修了生の声(文学研究科 博士後期課程)
博士学位授与式にて
松永 瑠成(まつなが りゅうせい)さん
2021年度に文学研究科 博士後期課程 国文学専攻を修了し
博士(文学)を取得しました。
<博士論文タイトル>
「貸本問屋の研究」
博士論文の内容について教えてください
江戸から明治にかけての日本において、娯楽的な内容の書籍は自分で購入するよりも、貸本屋から借りて読む方が一般的でした。博士論文では、こうした貸本向けの娯楽的な書籍を出版・蔵版し、それらを貸本屋へ卸す貸本問屋と呼ばれる本屋の実態解明を行うとともに、「貸本問屋→貸本屋→読者」という貸本問屋を起点とした娯楽的な書籍の出版・流通から受容までの流れを明らかにしました。
大学院時代の研究について
博士前期課程では、文永堂大島屋伝右衛門という江戸から大正にかけて営業していた本屋に着目した研究をしていました。大島屋は、滑稽本や人情本と呼ばれるジャンルの書籍を多く出版・蔵版していただけでなく、それらの再版本を明治期まで世に送り出していました。この大島屋が貸本問屋であったことから、博士後期課程では大島屋に加えて文渓堂丁子屋平兵衛・聚栄堂大川屋錠吉ら、江戸・東京を代表する貸本問屋を取り上げ、その実態解明を目的とする研究に着手しました。また、あわせて貸本屋の蔵書内容や営業の様子を明らかにする貸本文化の研究も行いました。
いずれの研究も豊富に史資料が残されてはいなかったため、書籍そのものや書籍に貼付された摺物、あるいは押捺された蔵書印などを調査・収集し、蓄積したデータを分析していくなかで進めていきました。
中央大学大学院への進学を決めた理由を教えてください
学部時代に在籍していた大学には、博士課程まで指導できる先生がいらっしゃらなかったため、博士学位を取得するためには、ほかの大学院へ進学する必要がありました。そのころは、江戸時代の人情本と呼ばれるジャンルの書籍の出版やその版元に興味があったので、進学先を選ぶ際には比較的近い領域の研究を専門とする先生がいることを第一条件としていました。中央大学大学院には、江戸から明治にかけての出版・書籍流通研究の第一人者である鈴木俊幸教授がいらっしゃったため、こちらへの進学を決めました。
ご自身にとって大学院はどのような場でしたか
1人で研究を進めていると、どうしても視野が狭くなりがちです。大学院は、幅広い時代・分野を研究する先生方、そして院生たちが身近にいる環境であったため、自分とは異なる視点からの気付きや学びを得られる貴重な場でした。
中央大学大学院へ進学してよかったことについて
鈴木俊幸教授のもとで研究を進めるべく、中央大学大学院に進学していなければ、参加できなかった研究会や調査の存在です。とりわけ、毎年春と夏の年2回行われていた新潟県小千谷市での調査の存在は大きいです。小千谷市には、かつて雛祭りの際に「絵紙」(浮世絵)を飾る風習がありました。そのため、同地には今なお多くの浮世絵が残されています。調査では、小千谷絵紙保存会や各家に残されている浮世絵の目録化を進めていました。実際に浮世絵を手に取りながら調査する経験ができたこと、また地域に根ざした調査のあり方を見聞できたことは、私にとって大きな喜びでした。
大学院時代の印象に残っている出来事について
印象に残っているのは、日本学術振興会特別研究員DC1に採用されたことです。申請に際して、鈴木俊幸教授はもちろん、研究助成課の方々には大変お世話になりました。中央大学大学院では、説明会が毎年開催されているほか、研究助成課の方々による書類の添削が行われています。専門外の人にも伝わる書類を作成する上で、こうした添削は必要不可欠です。多くの方々の支えがあっただけに、採用されたことはとても印象に残っています。
修了後の進路について
2022年4月からは日本学術振興会特別研究員PDとなり、明治・大正期の貸本文化に関する研究を進めていきます。
受験生へのメッセージ
大学院での出会いや学びは、その後の研究、そして人生に大きな影響を与えることでしょう。しかし、同じく、あるいはそれ以上に大事なのは、大学院以外の場での出会いや学びです。研究会や学会、調査等をとおして、ほかの大学院の院生やあらゆる分野の研究者のほか、地域の人々と交わるなかでしか学べないことは少なくありません。狭い世界に閉じこもるのではなく、ぜひ一歩踏み出してほかの世界へも足を運んでみてください。
※この記事は、2022年3月時点の内容です。
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