大学院

【究める vol.90】修了生の声(文学研究科 博士後期課程)

2022年05月10日

修了生の声(文学研究科 博士後期課程)


苗 鳳科(ミョウ ホウカ)さん

2021年度に文学研究科 博士後期課程 国文学専攻を修了し
博士(文学)を取得しました。

<博士論文タイトル>
改革開放後の中国における日本近現代小説の受容研究 ―1980年代を中心に―

博士論文の内容について教えてください

一つの作品が、日中両国の読者、そして同じ国の違う世代の読者には時々全く異なるように読まれます。その裏の歴史的・文化的メガニズムを解明するのが博論の着眼点です。

なぜ自分は日本文学の受容研究を「八〇年代の中国」に焦点を当てたのかというと、文革から改革開放へという大きな転換期だった八〇年代は最後の「文化人の時代」(ちなみに九〇年代は「経済人の時代」)だと言われるほど、出版や文化交流に十分自由が効いて、人々が貪欲に本を読んでいた「全民読書」の黄金時代であり、私が憧れていました。そして八〇年代は、日中関係の蜜月期、日本文学の翻訳ピーク期でもあったので、日中文学の交流が作り出した可能性が見られるモデル的な時期だと考えました。
だが同時に、一連の政治事件など敏感な問題で八〇年代は人為的に忘却させられている部分もあります。その政治や経済研究では触れにくい歴史の啓示を文学研究だからこそ掘り下げようと、日中の読者調査や、社会・文学事情の比較をしながら(この資料調査の部分が面白いです。大学院生の身分だからこそ時間を気にせずとことん手間をかけられます)、両国の「近代的自我」、特に中国読者に見られる公的自我、私的自我の問題に思考を重ねました。
自分の研究は日本文学に世界史的な視点を補う形で、世界文学としての日本近現代文学を考え直す場を提供できたらいいなあ、とも思っています。

中央大学大学院への進学を決めた理由を教えてください。

自分は教授のもとで一年半の留学生研究生期間を取ってから院生に進学しました。教授や周りの院生との付き合いから、中大の堅実な校風が好き、もっと年数をかけてじっくり研究や授業を楽しみたい、と思うようになりました。

ご自身にとって大学院はどのような場でしたか

一言で言えば大学院は、私を子供から大人に成長させた場所です。上述の研究生期間に二年の博士前期課程に五年の博士後期課程、自分の二十代のほとんどは中大の国文学専攻で学びながら過ごしてきました。

その間は、先生方々はともかく、色んな優秀な人に出会えて共に歩み、色んな助言や影響をもらい、その一時一時が今の自分を築き上げてきたように実感します。人格、研究の姿勢、世界観や価値観、中大の色に深く染められました。

中央大学大学院へ進学してよかったことについて

自分が中大で出会った先生たちは、どれも豊かな知識を持っている一方、謙虚で包容力のある、素敵な方々でした。「君はどう思う?」と聞かれると、昔の学部生時代は「他人とかけ離れした発言はしたくないな」という思いでしたが、大学院に入ってますます怖いもの知らずになってきました。作品や研究にどのような見解を持っていても尊重される、そのような環境の中で自分も物や人を包容的に捉える、多元的な価値観を自然と身に付けました。言うまでもなくそれは文学研究をする上で最も基礎的な教養ですが。

 

大学院時代の印象に残っている出来事について

出来事というより、いつも我が身をビシッ!と引き締めてくれる、教授からの言葉が一個一個印象に残ります。
「苗くんはいつもやりたいこと多すぎるから、今専念すべきもの以外は、我慢して排除して」が2021年度自分の戒め言葉でした。私の教授は、学生の意欲には基本口を挟みません。いわゆる子供の意志を最大限に尊重し、のびのびとさせてくれるような親のタイプですが、肝心のところで一言さりげな〜く優し〜く漏らします。ところがそれがいつもビシッと心に刺さって、怠ってきた背中を起こして目前の道を見直せるのです。

勉強や研究は、どれだけ時間をかけても知識の足りなさがどんどん見えてくるものです。修了して戒めの言葉が聞こえなくなっても、学生時代にもらった助言で我が身を正したいです。

修了後の進路について

中大文学部国文専攻で非常勤講師を始めます。研究も続けます。アルバイトとしては立川国文研(中大生は利用しやすいですよ)でくずし字翻刻などやっています。

受験生へのメッセージ

大学院は私を子供から大人にさせた所だと言いましたが、それは私にとっての大学院であり、あなたにとっての大学院のあり方は、全くあなた次第で作るものだと思います。
大学院に行って得をするか損をするかは、自分には何かを代弁する立場も資格もありませんが、少なくとも中大ではあなたの築きたい大学院生活を、思いっきり作っていいよ!というような協力的な雰囲気を、先生や職員方々から感じます。

 

※この記事は、2022年4月時点の内容です。

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