大学院

【究める Vol.23】修了生の声①

2020年03月30日

柏倉知秀さん(商学研究科博士後期課程2019年度修了)

柏倉知秀さん

 私の研究テーマは中世ヨーロッパの商業史です。特に,北ドイツのハンザ都市リューベックの商業活動について,現地の文書館に所蔵されている未刊行史料を利用した研究をしています。ハンザ(ハンザ同盟)とは,中世の北海・バルト海地方で商業活動に従事していたドイツ人の商人と都市の団体であり,現代ヨーロッパ経済の基礎を築いた歴史的現象の一つです。このハンザがおこなっていた商業活動の実態を解明するため,ハンザの中心都市であったリューベックで記録されていた14世紀後半の関税史料を分析するのが博士論文で取り組んだ研究内容です。

 

 私は現在までエンジニアを育成する工業高等専門学校で一般教養科目を教えながら研究を続けてきましたが,これまでの研究成果を博士論文としてまとめたいと考え,大学院博士後期課程に進学することを決意しました。大学院進学にあたっては,社会人入試の制度を活用することができたので,進学に対する心理的ハードルを下げることができました。同じような志を抱いている人にも社会人入試の制度をぜひ活用してほしいと考えています。

 

 仕事と研究を両立させるのは大変でしたが,指導教授の熱心な指導もあり,何とか3年間で博士論文を完成させることができました。この間,指導教授と研究の方向性について指導を受け,当初よりも研究対象を絞ったことが博士論文の完成につながりました。私が利用した史料は,リューベックの市立文書館に所蔵されている14世紀後半に作成された関税の記録です。2015年に7か月間,世界遺産に登録されているリューベックの旧市街で生活しながら,文書館に通って中世のゴシック草書体で書かれたラテン語の史料を解読する日々を過ごしました。その時の研究成果が博士論文の基礎となっています。博士後期課程の最初の2年間では,リューベックで解読したデータの分析と論文の執筆に集中しました。最後の1年間は事前指導審査委員会で博士論文の内容について指導を受けましたが,そのおかげで博士論文の完成度を高めることができました。

 博士論文を執筆した後も研究者としての生活は続きます。大学院修了後は博士論文で扱えなかった研究課題に引き続いて取り組んでいきたいと考えています。

峰尾菜生子さん(文学研究科博士後期課程2018年度修了)

峰尾菜生子さん

◎大学院時代の研究内容 

 私は、「大学生における社会間の特徴と形成要因―青年期発達と時代背景の視点から」と題した博士学位論文を執筆しました。「大学生は現在の日本社会をどのように見ているのか」という問いを、青年期発達の一般性、時代的特殊性、学生の個別性という視点から分析しました。

◎大学院生活を振り返って

  私は元々、臨床心理士になるために大学院進学を考えていました。きっかけの1つは、1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件です。当時、事件を起こした少年と同じ中学生であった私は、「心の闇」などというコメンテーターの説明に納得ができず、臨床心理学を学び、非行少年を理解したいと考えていました。しかし、大学進学後、さまざまな文献を読んだり、サークルやゼミで学生が成長していく様を実感したりするうちに、現在の社会に生きる青年全般に興味が出てきました。研究職という生き方を選んだ大学院生や教員の影響もあり、大学院進学の目的が、青年の発達を研究するためへと変わりました。
 大学院生活では、問題意識を先行研究と関係づけながらどう実証研究の形にしていくか悩んだり、「自分の研究は心理学なのか?」と葛藤したり、調査から得られた学生の「声」をどう分析したらよいか迷ったりしました。お金がなくて研究に支障が出ているけれど、仕事を増やすと研究時間が減るというジレンマに陥ることもありました。このような苦労はありましたが、「この視点から見ると対象を深く分析できそう」「この研究をしなければ、誰が学生のこの思いを聴けたのか」といった学問研究の面白さや意義、多様な分野の研究者・大学院生との交流のなかで研究テーマを根本から問い直したこと、大学院生の共同研究室という孤独にならない研究拠点などが支えとなり、博士学位論文完成にこぎつけました。

◎修了後の進路について

 現在、大学などで非常勤講師をかけもちしています。ゆくゆくは正規の大学教員になり、学ぶことの面白さを学生たちと一緒に体感したいと思っています。

◎受験生へ一言

 近年、「役に立つ」学問研究というのがより求められるようになっています。大学院進学にあたっては、「役に立つ研究とは何か」を考えてほしいです。「役に立つ」のであればどのような研究でもよいのか。「役に立たない」とされている研究は本当に役に立たないのか。「役に立たない」研究は存在してはいけないのか。ぜひさまざまな人々と一緒に考えながら、学問研究の面白さを味わってください。