社会・地域貢献

マイクロプラスチック削減に向けた環境教育方法の確立

筑波大学附属坂戸高等学校 3年 笠間 大生

1、はじめに
 現在、マイクロプラスチックは世界的な問題となっており、その被害は多くの海洋生物に起きている。例として、ゴカイがある。ゴカイはマイクロプラスチックの誤食によって生存率や生殖の低下などが見られる。これによって、ゴカイが減少し生態系のバランスの崩壊につながると考えられている。(山下ら、2016より)
 このような、マイクロプラスチックによる生態系への影響を減少させるには、プラスチック製品の使用を減らすことや、プラスチックを適切に処理することなどがある。そこで、プラスチックを環境中に捨てないようにしてもらうために環境教育の実施を考えている。
 マイクロプラスチックについての環境教育は、海や湖周辺の小学校などで行われている。しかし、海から遠い地域ではそういったことはされていない。その原因として、マイクロプラスチックについての環境教育が、砂浜や海岸に打ち上げられたマイクロプラスチックを観察するという取り組みの形をとっているからだ。これによって、海や湖が近くにない場所での実施は難しい。そこで、海や湖が遠くても実際に見て学ぶ実験や観察を中心とした、参加型の環境教育を実施するための実験方法の開発を目的とする。

2、対象
 対象は小学生である。理由は、彼らは多くのことに興味を持つ年代であるため、生物や環境などと言ったものに強い関心を持つかもしれないからだ。また、今回の活動によって、将来的に多くの新しい考え方や発見をする可能性がある。そこで、感受性豊かな小学生を対象にした。

3、マイクロプラスチックとは
 マイクロプラスチックとは5㎜~100nmのプラスチックのことを言い、現在世界的な問題となっている。そして、このマイクロプラスチックには大きく分けて2種類のものがある。1種類目が「1次マイクロプラスチック」である。これはレジンペット(プラスチック製品の中間材料のことで、成形する前の物)やマイクロビーズ(主に洗顔剤などに含まれるもので、細かいビーズ状の物)などがある。次に2種類目は「2次マイクロプラスチック」である。これは、レジ袋やペットボトルなどの大きなプラスチックが原因で発生するマイクロプラスチックのことで、海で発見されるマイクロプラスチックの多くを占める。発生までの過程だが、プラスチックごみが自然環境中に放出されると川や用水路などに流れ込み、最終的に海や湖に流れ込む。すると、海上や湖上で太陽から出る紫外線や波の力によって細かくされ、マイクロプラスチックとなる。

4、研究
(研究の目的)
 先行研究として、『日本内湾および琵琶湖における摂食方法別にみた魚類消化管中のマイクロプラスチックの存在実態』(牛島ら、2018)がある。この実験方法を環境教育に組み込もうとすると、マイクロプラスチックの多く出る魚種が生での入手の難しいカタクチイワシであることや溶剤が一般では手に入れることの難しい水酸化カリウムを使用しているため簡単に実験をすることができない。そこで、より簡単な実験方法を開発することが目的である。
(実験)
2種類の実験を行った。
【実験1】実験試料の調査
 実験試料は、海が近くに無い地域でも実施できるように、スーパーや魚屋で入手でき、ほぼ一年を通して流通している価格の安い「マイワシ」を実験試料とすることとした。マイワシは、先行研究の中で2番目に高い発見確率を示していた魚種である。しかし、実験試料からマイクロプラスチックがある程度検出されなければ、環境教育では使えないため、どの程度出るのか調査した。また、実験試料にはそれぞれ番号を付け、産地、購入日、魚の重さ、全長、体長の記録を行い、消化管を取り出し保存した。
 また、処理方法は先行研究『日本内湾および琵琶湖における摂食方法別にみた魚類消化管中のマイクロプラスチックの存在実態』(牛島ら、2018)の実験をもとに多少改良を加えた。まず、魚はマイワシを使用し、水酸化カリウムを実験2の結果をもとにしてパイプ洗浄剤に変更した。これらの事を踏まえて、クリーンベンチを使用しホコリや塵の入らないように実験を行った。そして、パイプハイターをビーカーに80mlずつ入れ、消化管を入れた。ホコリや塵の混入防止のためにアルミホイルを上からかぶせ、およそ1日間放置。その後、サンプルに精製水およそ80mlを加え、ストッキングを使ったろ過機でろ過を行った後、フィルターについた物質をシャーレに移した。これを実体顕微鏡と光学顕微鏡を使用して観察した。
【実験2】魚の消化管を溶かすための溶剤の選定
 溶剤は3種類の実験を行った。まず一つ目に塩素系漂白剤、二つ目にパイプハイター、三つ目にポリデントである。これらは、骨格標本などを作る際などに、使用するためタンパク質の溶解に適していると考えたためこの3種類にした。
 この実験ではそれぞれの薬品を100mlずつペットボトルに入れ、マイワシの消化管を入れた。その後放置しどれが一番溶けるのか調査した。

5、結果

写真1

【実験1】
 実験1ではマイワシでは70個体分のデータを取った。うち、10個体分は実験に失敗してしまいデータを取ることができなかった。また、20個体分のデータも8月29日現在調査中である。残る40個体分の調査結果は表1に示した。このうちマイクロプラスチックと同等の物が発見された個体は14個体であった。(写真1)これらのことから現段階での発見確率を以下の式で求めた。

「発見確率(%)=マイクロプラスチックが発見された個体÷調べた全体の個体数×100」

 結果、発見確率は全体の35%であった。また、産地別にみると、房総沖では50%、三陸南部沖では40%、日立・鹿島沖では10%であった。
 また、8月28日に東京湾で魚を採取した。種類は、「アジ」、「ウミタナゴ」、「サバ」の三種類であった。当初予定をしていた魚種とは異なるがデータを取った。(表2)
 
 表1「マイワシのデータ」
 
 
 表2「8月28日に釣った魚のデータ」
 
 
【実験2】
 実験2では結果として、図1を見ると最もきれいに溶けているのがパイプハイターであることがわかる。その次に塩素系漂白剤、ポリデントの順であった。ポリデントでは、水に入れる量によって溶け具合の変化が現れるのではないかと考え、錠剤の量を変えて再度実験してみたものの、特に変化は見られなかった。

図1 溶剤実験の結果

 

6、考察
 実験1からは、40個体しか調べていないがマイクロプラスチックの発見確率は35%と比較的低い値である。このことによって、環境教育での使用の際には多くのマイワシを集める必要があることが分かる。これは多少環境教育が大変になってしまうことを意味する。しかし、産地別に値を見ると房総沖では50%と高いのに比べ、日立・鹿島沖では10%と低い値を示している。つまり、様々な産地の物の調査を行えば、マイクロプラスチックが多く発見される産地があると考えられる。今後、多く発見される産地の調査を行っていきたい。そこで、『日本内湾および琵琶湖における摂食方法別にみた魚類消化管中のマイクロプラスチックの存在実態』(牛島ら、2018)によると、東京湾産のカタクチイワシから発見されるマイクロプラスチックの確率が79.4%と高い。これらのことから、今後は東京湾または東京湾周辺の海域が産地となっている魚の調査を中心に行う予定である。
 実験2からはパイプハイターは市販されている溶剤の中で一番よく溶けるため非常に優れていることがわかる。しかし、パイプハイターは塩素系のガスを発生させる恐れがあることや目や口に入ると非常に危険であるため、環境教育での安全性に欠けるのではないかと考えている。対策案としては、換気をしっかりと行い、パイプハイターをペットボトルなどの密封できる容器に入れ安全性を高めて行うことを考えている。

7、まとめ
 今回の実験により、魚からマイクロプラスチックを論文の方法より簡単に取り出す方法を見つけることができた。しかし、マイクロプラスチックはあまり高い割合で発見することができなかった。これは、マイクロプラスチックの検出には地方性があるためだと考えられる。今後は産地別にみた実験が必要である。

◆参考文献
【図書】

  1. チャールズ・モア(著者)、カッサンドラ・フィリップス(著者)、海輪 由香子(翻訳者)「プラスチックスープの海 北太平洋巨大ごみベルトは警告する」NHK出版、2012年
  2. 眞 淳平 「海はごみ箱じゃない!」岩波ジュニア新書、2008年

【サイト】

  1. 「朝日新聞デジタル」最終閲覧日6月5日
    www.asahi.com/eco/chikyuihen/oceanplastic/
  2. 「東京新聞」最終閲覧日6月19日
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201806/CK2018063002000276.html
  3. 「SCジョンソン」最終閲覧日6月19日
    https://www.pipeunish.jp/product/index.html

【論文】

  1. 牛島 大志、田中 周平、鈴木 裕識 、雪岡 聖、王 夢澤、鍋谷 佳希、藤井 滋穂、高田 秀重「日本内湾および琵琶湖における摂食方法別にみた魚類消化管中のマイクロプラスチックの存在実態」 水環境学会誌 2018 年 41 巻 4 号 pp. 107-113
  2. 山下 麗・田中 厚資・高田 秀重  「海洋プラスチック汚染:海洋生態系におけるプラスチックの動態と生物への影響」 日本生態学会誌 2016 年 66 巻 1 号 pp. 51-68