「究める」では、大学院に携わる人々や行事についてご紹介します。第10回は法学研究科の只木誠教授にお話しを伺いました。

法 学 研 究 科
只木 誠 教授
ただき まこと
専 門 分 野
刑事法
担 当 科 目
刑事法特殊研究1・2(A)(刑法理論研究)
刑法演習1・2(B),刑法特講1・2(B)
特殊研究Ⅰ・Ⅱ(刑法)
研 究 姿 勢
フランスの作家アンドレ・ジッドが語ったといわれる「真実を探している者を信じよ。真実を見つけた者を疑え」と言う箴言は、よく引用される言葉です。
法律の研究は、社会においてより妥当する「真実」を探究することです。しかし、いくつもの要素が複雑に絡み合う、その部分集合とでもよぶべきところに真実を見いだそうとする作業にあって、他の学問においてもそうであるように、求める真実は容易には見えて来ません。だからこそ、もし、「これこそが!」と思う場面に出会ったならば、まずはその内容・中身を疑い、そのように思う自分を疑ってみる。それは決して臆病なのではなく、研究者には、いつもそんな態度が必要なのではないでしょうか。
研 究 手 段
現在、国際的な学術交流は、法学の分野においても進んでいます。グローバリゼーションという言葉が広まって久しいなか、法の世界におけるそれは、普遍的な価値の追究という視点から、自国法へのアイデンティティの自覚と異なる発想に立つ他国の法と法文化への理解と尊重のもと、汎用可能な新たな法システム、法の支配の形成を目指すこと、いえるでしょう。うち向きな学問態度に終始せず「そと」の法制度やその運用の「知恵」を学ぶことは、翻って、自国の法の在り方のよりよい発展につながりましょう。今後一層重要な学問分野として、比較法学はその意義と重要性を増しているのです。その意味で、これまで重ねてきた海外の研究者との学術交流は、国内学界におけると同様、有用かつ重要な学問資源であり財産であると考えています。
刑 事 法 学 に お け る 基 礎 的 視 座
最後に、研究のうえでは、刑事法学を追究するものとして、常々次の事柄を心に銘じたいと考えています。
「弱者に対してどのように、どれほど、法の手を尽くし差し伸べているかによって、その国の豊かさがわかる」
「良き社会政策は、最良の刑事政策である」
指導学生から紹介します!
指導教授との師弟関係については、「弟子は、師匠の教えに従うべきである」といったイメージをもたれるかもしれません。しかし、只木先生は、ご自身の見解を院生に強要することはなく、私たちが先生の見解とは異なる学説、理由付けを支持したとしても、その点については尊重してくださいます。ただ、そこで求められるのは、「納得のできる」理由付けであり、私たちは、演習授業あるいは個別の指導の中で、その点を厳しく問われることになります。本気で刑法、刑事法を極めたい者にとって、このような知的バトルの作業に携われるのは、至高の喜びであるといえるでしょう。
(博士課程後期課程3年Eさん)
研究テーマ
①生命倫理と法
人は、どのようにして尊厳ある生と死を実現することができるか。安楽死・尊厳死や終末期医療に関わる諸問題について、法的な側面から検討しています。
②故意論・錯誤論
刑法理論上、故意と過失はどのような要件において区別可能となるか。数故意犯説をいかにして責任原則に合致させるか。これが目下の大きな課題です。
③罪数論・競合論
実体法上ならびに手続法上、罪数論・競合論における問題点を探り、これをいかに解決すべきかを長く思索しています。
④矯正と法
受刑者の改善・更生に相応しい刑事処遇の在り方について、ソフト(政策)とハード(施設)の両面から考えています。
論文・著書・学会発表

『Aktuelle Entwicklungslinien des japanischen Strafrechts im 21. Jahrhundert(Mohr Siebeck Verlag、2017年)
- 『Aktuelle Entwicklungslinien des japanischen Strafrechts im 21. Jahrhundert
(Mohr Siebeck Verlag、2017年) - 『コンパクト刑法総論』(新世社、2018年)
- 編著 『刑法演習ノート ― 刑法を楽しむ21問』
(弘文堂、2013年) - 共著 『たのしい刑法Ⅰ 総論』(弘文堂、2012年)
- 共著 『たのしい刑法Ⅱ 各論』(弘文堂、2011年)
- 『刑事法学における現代的課題』
(中央大学出版部、2009年) - 『罪数論の研究 [補訂版]』(成文堂、2009年)
- 共著 『法科大学院テキスト 刑法各論』
(日本評論社、2008年) - Makoto Tadaki u. a., Globalisierung der Biopolitik, des Biorechts und der Bioethik?: Das Leben an seinem Anfang und an seinem Ende, Frankfurt 2007.
- 共著 『導入対話による刑法講義(総論) [第3版]』
(不磨書房、2006年)
最近のトピックス

2019年の秋、本学日本比較法研究所の主催にて、只木をコーディネーターとして、生命倫理と法を考えるシンポジウムが開催されました。本シンポジウムは、現代社会における大きなテーマである終末期における「人間の尊厳」と「生と死の在り方」をめぐる問題について、日本・ドイツ・スイスの専門研究者が法的な観点から検討するもので、その成果は今後のわが国の制度設計のための提言となることが期待されています。
受験生のみなさんへ
大学院では、学部において得た法的知識をさらに深め、法解釈学の論理を探究し、ひいてはこれをさまざまな社会の問題・課題の解決に結びつけるべく研究に取り組んでいきます。熱い心の皆さんをお待ちしています。
※掲載内容は2019年8月30日時点のものです。