木村 崇是(きむら たかゆき)さん
文学研究科 博士後期課程 英文学専攻 在籍
文学研究科 英文学専攻の木村崇是さんの研究成果が、MIT出版の学術誌 Linguistic Inquiry に掲載されました。Linguistic Inquiryは、理論言語学領域における最高峰であり最も伝統ある学術誌のひとつです。
本記事では、木村さんにお聞きした研究内容の詳細や意義についてご紹介しています。
論文へのリンクは記事の末尾でご確認ください。
研究の詳細について木村さんにお聞きしました!
本研究は、右枝節点繰り上げ文(例: A girl likes, and a boy hates, every teacher.)と呼ばれる構文が、どのように構築されているかを考察しています。
上の例文では、“every teacher”が“likes”、“hates”の目的語として意味解釈されています。「表層上ひとつしか存在しない目的語が、なぜ/どのようにして二箇所で意味解釈されるのか」というのは、1960年代から残る重要な未解決問題です。また、上の例文には、単文の場合に課せられる文法制約が適用されなかったり、単文の場合には得られない意味解釈が生じたりもします。
本研究では,、捨て去られていた1960年代の分析を修正して復活させ、意味と表層のズレの問題の解決案を提案しています。特に、右枝節点繰り上げ文のような等位接続の環境における、単文の場合とは異なる文法制約の適用や意味解釈のしかたは、等位接続が例外的なわけではなく、文法制約・意味解釈メカニズムの理論に修正が必要であることを示唆していることを、経験的証拠に基づいて議論しました。
本研究の真の貢献は、このような特殊な文の分析を提案したことにとどまらず、それを通して一般的な文の文法規則・制約の理解に還元し、さらには人間言語文法の本質の解明へ繋げることにあります。理論言語分野では、類似した構文に関するパズルが多数、未解決のまま残されており、本研究の示唆がそれらを解決に導き、人間言語のメカニズムがさらに精緻化されることが期待されます。