社会・地域貢献

サギコロニーを未来へ繋げるために

お茶の水女子大学附属高等学校 1年 尾上 愛実

 私の住む埼玉県松伏町の隣の市、越谷市にはサギのコロニーがある。コロニーとは、野鳥などが集団で繁殖する場所のことである。私は、2013年から松伏町で野鳥の生息調査を行っている。松伏町にも、コロニーの方角からたくさんのサギが水田や河川に飛来している。
 本稿は、インタビューや実地観察などを通してサギコロニーの現状について知り、サギコロニーが存続していくために出来ることを考えたい。
 サギ類の中でも、ゴイサギ、ササゴイ、アマサギ、コサギ、チュウサギ、ダイサギ、アオサギの7種は、複数の種が集まってコロニーを作る。サギ類は木枝や草などを用いて皿型の巣を作り、一本の木に数十もの巣がかけられることもある。
 国土交通省江戸川河川敷事務所によると、越谷市のサギコロニーは、埼玉県越谷市中島3丁目付近の利根川水系中川右岸の河川敷の、新方川と中川の合流地点付近にある。2019年現在アオサギ、ダイサギ、チュウサギ、コサギ、ゴイサギ、アマサギの6種が繁殖している。長年に渡って観察を続けている埼玉県生態系保護協会吉川支部長の石川三男氏によると、統計はないもののダイサギとチュウサギが多く、次いで多い順にコサギ、ゴイサギ、アマサギ、アオサギのようだ。現在中島地区で繁殖しているサギのうち、チュウサギが環境省レッドリストで準絶滅危惧、埼玉県レッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。サギコロニーの植生は、マダケを中心とする。サギは、コロニーに三月中旬に集まり始め、九月中旬頃にいなくなる。個体数は、2016年の江戸川河川事務所の調査によると約2880羽が確認されていて、3000羽規模と予想される。夜行性のゴイサギ以外のサギは、日中は餌場に出かけて日没前後に巣に帰ってくる性質があるので、私は2019年8月10日の日没前後に相当する18時から18時50分の間、対岸の吉川市からコロニーを観察した。前述の6種すべてが見られ、3000羽規模のうち1065羽確認できた(表1)。なお、この個体数の差は私の観察位置が低く、見えない部分も多くあったためと考えられる。吉川市役所環境課によれば、このサギコロニーが初めて確認されたのは、2000年である。それ以前には吉川市の私有地の屋敷林で繁殖していたが、鳴き声と糞害に困り、追い払うために屋敷林の竹を伐採したことで、越谷市中島地区へ移動したようだ。
 埼玉県内にはかつて、現在のさいたま市浦和区上野田に「野田の鷺山」と呼ばれるコロニーが江戸時代から存在していたが、1978年に消失した。その原因は、餌場であった見沼田んぼの畑作化、宅地化の進展、農薬汚染、交通量の増加、竹木の枯死などと考えられている。また、埼玉県内の大規模なサギコロニーは、1992年には14ヶ所あったのに対し、2016年では越谷市中島地区を含む3ヶ所のみと減少している。原因は、前述した以外に騒音や臭い対策としての木の伐採による追い払いも考えられる。
 江戸川河川事務所の調査結果によると、中島地区のサギコロニーでは2007年に1000羽ほどだった個体数が2016年には3000羽近くと、増加傾向にある。その理由と現状、コロニーを存続させるための対策を私なりに考えた。
 中島地区においてサギの個体数が増加しているのには、三つの理由が考えられる。
 一つ目の理由は、このサギコロニーが河川敷にあり、近くに人家がないことだと考える。サギ類のコロニーでは、ヒナや夜間のゴイサギの声、糞やヒナの死体の臭いなどが発生する。ここのサギコロニー付近では、越谷市に一軒の農家があるだけであり、中川の対岸の吉川市に住宅密集地があるものの、間には中川と埼玉県道67号線があり、両者は約80メートル離れている。前述の石川光男氏によると、越谷市の住民も吉川市の住民も声や臭いは気にならないと言っていたという。私も実際にサギコロニーの対岸の吉川市に行ってみたが、県道67号線はトラックなどの交通量が多く、サギの声は車の音でかき消されていた。また、人家が近くになくサギが安心して寝られるためか、暗くなり交通量が減るにつれてヒナの声が小さくなっていった。吉川市環境課によると、サギコロニーへの苦情は来ていないそうだ。このことから、このサギコロニーは苦情による追い払いの心配はないと言える。しかし、江戸川河川事務所によると利根川水系中川綾瀬川河川整備計画があり、今後工事が行われれば、コロニーの消滅の危険性がある。
 二つ目の理由は採食場所が多いからだと考える。サギ類は主に田で魚などの水生生物や昆虫などを食べ、埼玉県では水田で採食する割合は77%に上る。越谷市では2014年から2017年にかけて、土地面積を100%としたとき田は1.6%減少して15.4%に、池沼は0.6%増加して0.8%といる。吉川市では2006年から2018年にかけて、同様に土地面積を100%としたとき田は3.4%減少して33.2%に、池沼は変わらず0.1%となっている。江戸川河川事務所によると、中島地区のサギコロニーから10キロから最大15キロ圏内の水田、湿地がサギの採食圏となっていて、コロニーから10キロ圏内の採食範囲では、水田分布が多い。しかし、10キロ圏内の市町村の松伏町では工業団地建設の動きがあり、今後水田が減る可能性が大きい。また、絶滅危惧種のチュウサギは特に水田に依存する傾向があるので、チュウサギを守るためにも水田を守る必要がある。
 三つ目の理由は、消滅したサギコロニーからの流入だと考える。2013年には深谷市、2014年には鴻巣市の大規模なサギコロニーがそれぞれ消滅している。少数のコロニーにサギが集中すると、どこか一ヶ所で伝染病や災害が起こった際に種全体が大きなダメージを受けてしまう危険性がある。そのため、サギコロニーを将来的に存続させることを考えると、サギをなるべく多くのコロニーに分散させるほうが望ましい。
 このように、一見個体数が増加していても課題がある。では、どうすればいいのだろうか。
 一つ目の対策は、今後河川工事を行う際に、サギコロニーの部分を残す形で河川工事を進めることだ。また、鳥の模型等を用いてサギコロニーを移動する案もある。移動先は松伏町にある県営まつぶし緑の丘公園の池が良いと考える。この池は木々に囲まれていて、人が立ち入れない区域もある。また、池に面して水田があり、近くには古利根川がある。公園の北側にはホームセンターがあるが、池との間には距離があるため、鳥害も少ないと考える。また、この地域は比較的水田が多く民家が少ない。今のサギコロニーからこの公園までは少し距離があるが、その中間あたりにある私の家の上空を行き来する個体も多く、松伏町北部まで採食に行っている個体も一定数いると考えられるので、コロニーの移動も可能だと考える。
 二つ目の対策として、水田を守るために米の付加価値を高める必要がある。サギは水田の様々な生き物を食べるため、水田の生態系の豊かさを測る一つの目安となる。そこで、「サギ米」や「サギ餅」「サギ米酒」などを作ってPRすれば、水田と水田の生き物とサギを同時に守ることができると思う。
 三つ目の対策として、サギコロニーの候補地を増やすためには、水田と繁殖するための林を残し、必要があれば植樹する必要がある。そのためには、住民の理解が必要である。
 サギを守るためには、まず種別個体数、構成種割合などの統計を取り、現状を正しく知る必要がある。また、これらの活動には、地域住民を含めた人々への周知と理解が必要だ。現在行われている取り組みは、越谷市の越谷いきもの調査や吉川市の自然観察会、日本野鳥の会埼玉の越谷市・サギのコロニー観察会がある。そこで、越谷市・吉川市だけでなく、他県を含めたサギコロニー周辺地域と、中川水系など周辺区域全体での講習会を開催する。また、埼玉県内のサギコロニー候補地を増やすために、農業従事者などに行政が講習を行う。学校の自然学習として、小中学生にもサギコロニーについての講習や観察会を行う。それらの活動でサギコロニーについての小冊子を作り、配布する。そして「サギ米」などのPR商品の開発やサギコロニーの保全活動を行う。PR商品は市場に出すが地元でも販売し、地域の祭りや餅つき大会などでも使用することで、多くの人にサギコロニーのことを知ってもらう。しかし、全国的に見ると、サギの糞害や養殖魚の食害などで実際に困っている住民もいる。そこで、住民と話し合いを行い、養殖場に網をかけるなどの対策も適宜取り、サギをただ守るのではなく、人と共存できるような保全活動をしていかなければならない。
 中島地区のサギコロニーでは、オオタカなどの猛禽類もサギのヒナを狙って現れる。私が観察した時も、オオタカの若鳥が2羽見られた。サギコロニーを守ることは、サギだけでなく他の希少生物を守ることにもつながる。また、中島地区のサギコロニーで繁殖するサギのうち、チュウサギとアマサギは日本で繁殖し、東南アジアで越冬する夏鳥である。彼らの越冬地を守るために、東南アジアの田畑などの自然を守る必要がある。買い物の時にフェアトレード商品を選択するのもサギの保全につながるはずだ。また、現在日本野鳥の会で行っている、フィリピンでのサシバの現地調査への光学機器の寄贈の取り組みを参考に、世界的なサギの保護も視野に入れた活動も必要になってくるだろう。
 これらの保全活動において重要になるのがNPOなどの自然保護団体だと考える。それらが主催する調査にボランティアとして活動に参加する機会も増えるだろう。こうしたボランティア活動やPR商品開発を自治体や地元のシルバー団体が中心となって行えば、高齢者も地域に貢献でき、健康を維持することにもつながるだろう。
 このように、高齢者から子どもまで地域住民全体でサギのことを知り、保全に向けて動くことが、サギコロニーを存続させる第一歩になると思う。

◆参考文献

  • 環境庁自然保護局 (財)日本野鳥の会 「第4回自然環境保全基礎調査 動植物分布調査報告書(鳥類の集団繁殖地及び集団ねぐら) Ⅱ.サギ類の集団繁殖地と集団ねぐらの現状と動向」
    http://www.biodic.go.jp/reports/4-03/e031.html (参照日:2019年8月12日)
  • 江戸川河川事務所 調査課 松本 「利根川水系中川における鳥類集団営巣地の今後について」
    https://www.mlit.go.jp/river/kankyo/main/kankyou/tashizen/pdf/h29_1_1.pdf (参照日:2019年8月12日)
  • 環境省 「環境省レッドリスト2019 鳥類」
    https://www.env.go.jp/press/files/jp/110615.pdf (参照日:2019年8月12日)
  • 埼玉県 「埼玉県レッドデータブック2008 動物編 鳥類」
    https://www.pref.saitama.lg.jp/a0508/red/documents/351262.pdf (参照日:2019年8月12日)
  • 江戸川河川事務所 『埼玉県内の平成29年度時点のコロニー』(吉川市環境課より入手)
  • さいたま市 「見沼田んぼとそのほとり 幻のサギ山」
    https://www.city.saitama.jp/midori/001/002/005/004/p010248_d/fil/midori3-2.pdf (参照日:2019年8月12日)
  • 環境庁自然保護局 (財)日本野鳥の会 「第4回自然環境保全基礎調査 動植物分布調査報告書(鳥類の集団繁殖地及び集団ねぐら) アンケート調査結果 サギ類 繁殖地」
    http://www.biodic.go.jp/reports/4-03/e248.html (参照日:2019年8月12日)
  • 埼玉県 「田んぼの鳥サギ類」
    https://www.pref.saitama.lg.jp/cess/torikumi/911-20091224-1424/documents/14822.pdf (参照日:2019年8月12日)
  • 越谷市 「越谷市統計年報 平成29年度版 1.土地利用・気象」
    https://opendata.pref.saitama.lg.jp/data/dataset/0f73c9a7-b752-4967-819b-b28e3cf7fb51/resource/5536e57e-d0a2-4e13-90e9-f128bd33ec11/download/no.1291..xlsx (参照日:2019年8月12日)
    越谷市 「越谷市統計年報 平成28年度版 1.土地利用・気象」
    https://opendata.pref.saitama.lg.jp/data/dataset/0b378825-f7dd-4b68-bb8c-9bc8e7fb5f7e/resource/87ff2e3e-96c6-4919-b250-e2f3a561c9cb/download/no.1281..xlsx (参照日:2019年8月12日)
  • 吉川市 「統計書よしかわ (平成30年度版) 地目別土地面積の割合」
    https://www.city.yoshikawa.saitama.jp/index.cfm/27,71467,c,html/71467/20190226-165258.pdf (参照日:2019年8月12日)
  • 江戸川河川事務所 『中川中島地区のコロニー』(吉川市環境課より入手)
  • 日本野鳥の会埼玉 『しらこばと 2019年8月号』p.7
  • 高野伸二(他) 『フィールドガイド日本の野鳥 増補改訂新板』、公益財団法人 日本野鳥の会、2015、p.110
  • 日本野鳥の会 会員向けチラシ 『サシバの保護・調査を支援しよう 光学機器のご寄贈&買い替えキャンペーン』
  • インタビュー
    埼玉県生態系保護協会吉川支部長 石川三男氏(8月5日)
    吉川市役所環境課 (8月5日)
    日本野鳥の会埼玉幹事 橋口長和氏(8月10日)
  • 電話取材
    越谷市役所環境政策課 備藤淳氏(8月10日)
    国土交通省江戸川河川事務所 調査課(8月5日)
  • メール取材・インタビュー
    日本野鳥の会埼玉代表 山部直喜氏 (8月10日)

表1 尾上愛実による中島地区サギコロニーの個体数調査
調査場所:中島地区サギコロニーの対岸の吉川市河川敷
調査年月日:2019年8月10日18時00分~18時50分
調査方法:コロニー内のサギの個体数を双眼鏡とカウンターを用いて数える。
確認種:ゴイサギ、アマサギ、コサギ、チュウサギ、ダイサギ、アオサギ

調査時刻 調査結果(羽)
18時24分 587
18時31分 878
18時46分 1065

(この日の日没は18時38分)