大学院

【究める vol.60】活躍する修了生 秋本 隆之さん(文学研究科 博士後期課程 2017年度修了)

2021年09月28日

「究める」では、大学院に関わる人や活動についてご紹介しています。
今回は、2017年度に文学研究科 博士後期課程を修了し、現在は工学院大学で専任教員として勤務されている、秋本隆之さんにお話を伺いました。

ワシントン州シアトルにて

<活躍する修了生>

秋本 隆之(あきもと たかゆき)さんは、

2017年度に文学研究科 博士後期課程 英文学専攻を修了し、博士(文学)を取得しました。

2018年4月より、工学院大学で専任教員として勤務しており、主に1、2年次の英語教育を担当されています。また、非常勤講師として、これまで、文教大学、茨城大学で教鞭を取り、中央大学でも英語表現やEnglish Writingといった英語科目を担当されいます。

今回の記事では、院生時代から現在までのご自身の研究や、大学教員として過ごす日々についてご紹介しています。また、研究者を目指すみなさんへのメッセージもいただきました。ぜひご覧ください!

ご自身の研究テーマについて教えてください。

大学院在学時から動詞や形容詞といった述語に関心があり、分散形態論という形式的な形態統語理論モデルを用いて、主に日本語の述語体系における統語・形態・意味特性の解明に向けて研究を行ってきました。博士前期課程では、自然言語の中でも特徴的とされる「動詞と動詞の複合語(例:叩き壊す)」を扱い、修士論文としてまとめました。博士後期課程では、日本語では顕在的な形態で標示される「他動性交替」(例:壊す・壊れる)における統語・形態・意味 の不一致について研究を行い、博士論文としてまとめました。現在は、博士論文の内容を発展させた「する」と「なる」の交替現象(例:綺麗にする・なる)をテーマ(科研費若手研究19K13185 研究代表者)に研究に取り組んでいます。

中央大学大学院へ進学した理由を教えてください。

私は中央大学文学部に在籍していましたが、3年次に若林茂則教授のゼミに所属し、言語学の一領域である「第二言語習得」を学んだことがきっかけです。若林先生の授業は非常に刺激的で、毎回楽しく授業を受けていたことを思い出します。先生が所属している日本第二言語学会の夏季セミナーにも参加させてもらい、他大学の研究者の最新の研究発表を聞かせていただく機会がありました。もちろん、その当時は言語学の知識などほぼありませんでしたので、ほとんど何もわからなかったのですが、そこで、言語学についてもっと知りたいという知的欲求が本格的に芽生え、大学院進学を決意しました。

院生時代は、どのような大学院生活を送っていましたか。

【博士前期課程】
博士前期課程では、言語学に関連する大学院の授業、若林ゼミの学部授業、大学院の勉強会などに出席し、さらに、チューターとして学部生の発表資料作成の手伝い(当時の若林ゼミでは、学部生がグループに分かれ、教科書の内容を発表するという形式で、大学院生が発表資料の手伝いを行なっていました)なども行なっていましたので、多忙の毎日でした。

特に大学院の授業はすべて洋書や英語論文を読み、担当箇所をまとめて発表するという形式でしたので、毎週200ページ弱の英文を読んでいました。それに加えて、自分の研究もありましたので、当時は、水曜日は徹夜の日と決まっていた覚えがあります。今振り返ると、今の自分の英語力は前期課程に培われたものだと思います。

【博士後期課程】
私の場合、博士後期課程は紆余曲折したこともあり、比較的長い生活でした。1年目は研究室の先輩方と共同研究という形で、中国人・韓国人日本語学習者の日本語複合動詞の習得をテーマに研究を取り組みました。2年目からは言語習得ではなく、理論言語学を本格的に行いたいと思い、複合動詞の形態統語論をテーマに取り組みましたが、自身の力不足とテーマの難しさもあり、思うように研究を進めることができず、焦りと不安の毎日でした。

そのような中、指導教授の若林先生が副学長として多忙を極めていたこともあり、博士後期課程4年目からは休学し、心機一転、国内留学という形で茨城大学に研究生として入学することを決意しました。茨城大学では、日本語動詞の形態統語論をご専門の西山國雄教授に師事し、毎日朝から晩まで研究室や図書館にこもって研究書を読みあさり、毎週一回の研究報告を繰り返していました。茨城大学での国内留学中の大きな変化としては、複合動詞の研究を行うには、日本語の他動性交替のメカニズムを解明する必要があることがわかり、再度テーマを変更したことです。そして、研究論文の多読と西山先生との週一回の研究報告の中で理論言語学の素地ができ、他動性交替にテーマを変更してからは比較的スムーズに研究が発展し、数々の国際学会で研究成果を発表する機会が得られました。

茨城大学での2年間の生活で博士論文の骨格が出来上がり、2016年度に中央大学大学院に復学してからは、博士論文の執筆に本格的に取り掛かりました。毎週一回、若林先生に論文の進捗状況を見てもらうことで、論文執筆を進め、2016年度末には準備論文を提出し、2017年度に博士論文を提出することができました。

研究者、そして大学教員となった現在、どのような日々を過ごされていますか。また、今後の抱負についてお聞かせください。

【教育面】
2018年4月より、工学院大学教育推進機構国際キャリア科の特任助教(2020年4月より助教)として着任し、主に1、2年次の英語科目や1年次のロジカルライティングといった授業を担当してきました。初年度から英語科目全体の授業運営など様々な業務を任せていただき、2年次英語科目の教科書執筆も担当させていただきました。2020年度からはCOVID-19の影響で授業がオンライン形式に変わったことで、対面授業とは大きく異なる授業運営を行うことになりました。具体的には、これまで作成していた授業資料の完全改訂を行い、学生が個人でも学べるように、音声教材やより丁寧な解説資料の作成を行いました。また、オンライン形式の授業でもなるべく対面形式と同じ効果が得られるよう試行錯誤し、ICTを用いた授業を展開しています。そのような甲斐もあり、工学院大学2021年度のベストティーチャーとして表彰されることが決まりました。

【研究面】
2019年度より科研費(若手研究19K13185)を受託し、軽動詞「する」と「なる」の交替現象について研究を行っています。研究面でも、COVID-19の影響で、参加予定だった学会が軒並みキャンセルとなり、当初予定していた研究成果は挙げられませんでしたが、学会のオンライン化が進み、少しずつ研究も進められる体制が整ってきました。現在は、複数の研究テーマで論文執筆や研究発表を行うと同時に、博士論文の出版に向けて加筆・修正を行っています。

【今後の抱負】
教育面では、言語学的視点を授業に導入しながら、英語が苦手な学生に対しても、まずは言語って面白いなと興味を持ってもらい、そこから英語学習の動機付けを行っていきたいと思います。研究面では、論文を国外の学術雑誌に投稿し、自分の研究成果を世界中の人に知ってもらい、日本語から一般言語学に貢献していきたいと考えています。

中央大学大学院へ進学してよかったことについて教えてください。

研究面では、若林先生をはじめ、英語学分野に錚々たる教授陣がいらっしゃることが大きな利点であると思います。特に第二言語習得に関心がある学生にとっては、日本国内を見渡してもこれほどまで充実した研究体制が整っている大学院はありません。経済面では、他大学院に比べて学費が安く、かつ、奨学金やTA(ティーチング・アシスタント)・RA(リサーチ・アシスタント)が充実していることが挙げられます。私は、日本学生支援機構からの奨学金と、文学研究科の給付奨学金、そして、RAのお給料をいただくことで、大学院生活の経済面で非常に助けて頂きました。生活面では、研究に専念できる院生室が確保されていることが非常に役立ちました。毎日のように院生室で先輩や後輩と研究について議論し、時には他の専攻の院生とも意見を交わすことができたことは非常に楽しい思い出です。

研究者を目指すみなさんへのメッセージ

これまでとは異なり、現在では、研究者・大学専任教員を目指すとなると、博士号の取得が必須条件となってきます。これによって、研究費の受託や専任教員としての就職の可能性が高まります。例えば、若手研究という科研費は博士号を取得していないと応募さえできませんし、専任教員の公募でも博士号の取得を要件とする大学がほとんどです。博士号を取得するためには、もちろん博士論文を執筆・提出し、審査を経る必要がありますが、実は、ここまで辿り着ける大学院生はそれほど多くはありません。どこかで挫折し、博士論文を書き上げることができず、全く違う道に進んでしまうことや、運良く大学教員への道へ進めても、非常勤講師として一生働き続けることになります。これらを前提とし、現在、研究者を目指している大学院生、学部生に取り組んでほしいことは3つあります。

まず1つめは「覚悟を持つ」ことです。博士論文を書き上げ、そして研究者の道に進むためには強い覚悟が必要となります。ここでの「覚悟」というのは、どのような苦境に立っても決して諦めず、博士論文を書き上げるという強い意志と、時には家族に頭を下げてでも博士課程を乗り切る勇気を指します。特に博士後期課程ともなると、自分と同じ世代の友人たちは皆社会に出て、収入を得て、楽しい二十代を満喫しています。また、そのような状況で家族からの理解が得られないこともあり、焦りや不安で打ちひしがれそうになるときもあるでしょう。そういった時に、絶対自分は博士論文を書き上げて、研究者になるという強い覚悟が必要となります。

2つ目は「仲間を作る」ことです。ここでの「仲間」というのは、同じ研究室の先輩・後輩だけではなく、他の研究室や、他大学の先生、院生も含みます。(共同研究を除いて)研究というのは、孤独なものと思われるかもしれませんが、そうではありません。研究というのは仲間と一緒に作り上げるものです。時には孤独に努力することも必要ですが、一人で努力することと一人で耐え抜くことは別です。一人で耐え抜こうとすると、どこかで辛くなってきます。そういった時に支え合える仲間が必要となります。私は、自分の研究室には理論言語学を専門とする仲間がいませんでしたので、様々な学会に参加することで、研究仲間を作りました。そこで自分と同じ境遇にいる他大学の院生とめぐり合い、定期的に近況報告をすることで、お互い切磋琢磨しながら博論執筆を行いました。彼らも現在は、研究者として大学専任教員の職についています。辛くなった時こそ信頼できる仲間がいることは研究生活の上で糧になります。

3つ目は「研究計画を立てる」ことです。博士論文のような大規模な研究プロジェクトを行うためには、土台となる綿密な研究計画が必要です。日本学術振興会の特別研究員や科研費の若手研究応募用紙などを参考に、研究の背景、目的、研究の独自性・創造性、何をどこまで明らかにしようとしているのか、研究の位置づけなどをできる限り簡潔に書いてみましょう。そうすることで、今自分がどういう問題意識を持って、何をしようとしていているか、そしてそれがどのように社会や専門領域に貢献できるかが整理されます。自分の行っている研究の立ち位置がわからなくなるときはこのロードマップに立ち返り、適宜修正を加えることで着実に博士論文執筆に向かっていけます。

まとめると、博士号を取得するためには、強い覚悟を持ち、仲間と支え合い、基盤となる羅針盤(研究計画)を持って航海を続けることが必要となります。

最後に、博士論文の完成の目処が立ったら、就職を視野に入れた活動が必要となってきます。就職のためには何よりも業績が大事となります。上記3つのことを念頭に研究活動を行なっていけば、必然と業績という成果となって返ってくると思います。ある程度自分の研究がまとまったら、国内外の学会で積極的に成果を発表し、聴衆からのコメントをもとに加筆・修正を行い、論文として発表しましょう。これを続けることで、一歩ずつ専任教員への就職の道が開けてきます。

 

※本記事の内容は、2021年9月時点のものです。

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