大学院

【究める vol.66】活躍する修了生 穂苅 友洋さん(文学研究科 博士後期課程 2013年度単位取得退学/エセックス大学言語・言語学研究科応用言語学専攻博士課程 2015年修了/ PhD in Applied Linguistics)

2021年11月17日

「究める」では、大学院に関わる人や活動についてご紹介しています。
今回は、跡見学園女子大学文学部コミュニケーション文化学科で専任教員として勤務されている、穂苅友洋さんにお話を伺いました。穂苅さんは、2006年度に文学研究科 博士前期課程を修了し、博士後期課程を単位取得退学(2013年)後、2015年に留学先のエセックス大学の博士課程を修了し、同大学にて博士学位を取得しました。

執筆した文章が掲載された本や雑誌

穂苅 友洋(ほかり ともひろ)さん


文学研究科 博士後期課程 英文学専攻(2013年度単位取得退学)
エセックス大学 言語・言語学研究科 応用言語学専攻 博士課程(2015年修了/ PhD in Applied Linguistics)


大学院修了後は、複数の大学で非常勤講師を務めたのち、2018年4月より跡見学園女子大学 文学部 コミュニケーション文化学科で専任講師として、言語学、第二言語習得研究などを教えています。


本記事では、ご自身の研究テーマやこれまでの経歴をはじめ、大学教員として過ごす日々の様子について伺いました。研究者を目指す方への熱いメッセージも掲載しています。ぜひご覧ください!

研究テーマについて

私の専門は生成文法理論を基盤とした第二言語習得研究です。とりわけ、私たちが第二言語を使う際になぜ誤りが出てしまうのかについて、人間言語の生得的基盤、学習者の母語の影響、言語処理能力の影響、明示的知識の影響などの観点から仮説を立て、その仮説を心理言語学の実験手法(判断課題、産出課題、反応時間測定など)を用いて検証するかたちで研究を行っています。

大学院での生活について

【博士前期課程】
博士前期課程では河西良治先生のご指導のもと、理論言語学(統語論)を勉強していました。大学院進学当初はほとんどと言って良いほど言語(学)に関する知識がなかったため、授業で課されている文献はもちろんのこと、時間があるかぎり分野や理論を問わず、ことばに関する文献を読み漁る毎日でした。また、課程終了に必要な授業だけでなく、先生がたが開いてくださった勉強会や他大学の集中講義にも参加していました。そのため、週に2日くらい徹夜することも珍しくありませんでした。徹夜することは決してお勧めできませんが、それくらい知識を貪欲に吸収する期間があったことは、今でも大きな財産になっています。

【博士後期課程】
博士前期課程では研究というより勉強に時間を注いでいましたが、博士後期課程に進学し、本格的に研究を行うようになりました。私の場合、博士前期課程で学んだことをベースとし、新たな研究分野(第二言語習得研究)に取り組むことを決めて博士後期課程に進学しましたので、新たに研究手法等を学ぶところからのスタートでした。後期課程から指導を仰いだ若林茂則先生には、共同研究、リサーチアシスタント業務などをとおして研究手法を一から教えていただきました。また、若林先生には国内だけでなく、海外の学会でも積極的に発表ができるようご指導いただき、博士後期課程1年目から学会やデータ収集で何度も海外にご一緒させていただきました。その頃から、博士号を海外で取得することを意識し始めました。運良く、日本学生支援機構が実施している「留学生交換支援制度(長期派遣)」の奨学生として採用していただき、2012年2月からイギリスのエセックス大学言語・言語学研究科の博士課程に留学し、フローレンス・マイルズ先生のご指導のもと、2015年9月に博士号(PhD in Applied Linguistics)を取得しました。

留学先での風景

中央大学での在学期間を合わせると、博士号取得まで長い期間がかかりましたが、決して無駄な時間ではありませんでした。もちろん、海外の大学院で自分自身の研究を評価してもらえたことがもっとも大きな収穫ですが、研究は多くの人の支えのもとに成り立っているということを実感できたことが、研究者としても、ひとりの人間としても大きく成長できた貴重な経験でした。

研究者となり、大学院教員として過ごす現在について

【教育】
2018年4月より、跡見学園女子大学文学部コミュニケーション文化学科で、言語学や第二言語習得研究にかかわる講義、ゼミ、卒論指導などを担当しています。着任当初は授業の準備だけで精一杯の日々が続きましたが、最近では授業準備に多少の余裕が生まれたことと、Zoomをはじめとしたオンライン会議ツールが普及したため、授業外でも学生と勉強会を行ったりしています。

また、着任2年目から所属学科の教務の責任者も担当しており、とくに、コロナウイルスの蔓延にともなう教務関連の対応には大変苦労しました。学科に所属する学生への対応やケアはもちろんですが、教員に対しても、教務の立場からほかの先生にも参考にしていただけるような技術や授業実践方法を提供できるよう、他学科の教務担当教員と知恵を絞りながら、新たな授業方法やツールを自分自身が担当する授業で試すという日々を現在でも送っています。
コロナウイルスを取り巻く状況が改善の方向に向かっていることにより、どの大学も対面授業の割合が徐々に増えてきていますが、この期間に得た技術は学生の学びや成長に資するものがたくさんあるので、今後はこの期間に得た技術をどのように対面授業に活用していくかを模索していきたいと考えています。


【研究】
現在は共同研究者として参加している科研課題や学内の特別研究として採用された課題に取り組んでいます。残念ながら、コロナウイルスの影響から授業準備や校務に割く時間が増加してしまったため、当初思い描いていたようには研究が進んでいないというのが現状ではあります。今後は、教育と研究のバランスを考慮しつつ、いかに研究に時間を割くことができるかが課題です。


【学会活動】
現在、日本第二言語習得学会(The Japan Second Language Association:J-SLA)の運営委員として学会運営に携わっています。運営委員を拝命した当初から、会計業務の責任者を担当しており、年次大会や研修会の開催前後にはとくに忙しい日々を過ごしています。また、2020年度、2021年度とオンラインでの開催となった年次大会でも、本務校の授業で得た技術を活かし、大会特設サイトの構築にも携わりました。
ポストコロナでは学会そのもののあり方や開催方法が変わってくることが予測されますが、時代に応じてよりよい学会運営方法を模索し、研究の発展の場を提供できるよう努めていこうと思っています。

研究者を目指すみなさんへのメッセージ

博士課程を修了したのち、多くのみなさんは大学の専任教員職(任期なし)を目指して就職活動を始めると思いますが、まず心得ておかなければならないのは、大学に就職するということは、あくまで「教員」として仕事をするということです。当然それに応じて、大学側が求める人材は、学生の「教育」に資する人物となります。研究ができることは前提条件のひとつに過ぎません。むしろ、いくら研究能力や研究業績が優れていたとしても、学生の教育に資する人物であることが示せなければ、就職は難しくなります。実際、大学に就職しようとする際には必ずと言ってよいほど「研究業績」と同時に「教育業績」が求められ、たとえば、英語を教えるポジションに就きたいのであれば英語を教えた経験、言語学を教えるポジションに就きたいのであれば言語学を教えた経験が求められることもあり、そのような経歴があると大きな強みになります。

博士課程に在籍している期間は自分の研究のみに時間を使うことができるため、博士号を取得する頃にはある程度の研究能力や研究業績を得ることができますが、学生は「教えること」に関しては素人である場合がほとんどです。したがって、大学に就職する際にはこの点をいかに克服できるかも重要です。もちろんですが、これを克服するためには「教える」経験を積まなければなりません。それが非常勤なのか、任期付きの常勤なのかは人によって異なりますが、その期間にいかに教育経験を積むことができるかも、大学教員(任期なし)を目指す際には重要です。

私は博士号を取得したあと3年間はさまざまな大学で非常勤講師として教育経験を積むと決めていました。その期間に、語学や言語学の授業はもとより、自分の専門とはかけ離れた科目も含め、幅広く教育経験を積むことこそ、専任教員としての職務を全うするために必要な能力と考えたからです。そのおかげもあり、博士号を取得した3年後には、専任教員としての仕事を得ることができ、目標のひとつとしていた自分の専門分野を教え、ゼミや卒業論文の指導を担当できるポジションに就くことができました。
大学教員は「研究者」という肩書きもありますが、あくまで「教育者」であることを忘れてはなりません。その自覚をもって、長期的なキャリア設計のもと、計画的に自分自身の目標の達成に必要となる経験を積むことが大切です。

 

※本記事は、2021年11月時点での内容です。

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