「究める」では、大学院に携わる人々や行事についてご紹介します。
今回は前回に続き、アーキビストとして活躍する修了生、柏原洋太さんにお話を伺いました。大学院での学び・研究と現在のアーキビストとしての業務との関わりや、大学院進学を目指すみなさんへのメッセージ等を掲載しています。
柏原 洋太(かしわばら ひろたか)さん
●文学研究科 博士前期課程 2010年度修了
●文学研究科 博士後期課程 2018年度単位取得満期退学
●現在:千葉県文書館 勤務
【経歴】
千葉県文書館行政文書資料課主事(専門職)、中央大学政策文化総合研究所客員研究員、認証アーキビスト。2011年3月中央大学大学院文学研究科博士前期課程修了、2019年3月同博士後期課程単位取得満期退学。博士後期課程在学中に、国立公文書館アジア歴史資料センター調査員、日本銀行金融研究所アーカイブアーキビストを経て、現職。専門は、日本近代行政史・記録管理史。
<アーキビストとは>
アーキビスト(Archivist)は、文書館などで働く記録管理の専門職のことです。
前近代の古文書(こもんじょ)から現代のデジタルデータまで、今日に伝わってきた記録は、将来へ継承すべき重要な情報資源だと認識され、保存されてきました。こうした記録は、後世へ伝えるにあたってさまざまな課題を抱えているほか、記録の保存・活用に社会的な注目が集まっています。アーキビストには、文書館における専門的な業務で中心的な役割を果たすことはもちろん、行政組織や企業、研究機関などで幅広く活躍することも期待されています。
アーキビストとしての業務について教えてください。
私は、千葉県文書館で専門職として働いています。多くの自治体アーカイブ(文書館)には、親組織が作成・収受した公文書のうち、歴史的に重要だと判断されたものを移管し保存・公開する機能と、所管内に残る歴史的な文書(いわゆる古文書)を収集して保存・公開する機能があります。私は、歴史公文書を担当しています。行政文書には、保存年限が設定されており、満了したものは、廃棄をするか、歴史公文書として文書館で永久的に保存するかを判断する必要があります(評価選別)。
アーキビストの重要な業務の一つが、評価選別です。といっても、千葉県の場合、私一人で判断するのではなく、他の文書館職員、文書を作成した部署、外部の有識者と、評価を行う主体が複数います。判断基準は規程で定められていますが、「評価」ですので、それぞれの価値基準が異なるため、条文の解釈を巡って対立することがあります。それらの異なる価値基準をもった主体との意見調整も、私には求められています。
国立公文書館が「アーキビストの職務基準書」を作成し公開していますが、アーキビストは幅広い役割が期待されています。私の業務も、検索システム・デジタルアーカイブ構築に関する業務、文書館移転に伴う準備、収蔵資料に関するレファレンス、歴史公文書の公開・非公開の判断、資料保存、調査研究とさまざまあります。業務ごとに求められる知識もさまざまです。評価選別では、行政文書の内容を理解する必要がありますが、県が行う政策は、極端に言えば、外交と軍事以外の暮らしに関する分野と幅広く、それらを理解しなければなりません。システムに関する業務では、システムの開発方式、セキュリティ、メタデータのあり方に関する知識が求められます。歴史公文書の公開・非公開では、情報公開・個人情報保護制度の理解が必要不可欠です。大学・大学院に10年以上在籍して、日本史、それも近世史や近代史しか勉強してこなかった私にとって、それらの知識は殆ど無いので、入庁後も勉強の日々です。
大学院での学びと現在の業務とのつながりについて教えてください。
大学入学時から歴史に関する仕事がしたいと思い、そのまま大学院に進学しました。博士前期課程では日本近世史のゼミ(山崎圭先生)、博士後期課程からは近代史のゼミ(松尾正人先生)に所属していました。
アーカイブズ学、日本史学、法学、政治学等を学んだ方々がアーキビストとして活躍されています。その中でも、日本史学出身のアーキビストはたくさんいます。日本史学出身のアーキビストは、レファレンス業務に強いと考えています。基礎文献の探し方は、学部の時に学んだ知識を活かすことができます。古文書のレファレンスでは、近世史とりわけ、村落史に関する知識がないと、対応できません。山崎先生のもとでは、近世地方文書の史料調査や村落史を勉強していたので、それらの経験が役立っています。歴史公文書は、明治期以降に作成されています。近代的な行政を理解するためには、明治維新について深い理解が必要不可欠です。松尾先生のゼミでは、明治維新とは何かを常に考え研究することを学びました。
受験生へのメッセージ
将来、何が役に立つのか案外わからないものです。学部生のときIT企業でインターンシップをしていて、データの扱い方を学びました。それが、めぐりめぐって今、アーキビストとしてシステムの構築業務を行う中で役立つことがあります。司書課程で学んだことが、千葉県で現在進行している図書館と文書館の複合化事業の中で、よく出てきて、ちゃんと授業を聞いておけばよかった、と十年越しの反省をしています。
また、大学院生・研究者として、研究学会に参加することが、今の仕事をする上で役に立つことがあります。
アーキビストに限らず、研究者や学芸員の仕事は、正規の募集は多くありません。私も、千葉県庁に入庁する前は非常勤でした。しっかりした目的意識と行動力がないと、長い?大学院生活は乗り切れません。ただし、決して一人ではないです。大学教員、同級生、先輩後輩、研究学会を通じて出会った人たちに支えられて、今の私があります(私の場合、もっと目的意識や行動力を持つべきでした)。
大学院生として、自分の専門分野を深めることは、もちろん必要です。それ以外に、何でもやってみる、色んな人と交流することも、アーキビストになるためには重要なことなのではないかと、考えています。
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