのアーキビストの存在意義を痛感する機会となった。

(博士前期課程1年・山岡文子)
 

今回のインターンシップでは、八王子市が公文書を実際に保存・管理している旧小学校に足を運び、実務を行った。実務は論文などで読んでいるより、かなりの労力を要すると感じた。しかし、得るものも多く、特に文書の保存・修復では実際に文書数点を修復する機会があったが、文書が痛まないように慎重に作業したのは貴重な経験であった。さらに、情報を秘匿するマスキングの作業では、私がジェンダー史を専攻していることもあり、センシティブな情報を如何に扱い、守るか学べたことは今後の研究に大いに役立つだろう。

(博士前期課程1年・倉金宙本)

今回のインターンシップで得た経験として最も大きかったのは、利用審査として実際にマスキング作業をおこなえたことであった。自分が専門領域とする中世の史料では、通常史料を黒塗りにするということがないため、近現代史料を扱う上での視点として勉強になった。ただ漠然とプライバシーの保護と聞くのではなく、実際にマニュアルの規定に沿いながら、個人情報が無いか、あるいは個人と特定できてしまう記述が無いかと考えながら史料を見るのは、今までにない経験だった。また、文書箱の作成など、史料を保存する上で有用な技術を学べたことも良かった。今回の実習で得られた経験・技術を今後生かしていきたいと思う。

(博士後期課程1年・玉土大悟)

八王子市より

八王子市では、専門的な知識を有する「歴史的文書管理専門員」が、歴史的に価値ある公文書の保存、利用等に必要な業務を行っています。実習では、歴史的文書管理専門員が実際に行っている業務を体験してもらいました。

保存、修復、利用審査といった実習の際、実習生から「アーキビストは体力がいる」、「地道な作業の積み重ねだ」という声があり、大学の講義だけでは、こうした実感を得ることは難しいのではと感じました。また、アーカイブズに携わる専門職がどのような仕事をしているか、どのような知識や技能を必要とされているか、実習を通し体感できたのではと考えています。

私たち歴史的文書管理専門員にとっても、業務における取組を振り返る良い機会になりました。アーキビストを目指す実習生の皆さんとの関わりを通じ、専門職として、さらに研鑽を積んでいきたいと改めて感じています。実習生の皆さんが、近い将来、何らかの形でアーカイブズに携わり、アーキビストとして活躍されるよう、本実習が財産となり、その礎になれば幸いです。

(八王子市ご担当者様)

担当教員より

履修生のみなさんは、インターンシップを通じて、授業や文献から得た知識を現場での経験をもとに確認しました。同時に、事前に学んでいたこと、あらかじめもっていたイメージとのギャップも強く感じたようです。これこそがインターンシップの醍醐味だと思います。「教科書には書いていないこと」、「授業では教えられないこと」に直面したことで、アーキビストの仕事がより具体的に描けるようになったのではないかと思います。実際にアーキビストになると、マニュアルや正解が用意されていないことに、自分で対応しなければならないことが日常的にあります。

インターンシップの体験を活かして、今後の学びをより豊かなものにすることを期待しています。

(教授 宮間純一)