大学院

【究める vol.56】活躍する修了生 内藤 容成さん(文学研究科 博士後期課程 2013年度単位取得退学/University of Glasgow School of Critical Studies 2014年修了/ PhD in English Literature)

2021年07月05日

「究める」では、大学院に関わる人や活動についてご紹介しています。
今回は、公立諏訪東京理科大学で専任教員として勤務されている、内藤容成さんにお話を伺いました。内藤さんは、2004年度に文学研究科 博士前期課程を修了し、博士後期課程を単位取得退学(2013年)後、2014年に留学先のグラスゴー大学の博士課程を修了し、同大学にて博士学位を取得しました。

髙過庵(たかすぎあん)前にて(茅野市・神長官守屋資料館 近く)

内藤 容成(ないとう ひろあき)さん


文学研究科 英文学専攻 博士後期課程(2013年単位取得退学)
University of Glasgow School of Critical Studies
(2014年修了/ PhD in English Literature)


現在は、長野県茅野市にある、公立諏訪東京理科大学にて専任講師として勤務されています。
本学文学部をはじめ、複数の大学で非常勤講師をしていたほか、学習塾の講師として小・中・高校生に英語を教えていた経験もお持ちです。

本記事では、ご自身の研究テーマやこれまでの経歴をはじめ、大学教員として過ごす日々の様子について伺いました。研究者を目指す方への熱いメッセージも掲載しています。ぜひご覧ください!

研究テーマについて

アメリカの現代文学を専門としています。2013年にイギリスのグラスゴー大学に提出した博士論文では、1958年から2007年の間に出版された、Tim O’Brien やDennis Johnson らによる計7作の代表的なベトナム戦争小説を、ハリウッド映画等の周辺資料も参考にしながら時代順に読み解きました。より具体的には、小説や映像作品の中に見られる西部開拓神話のイメージとベトナムの人々と土地の描かれ方に注目して、それらがアメリカ社会における人種、ジェンダー、国家に対する様々な考えを反映していることを確認したうえで、時代ごとの変遷と個々の作家の独自性を検証しました。

今後は、ベトナム移民系の作家たちによる文学作品や、ベトナム戦争以外のアメリカの戦争文学にも研究対象を拡げていく予定です。また、現代アメリカ社会における経済格差の問題にも興味を持っています。同時代の作家たちが経済的な不平等をどのように捉えているのか、小説作品や各種媒体に発表されたコメントを検証しながら考察していきたいです。

大学院での生活について

学部時代は商学部経営学科に在籍しており、大学院進学の際に英語文学文化専攻へ鞍替えしました。そのため、博士前期課程に入ってからは、英語力と文学研究に関わる基礎教養の足りなさを痛感する日々でした。博士前期課程1年目では授業数が多いため、毎日リーディング課題や発表準備に追われていました。語学力不足のため、原文で文学作品や批評を読むのにとにかく時間がかかり、毎週1度は徹夜をしていたことを思い出します。結局、修士号を取得するまでに3年をかけてしまいました。

博士後期課程に進学してからは、海外大学院留学を目指して準備を始めました。日本で博士論文を完成させるという選択もありましたが、当時お世話になっていた先生方からのアドバイスが背中を押してくれました。英語が母語として使われる環境で暮らし、研究をしてみたいという思いも強かったです。奨学金の申請、TOEFL等の語学試験の受験、大学院への申請書類と研究計画書の作成など、海外留学を実現させるためには大変な時間と労力を要します。そのすべての過程において、中央大学大学院の先生方からは多大なお力添えをいただきました。

研究者となり、大学教員として過ごす現在について

授業日には朝から大学に出勤します。授業の他に正規カリキュラム外の英会話プログラムの運営や語学試験(TOEIC)実施等の業務も担当するので、夜まで研究室に残って仕事をしていることが多いです。授業準備と校務を終えた残りの時間を研究に充てています。

勤務校での学生たちの専門は工学分野です。近年では、大学院進学を希望する学生も増えてきました。彼らが将来英語を用いて論文を読み書きし、プレゼンテーションを行う際に必要となる基礎的な語学力を身に付けてもらうことを目標に授業の内容を考えています。

今後の抱負は、学生がより興味を持って語学学習に取り組めるように、自分自身の英語と教授法のスキルをブラッシュアップさせていくことです。専門の研究を続けて、その成果を教育に還元していきたいです。

研究者を目指すみなさんへのメッセージ

自分の大学院時代を振り返ると、上手く出来たことよりも「もっとこうしておけば良かった。」と後悔や反省をすることの方が多いです。留学先や他大学の院生と自分を比べて、「何故自分は彼らのように上手くできないのか。」と悩みもしました。それらを踏まえて、以下に学生の皆さんへメッセージを記したいと思います。

1. 博士論文について
大学で専任教員の職を得るためには、博士号の学位が必須です。博士後期課程では自身の裁量で自由に使える時間が多くなりますが、その分油断すると博士論文を書かないまま終えてしまうことになりかねません。指導教官と綿密に相談を重ねて博論執筆計画を作成し、できるだけ計画に沿って作業を進めましょう。指導教官に要所要所(例えば章ごと)で原稿の締切を設定してもらい、定期的にフィードバックをもらって修正を施すことが大切です。そうすることで期限までに原稿を書く義務が生じますし、論文が独りよがりのものになる危険も回避できます。

2.学会活動と研究業績について
学会や研究会など学外の活動には積極的に参加してください。他校の院生と交流をすることで、研究上の刺激を受けることができますし、学会発表で様々なフィードバックをもらうことは研究者として研鑽を積むために必要です。専任教員公募では通常、博士号の学位とともに論文数本の研究業績が求められるので、大学院在籍中に研究業績を作っておく必要があります。博士論文を書きながら、その一部を口頭発表や論文で業績の形にしていくのが理想です。発表媒体に関しては、指導教官に相談して適切な助言をもらうと良いでしょう。

また、他大学の教員が自分の研究活動を知っていることは博士号取得後に就職活動を行う上で有利に働くと思います。私は日本での大学院生時代に学会活動を行わなかったために、学外の先生と面識が全くありませんでした。イギリスから帰国後、就職活動を始めた際に大学での仕事がすぐには見つかりませんでしたが、それには私の研究業績の不足が影響していたと思います。帰国後1年目は塾講師として働きながら日本で初めての研究発表を行いました。翌年には中央大学大学院でお世話になった先生方の紹介で他大学での非常勤講師職を見つけて、大学での教育活動を開始することができました。中央大学大学院に在籍していた頃から積極的に学会活動を行い、研究業績を作っていれば、もっと順調に就職活動を進めることができたのではないかと考えています。

3. 就職活動について:あきらめずに応募することが大切
昨今、人文系の大学院生、研究者をめぐる状況は厳しいと思います。大学院に進学する前に、学位取得後の就職は決して易しくないことはあらかじめ知っておく必要があるでしょう。私も博士号取得後、現在の勤務校に就職が決まるまでには、何回も教員公募に応募し、不採用通知を受け取りました。前述の事柄以外に就職に関して私にアドバイスできることがあるとすれば、とにかく諦めずに教員公募に応募し続ける、ということです。応募書類の作成や面接準備には多大な時間と労力を要します。それゆえ、不採用となった場合にはつらい思いをするかもしれませんが、決して自身の研究者、教育者としての価値が否定されるわけではありません。タイミングが合わなかった、もしくは縁が無かっただけだと考えて、応募資格に該当する大学に応募を続けてください。

4. 終わりに: 地方にも目を向けてみよう
現在就職活動中、もしくは近い将来に開始する大学院生には、東京や他の大都市以外の地域にも目を向けて欲しいです。生活の利便性や各種文化施設へのアクセスのし易さ等の理由から、都市圏の大学での就職を希望する研究者は多いですが、それだけに競争も苛烈だと思います。私自身、就職活動を始めた最初の数年は関東圏の大学に対象を絞って応募をしていましたが、上手くいきませんでした。その後、大学の場所にこだわらずに応募するようになり、現在の就職が決まったという経緯があります。不慣れな土地に移動することには不安が伴いますが、地方にも真剣に教育と研究に取り組む大学が存在しており、そこでは自分の能力が必要とされているかもしれません。研究・教育活動を行うフィールドを全国に拡げてみることを、ぜひ検討してみてください。

 

この記事の内容は、2021年7月時点のものです。

 

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