東京都の駅の緑化を実現するために

渋谷教育学園渋谷高等学校 2年 五十嵐 詩帆

1. はじめに
 大都市東京では一極集中化によるヒートアイランド現象が見られる。また、近年日本人の環境問題に対する意識は十分上がっておらず、個人では何をすべきかわからない、という人が多い。
 ヒートアイランド現象に対する取り組みとして、私は緑化事業に注目した。緑化には他にも景観の改善やストレス軽減など、様々な利点があるが、現在それが最大限に活かされていないと感じる。効果を最大限に活かし、さらに人々の環境に対する意識の向上に繋がる緑化はないのか。つまり、より多くの人に届くような緑化はないのか。
 そう考えている時、私の最寄り駅である水天宮前駅に水槽があることを思い出した。この水槽は毎日多くの子供や通勤・通学者の目を引いている。そこで、私は駅で緑化をするという可能性に気がついた。この論文では駅の緑化による利点と、どうすればそれが広範囲な東京都心で実現できるのかを、提案し検証した。

2. 環境問題解決への一案:緑化
 緑化とは街に植物を植え、公園やグリーンスペースを増やす営みをさす。近年は主に壁面緑化と屋上緑化が行われてきた。
 緑化はヒートアイランド現象に対して有効である。この現象は街の排熱量と、熱を吸収しないコンクリートの増加によって、街の気温が上昇することを指す1。緑化によって植物を増やして蒸散作用を起こし、熱の吸収率をあげることができる(図1)。

図1:ヒートアイランド現象の仕組みと緑化の効果(気象庁ホームページより引用)

 また、緑化は街の景観も改善し、安らぎをもたらす2,3。自然が人間に与える精神的な影響に関するある研究によれば、日常的に自然に多く触れたほうがストレスホルモンのコルチゾールの分泌量が低下し、ストレスに対応することができることが判明している4。グリーンスペースは、より多くの人々にこの効果をもたらすと考える。
 これまでの緑化においては、例えばデパートにグリーンスペースがあったとしても、人々が自らそこに足を運ばなければ、ストレス緩和の効果は大規模には発揮されない。これまでとは異なる緑化を行えば次の二つの問題も改善できると考える。
 一つ目は、満員電車の通勤・通学によるストレスの問題であり、これは多くの人を悩ませている5,6。駅における緑化は広い範囲でストレスの改善につながると考える。
 二つ目は、人々の環境問題に対するアウェアネス(意識)の問題である。環境問題とは大きな問題なので、個人からは遠い存在になりがちだ。そのため、環境問題の解決は企業や政府の責任だと認識されることが多い。しかし、人々は消費者として責任を負っていて、実際各消費者の意思により例えば化石燃料が利用され続けている。人々の日常的な習慣は環境問題を悪化させているが、一人一人の消費は小さいからこそ、それが積み重なって歯止めが効きにくくなっている7。しかし、それを裏返すと、多くの人が資源節約やプラスチック削減などを行えば、環境問題は改善できると言える8。そのため、アウェアネスは大変重要なのだ。
 日本人の多くは環境問題をどうにかしなければならないと思っているものの、社会における情報共有が不十分なため、問題が抽象的になっている9。(図2)

図2:2016年 国立環境研究所による環境意識に関する世論調査より

 さらに、年々環境問題への関心が低下しており、環境改善に何をすれば良いのかがわからない、と考える人が増えている10。(図3)

図3:花王 生活者研究センター調べ生活者実態調査

 また、海外の一例であるEUの調査では個人にできることがあると考える人が85%と多く11、日本人の意識はまだ向上する余地があると言える。
 アウェアネス向上のためには、環境問題として社会で共有されるべきことを明確化するとともに、環境問題を個人にとってより身近なものにする必要がある。
 東京都心の駅には毎日大勢の人々が集まる12。小規模な駅も店や設備を備えていることが多く、地域の中心的な存在である。多くの駅で緑化を行い、同時に環境問題に関するポスターなどで啓発活動を行えば、大勢の人の注目を集めることができる。通勤・通学者は朝も夜も緑に触れるため、自然はもっと身近な存在となり、環境問題への関心が必然的に高まると考えられる。
 なお、現状で駅の緑化があまり見られない大きな理由は、鉄道会社の負担が大きいからであると考える。そこで駅の緑化を広範囲で実現させるために、以下の提案をしたい。

3. 提案
 通路の壁面(図4a.)や地下降り口の屋根(図4b.)などの駅内スペースを、大規模な駅では緑化を条件に広告スペースとして他企業に貸与する。鉄道会社の負担は減り、他企業はグリーンスペースに自社のロゴを入れるなどしてより消費者にCSRのアピールをできる。現在企業はCSRをしていても消費者が主体的に調べなければそれを知ることができないが、この仕組みではより多くの人に知ってもらえる。
 また、広告効果が小さいと考えられる小規模な駅では他企業だけでなく自治体や政府、民間団体と連携できる。これにより、行政はポスターによる啓発活動等で都民の意識を高め、地域コミュニティの結びつきは強くなる。

a.

b.

図4:緑化できるスペースのイメージ

 緑化スペースにおけるポスターの掲示を提案するが、「インスタ映え」の要素を入れてデザイン性を高めれば、若者にも興味を持ってもらえる。駅によってデザインや植物を変えて、スタンプラリーを実施することによっても広報効果をさらに高めることができる。

4.方法と検証
 提案の実現性を検証するためにいくつかのインタビューを行い、今後の課題や新たな方法が明確になった。

A. JR東日本へのインタビューと四ツ谷駅の見学
 JR東日本はエコステーションという、駅に様々な環境保全技術を取り入れる事業を行っていて、その一つが四ツ谷駅である。駅の屋根にはソーラーパネルを設けたり、自然光で駅を照らしたりするなど(図5)エネルギー削減に対する工夫が見られる。
 四ツ谷駅の「屋内・ホームの緑化」には、擁壁緑化(溶岩パネルを設置することによって雨水を貯め、苔などを生やす緑化)や上家緑化(ホームの屋根を苔緑化マットで覆うことで重量を考慮した軽量な緑化)(図6)などがある。また、JR東日本は東鉄工業株式会社と連携して緑化をしている。東鉄工業はデザイン性にこだわった緑化技術(図7)を利用している。
 意識向上に関しては、駅利用者との協力によってボトルキャップの回収を行い、掲示板で報告をしている。また、地域とのエコ活動として駅の敷地内で新宿内藤とうがらしを栽培し、新宿区と連携して地域美化にも参加している13

インタビューと見学を踏まえた考察
 現状の取り組みに関して、擁壁緑化はローコストで、使われる苔は乾燥に強いため、地上ではより多くの駅で導入できると考える。しかし、地下の駅では難しいため、地下ではどのような緑化ができるのかを今後調査する必要がある。
 また、現状では他企業との連携は難しいが、政策によっては変わる可能性がある。自治体との連携では四ツ谷駅などの事例があるため、企業との連携より実現性は高い。

B. 東急へのインタビュー
 東急はもともと街の開発を目的としてできた会社で、環境づくりにも深く関わっている。近年は「美しい時代へ」をスローガンに環境問題に取り組んでいる13
 東急は「みど*リンク」アクション14という、緑化のアイディアを公募によって募集し、優れた企画を支援する取り組みを行っている。企画を支援するための資金は、「乗ってタッチ みど*リンク」という、TOKYU CARD会員が専用端末にICカードをタッチすると東急が「みど*リンク」の活動資金を拠出するシステムで集めている(図8)。この活動によって公園のバラ園化などが進められてきた。

 駅では広い範囲でエネルギー節約に取り組み、元住吉駅や世田谷線の駅などの地上の駅で緑化をしている。

インタビューを踏まえた考察
 現状の取り組みをさらに発展させ、例えば会員ではない駅の利用者も資金調達に関われる形にしたり、車内広告などを利用して啓発したりできると考える。他企業との連携に関しては、広告料の問題などで対象となる企業は限られるので、実現性はあまり高くはない。一方で地域との連携では事例があるため実現性は高い。また、行政のポスターは無償で貼れるので、場所に余裕があればポスターを利用した啓発活動は可能である。

インタビューを踏まえた考察
 現状都として駅の緑化に関われる部分は少ないが、緑化に何を求めるかの価値観が変われば、都の関わり方は変化すると考えられる。また、駅のように部分的にしか緑化を行えないところは補助金交付の対象とはなりにくい。意識向上については今行政が検討中であるため、提案したポスターの設置は、無償だということもあり、実現性が高いと思われる。

5. 結論
 検証を通して、以下3点の結論となった。

  1. 現在駅の緑化が普及していない理由には、防災スペースの確保・企業にとっての優先順位の難しさ・行政の方針など、複雑な現場の様々な理由がある。そのため、緑化を行うとしても特定の場所でのみ行えるだろう。
  2. 提案のうちで最も実現性があるのは、地域や自治体と鉄道会社の連携と、行政によるポスター設置である。
  3. 駅の緑化以外にも立地に関係なく行えるボトルキャップ回収や「みど*リンク」活動を、今後より広範囲で行えると良いだろう。

 私の提案にはすぐに取りかかれることもあれば、問題点も多い。駅の緑化をもっと普及させるなら、今後行政は駅の緑化の重要性を検討し、制度に反映させる必要がある。また、どのような場所で緑化が可能なのかと、どのようなポスターデザインや発信方法が良いのか、より細かく研究する必要がある。
 駅の緑化の事例は少ないこともあり、提案に多くの問題点があることが判明した。しかし、今後何をするべきかを一つずつ押さえることができた。環境に対する意識はどうすれば上がるのか。これは非常に悩ましい問題だが、私は駅の緑化に鍵があると信じている。

 

◆参考文献

  1. 気象庁 (2018) 「ヒートアイランド現象」, 『気象庁|ヒートアイランド現象の要因は何ですか?』[https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr_faq/02/qa.html]
    (2019年5月16日閲覧)
  2. Bratman, Gregory N., et al. “Nature Experience Reduces Rumination and Subgenual Prefrontal Cortex Activation.” PNAS, National Academy of Sciences, 14 July 2015, www.pnas.org/content/112/28/8567.abstract?sid=2c8fb236-95aa-4b2f-9b56-768a6960ed47.
    (2019年4月9日閲覧)
  3. Ulrich, RS. “View through a Window May Influence Recovery from Surgery.” Science, American Association for the Advancement of Science, 27 Apr. 1984, science.sciencemag.org/content/224/4647/420.abstract.
    (2019年4月9日閲覧)
  4. Thompson, Catharine Ward, and Jenny Roe. “More Green Space Is Linked to Less Stress in Deprived Communities: Evidence from Salivary Cortisol Patterns.” Landscape and Urban Planning, Elsevier, 20 Jan. 2012, www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0169204611003665.
    (2019年4月9日閲覧)
  5. マクロミル (2018) 「電車での通勤通学調査」, 『市場調査メディア ホノテ』[https://honote.macromill.com/report/20161011/]
    (2019年4月3日閲覧)
  6. 厚生労働省 (2017) 『『平成29年労働安全衛生調査』[https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/h29-46-50_kekka-gaiyo02.pdf]
    (2019年4月16日閲覧)
  7. Valle, Gaby Del. “Can Individual Consumer Choices Ward off the Worst Effects of Climate Change? It's Complicated.” Vox, Vox, 12 Oct. 2018, www.vox.com/the-goods/2018/10/12/17967738/climate-change-consumer-choices-green-renewable-energy.
    (2019年4月13日閲覧)
  8. Ortiz, Diego Arguedas. “Future - Ten Simple Ways to Act on Climate Change.” BBC, BBC, 5 Nov. 2018, www.bbc.com/future/story/20181102-what-can-i-do-about-climate-change.
    (2019年4月13日閲覧)
  9. 国立研究開発法人 国立環境研究所 (2016) 『環境意識に関する世論調査報告書 2016』[https://www.nies.go.jp/whatsnew/2016/jqjm10000008nl7t-att/jqjm10000008noea.pdf]
    (2019年5月27日閲覧)
  10. 花王株式会社生活者研究センター (2018)「環境・エコへの関心は低下傾向が続く」 『くらしの現場レポート2018』 [www.kao.co.jp/content/dam/sites/kao/www-kao-co-jp/lifei/report/pdf/45.pdf.]
    (2019年5月26日閲覧)
  11. European Commission. Special Eurobarometer 416 Attitudes of European Citizens towards the Environment. European Union, 2014, p. 20
    (2019年5月26日閲覧)
  12. 東日本旅客鉄道株式会社 エコロジー推進委員会事務局『JR東日本グループサステナビリティレポート2018』[https://www.jreast.co.jp/eco/report/2018.html]
    (2019年4月28日閲覧)
  13. 東京急行電鉄株式会社 社長室 広報部 広報企画課『TOKYU CORPORATION 2018-2019』[https://www.tokyu.co.jp/tokyu/ebtkk-2018-19/html5.html#page=1]
    (2019年8月10日閲覧)
  14. 東京急行株式会社「乗ってタッチ みど*リンク」『東急グループ』[https://www.tokyu.co.jp/nottetouch-midorink/]
    (2019年8月8日閲覧)