大学院

【究める vol.40】シンポジウム報告 「多摩地域の変容と地域資料の保存・活用 -地域持続のために-」

2021年01月29日

「究める」では、大学院に携わる人々や行事についてご紹介します。第43回は、文学研究科日本史学専攻の大学院生・博士前期課程1年 大沼 大晟(おおぬま たいせい)さんによる学術シンポジウムに関する報告です。全体のまとめとして、宮間 純一(みやま じゅんいち)准教授からもコメントをいただきました。
本記事にはシンポジウムの記録集も掲載しておりますので、関心のある方はぜひご覧ください。

学術シンポジウム「多摩地域の変容と地域資料の保存・活用 ―地域持続のために―」

シンポジウムをオンラインで進行している様子

2020年11月14日に、中央大学大学院文学研究科・中央大学政策文化総合研究所「地域社会の持続と歴史的資源の保存・活用」チーム主催のシンポジウム「多摩地域の変容と地域資料の保存・活用―地域持続のために―」がオンライン会議にて行われました。

本シンポジウムは、アーカイブズ、埋蔵文化財、図書館の各領域を横断して、今日までの多摩地域における、地域資料(図書館所蔵資料、考古資料、文書資料(民間所在資料・歴史的公文書)など)の保存・活用についての成果と課題を共有・議論し、今後いかに地域資料を保存・活用していくか展望することを目的として開催されました。

シンポジウムの詳細について

<開催の背景および課題>

高度経済成長期以来、地域社会の弱体化・解体が進み、21世紀以降には人口減少、少子高齢化が加速し、「地方消滅」が危惧され続けています。多摩地域もその例外ではなく、「地方消滅」の危機に今後一層直面することが予想されます。この「地方消滅」を阻止し、「地域持続」のための役割を期待できるのが地域資料です。地域の軌跡を伝える地域資料は、過去の事象を明らかにするだけでなく、地域アイデンティティ確立の一翼を担うことが出来ると言えます。

史料調査の風景

しかし、自然災害や、先述した人口減少や少子高齢化のために、地域資料を所蔵してきた旧名主家・郷土史家が喪失していくことなどによって、地域資料の消失や散逸が進む危険性が高いことも事実です。このような状況において、「地域持続」を支える地域資料を、いかに保存し、有効な活用をするかが課題となります。

<3氏による講演>

上記の課題を念頭に置き、本シンポジウムは進行され、宮間純一氏(中央大学文学部准教授)の趣旨説明「多摩地域の地域持続と地域資料」の後、地域資料を取り扱う第一線で実務に取り組んで来られた3氏により講演が行われました。

講演の内容は、以下のとおりです。

・鈴木直樹氏(日本学術振興会特別研究員PD)
  「自治体史編纂と地域資料の保存・活用 ―新八王子市史の活動を中心に―」

・合田恵美子氏(東京都埋蔵文化財センター副主任調査研究員)
  「地域資料としての埋蔵文化財」

・宮坂勝利氏(瑞穂町企画部企画課長・前瑞穂町図書館長)
  「地域資料の可能性は無限大―デジタルアーカイブで地域活性―」

本講演で、自治体史編纂事業、埋蔵文化財、デジタルアーカイブによる地域活性という、それぞれの視点から、多摩地域における地域資料の保存・活用についての到達点と課題を共有することが出来ました。

3氏の講演の後、小林謙一氏(中央大学文学部教授)と小山憲司氏(中央大学文学部教授)によるコメントがなされ、最後に本シンポジウム参加者により、それぞれの講演に対する討論が行われました。討論においては、地域資料の保存・活用について、さらなる諸課題が提起され、講演で指摘された課題を含め、その解決に向けた活発な議論がなされました。
 

■記録集について

本シンポジウムの記録集は下記よりご覧いただけます。 ※2021年3月1日追記

・記録集「多摩地域の変容と地域資料の保存・活用 ―地域持続のために―」

シンポジウムに参加して

本シンポジウムにおいて、地域資料の重要性を再確認し、これまでの多摩地域における地域資料の保存や活用方法を学ぶことが出来ました。そこから、今後の地域資料の保存や活用について、改めて考えさせられました。まずは、地域資料を永続的に保存できる環境を整え、それだけで満足せず、保存した地域資料を地域に還元していく方法を模索し、実行していく必要性を実感しました。また、領域を横断した講演内容によって、自身の専門領域外の地域資料の保存・活用についても知ることができ、今後、多角的な視点で地域資料について考えることが出来そうです。

多摩地域に位置する中央大学において日本史学を研究している私は、多摩地域の史料調査や自治体史編纂事業に従事させて頂く機会もあり、多摩地域の資料は切っても切り離せない存在です。そのため、今後からは、本シンポジウムで学んだ地域資料の保存や活用について、多摩地域の問題と結びつけつつ考えながら、地域資料を取り扱っていきたいと思います。

(文学研究科 日本史学専攻 博士前期課程1年 大沼 大晟)
 

宮間 純一(みやま じゅんいち)准教授からのコメント

私たち歴史研究者は、資料を守り、伝えてきた地域の人びと恩恵を受けて、研究に取り組むことが出来ています。大学院生には、将来研究者として活躍するのと同時に、地域資料を次の世代に伝える担い手にもなってほしいと思い、史料調査や地域資料のあり方を考える機会を設けています。