「究める」では、大学院に携わる人々や行事についてご紹介します。
今回は、学芸員として活躍する修了生、渡辺眞弓さんにお話を伺いました。大学院での学び・研究と現在の学芸員としての業務との関わりや、大学院進学を目指すみなさんへのメッセージ等を掲載しています。
渡辺 眞弓(わたなべ まゆ)さん
●文学研究科 博士前期課程 仏文学専攻 2016年度修了
●現在:多摩美術大学美術館 学芸員
<これまでと現在>
私は現在、中大からほど近い多摩美術大学美術館で学芸員として働いています。
大学院ではフランス近代美術史を専門に研究を行い、中央大学大学院の博士後期課程に在籍した後、1年半ほど栃木県にある宇都宮美術館で勤務していました。
学芸員という職業への意識
私が学芸員としてのキャリアを明確に意識するようになったのは、大学院博士前期課程の時、国立西洋美術館 教育普及室のインターンシップへ参加したことがきっかけでした(大学院生が対象のプログラムで、文学研究科の単位として認められています)。この時の美術館での実践は、人と美術作品とが出会う瞬間を目の当たりにするという点で、心弾むようなアクチュアルな体験でした。
そのため私は、研究の世界にとどまらず、「人」と「美術作品」とをつなぐような架け橋としての役割を果たしたいと考えるに至り、学芸員を目指すようになりました。現職では、展覧会の企画・収蔵作品の調査研究・教育普及事業の企画運営などを担当していますが、大学院在籍時の学びが、現在の業務に直結しています。
大学院での学び
大学院での授業はどれも一方的な講義形式ではなく、学生の主体性・能動性が問われるようなセミナー形式でした。教員や切磋琢磨し合える院生仲間と一緒に書物や資料を丁寧に読み解いていき、時にプレゼンテーションを行うこともありました。また仏文研究室の特徴として、美術史だけでなく文学や文化史等を専門とする院生も在籍していたため、授業中のディスカッションでは様々な専門領域を横断して議論が交わされており、そこでは自分自身の研究の視野を広げることができたと感じています。
また授業のほか、自分の関心のあるテーマに沿って指導教員と面談を行い、学位論文の執筆をめざして研究を進めていました。私は、修士論文において、フランスのパリ市内で現地調査を行い、卒業論文でも取り上げたフランスの画家 ギュスターヴ・モローの下図を用いたエマイユ(l’émail/七宝)という工芸品について執筆しています。
研究から仕事へ
研究における、課題を見つける・調べる・思考を言語化する・発表する・他者のフィードバックをもとにブラッシュアップをする…という一連の流れは、学芸員が展覧会をつくる時のプロセスとよく似ています。
学芸員の仕事では、作品や作家の調査研究・洋書を含む専門書の読解・展示解説文やテキストの執筆・展示作品の解説など、あらゆる場面で、美術史の専門家としての知見と経験が問われます。学問的な専門性を涵養する場である大学院において、授業と修士論文の執筆の過程で着実に身につけていった力が、現職の業務を遂行するうえで欠かせないものとなっています。
進学か就職か、悩んでいる学部生のみなさんへ
この記事を読む皆様の中には、「進学すべきか就職すべきか」と悩んでいる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。学部生の頃の私もまた、その一人でした。私は、学部2年生の終わり頃、大学での美術史の授業がとても楽しかったため、大学院進学の選択肢を視野に入れはじめました。3年生のゼミでは大学院での研究生活を思い描きながら課題や卒論に取り組み、進学に備えてアルバイトを複数掛け持って貯金をしていました。大学院進学を目指した準備期間はまわりと比較すると長かったのではないかと思いますが、それと比例して、「進学すべきか否か」と自問自答を重ねる時間も長く、試験に合格するまでの2年間は苦しい時間でした。というのも、「大学院でもっと深く美術史を学びたい、美術にかかわる仕事がしたい」という漠然としたイメージを抱きつつも、研究を続けた先にある将来のビジョンが全く描けていなかったためです。
同世代の友人達が就職活動に打ち込んで次々と進路を決めていくなか、就職活動を殆どしていなかった私の中には将来に対する不安と焦りが常にあり、大学院進学試験の申し込みの直前までも様々な葛藤がありました。指導教員の阿部成樹先生には進学について何度もご相談をしていましたが、最終的には、先生の「将来の選択肢を広げるつもりで、まずは思い切って研究の世界に飛び込んでみたら?」という一言に背中を押され、「美術が好き・美術史の研究をしたい」という好奇心の赴くままに進学することを決意しました。
目先の目標ではなく、将来の自分像
実際のところ、自分の好きな分野で仕事にすることと、その仕事を継続することには大変な苦労が伴うのだと感じます。ですが、こうして進路について悩み尽くした時間と研究に打ち込んできた院生時代があったからこそ、自分自身で選んだ道を後悔せずに、やりがいを持って今の仕事に取り組めているのだと思います。大学院進学で悩んでいる学生の皆様には、目先の目標に囚われずに長い視野を持って、将来はどんな自分になりたいのか・何がしたいのかについて考える時間をぜひ大切にしてもらいたいです。
※この記事は、2022年1月時点の内容です。
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