社会・地域貢献

消えゆく熱帯雨林

藤女子高等学校 1年 田野 小春

あなたは、あなたの知らないところで野生動物が人間に住処を奪われ、苦しんでいるということを知っているだろうか?あなたは、あなたが食べている物や使っている物が野生動物を苦しめているということを知っているだろうか?インドネシア・スマトラ島では、島に生息する動物が減少している。私はそれを知り、もっと詳しく調べたいと思った。何故ならこの問題は日本人にも大いに関係していることであったからである。
スマトラ島は世界第六位の面積4736万haをほこるインドネシアの島で、200種類以上の哺乳類、580種類の鳥類が生息している。このように豊かな自然に囲まれているスマトラ島だが、近年島に生息している動物が急激に減少してきている。ICUN(国際自然保護連合)が定めるレッドリストで10段階中3段階目の、絶滅寸前とされるスマトラ島にのみ生息しているスマトラゾウは20年で3分の1に減った。同じく絶滅寸前とされるスマトラオランウータンは100年で5分の1程度にまで減ってしまった。その主な原因は森林伐採による生息地の減少だ。インドネシアではパーム油や木材の生産が盛んで、パーム油を摂るためのアブラヤシのプランテーションの建設や、紙パルプの生産を目的としたアカシアの植林によって、島の熱帯雨林が奪われている。森林の規模は1985年を100%とすると、2012年には半分以下になっている。これは地球温暖化の進行にも、動物の絶滅にも繋がる。仮に動物が絶滅しても人間に何も被害は無く、絶滅してもいいと思うかもしれない。だが、それは大きな間違いだ。動物が絶滅するということは、生物多様性が損なわれるということでもあり、それは私達人間にとってもとても深刻な問題なのだ。ICUNによると、生態系がもたらしているサービス、例えば食料、木材などの資源、水の浄化、気候調節、土壌の形成、災害による被害を小さくするといったものを経済的価値に換算してみると、1年あたりの価格は33兆ドル(約30兆4000億円)にもなる。人間はこれほど多くの恩恵を生態系から受けているため、当然生物多様性の低下は人間にとっても損害となる。だから、人間は生物多様性を守る必要があるのだ。また、ニコラス・スターン氏が2006年に発表した「スターンレビュー」では、「このまま温暖化が進行すると世界のGDPの5~20%に相当する被害が出る。それを防ぐための投資は今ならGDPの1%ですむ。」と述べられている。実際に、熱帯雨林の破壊は、15~20%の地球温暖化の進行に関わっている。だから私達人間は、被害を防ぐための投資が高くなりすぎる前に、一刻も早く熱帯雨林の破壊を止めるべきなのだ。熱帯雨林の破壊はどこか遠い国の話で、日本人とは関係の無いことだと思っているかもしれないがそうではない。日本人が破壊していると言っても過言ではないのが現実だ。次はパーム油と日本人の関わりについて見ていく。

<パーム油のプランテーション>
パーム油は1990年代からインドネシアとマレーシアで盛んに作られるようになり、今では世界の生産量の85%をその2国が占めている。アカシアの果肉から摂れる油脂で、比較的安価な上使い勝手が良く、生産性が高い(面積あたり大豆の10倍もの油が摂れる)ため、植物油脂の中で世界で最も多く生産されている。日本でも菜種油に継ぎ、2番目に多く摂取されており、1年間の日本人1人あたりの平均摂取量は4kgにもなる。パーム油が使われているのは、食用油、インスタント麺、パン、マーガリン、冷凍食品、レトルト食品、ドレッシング、ケーキ、チョコレート、スナック菓子、アイスクリーム、石鹸、洗剤、口紅、シャンプー、医薬品、塗料、バイオ燃料などだ。私達の周りには本当に多くのパーム油を使った商品がある。ということは、日本人は知らず知らずのうちに、パーム油を使った商品を買うことで熱帯雨林を破壊しているのだ。しかしパーム油は「植物油脂」との表示しかされない事が多く、使われているのかどうか普通であればわからない。そのため、たとえパーム油が環境を破壊して作られていると知っていても、パーム油を使っていない商品を選ぶことは難しい。WWFを含む7つの団体は、2004年に「持続可能なパーム油のための円卓会議」というものを設立し、2011年には持続可能なパーム油の生産と利用ができている商品にRSPO認証マークを付けるという制度を作り上げ、環境に配慮して作ったパーム油を選べるようになった。しかしマークを付けてもらうにはまず、「持続可能なパーム油のための円卓会議」に参加しなければならない。今ではその参加団体は1100団体にまで到達したが、まだ認知度は低く、それで十分とは言えない。そこで私は、日本政府が国内でRSPO認証マークのような環境に配慮して作られた商品にマークを付ける制度を確立すべきだと思う。また政府は、使用している油の名前を明記する法律を整える、より環境に配慮して商品を製造している企業に対して税金を減らす、または環境を破壊して製造している企業に対して税金を増やすなど、環境を考えた商品作りを促す制度を作るべきだ。これは紙パルプ産業についても言えることだろう。

<紙パルプ産業>
紙パルプ産業もパーム油と同じく、1990年代から急激な成長を遂げた。紙パルプの生産のために熱帯雨林は破壊され、アカシアの植林地にされつつある。APP社という製紙メーカーは1980年代から紙パルプ生産のために、2000万ha以上の自然の熱帯雨林を伐採した。それにより絶滅の危機に瀕する野生生物の生息地が減少し、また先住民との紛争も多々起こっている。植林地を開発するために泥炭湿地を乾燥させることで大量の温室効果ガスが排出され、その土地では毎年のように火災が起こり、数ヶ月以上続く場合もある。その場合は火災の煙が周辺の他国へも渡り、人体、交通に様々な影響をもたらしている。WWFや数多くのNGOはAPP社やその社の商品を購入している会社に対し、環境や社会に配慮した生産活動へ転換するように働きかけを行ってきた。それに対しAPP社は度々森林を保護する方針を宣言してきたが、未だに自然林を伐採し続けている。そして非常に残念な事にAPP社が生産した紙は世界中に輸出され、日本でもコピー用紙の4枚に1枚がインドネシアから輸入されているという。日本人はパーム油のみならず、紙類の購入によっても、熱帯雨林を破壊しているのだ。解決のためには、1人1人が環境への意識を高めていくことはもちろん大切だ。しかし企業をどのようにして動かすかも重要な課題である。枝廣淳子氏は、企業を動かす方法について次にように述べている。

企業や経済、産業界を含め、道徳、倫理的なアプローチだけでは動かない人々や組織を動かしていくためには、「それはどのくらい自分たちの役に立っているのか」「それが失われると、自分たちはどのくらい困るのか」をわかりやすく、金銭換算した数字でしめすことが有効なのです。
(枝廣淳子『私たちにたいせつな生物多様性のはなし』かんき出版 2011年7月)

私はこの意見から、企業の多くは自社の利益を最優先に考えるため、環境に配慮して商品を作った方がより会社にとって利益になるということを示せれば、企業は環境に良い商品作りに転換するのではないかと考えた。また、枝廣氏は「フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアの普及にともなって、消費者の声が従来にないほど大きなカを持ち始めています。消費者の意識が変われば、従業員や株主など、企業にとって重要なステークホルダー(利害関係者)の意識も変わってきます。」とも述べている。企業の商品を買うのは私達消費者であるため、企業は消費者の声を聞き入れざるを得ない。だから私は消費者自身が声を上げていくべきだと思う。しかしそのためには、消費者がスマトラ島の現状と、日本人もそれに関与していることを知らなければならない。そのためWWFなどの環境保護団体は、テレビやCM、インターネットなどの様々なメディアを活用して情報発信をしていく必要がある。さらに、スマトラ島の現状や、環境問題について知っている人が友人に呼びかけたり、インターネット上に投稿したりして活動すれば、より効果は上がるだろう。そして現状を知った人から率先して企業に環境に配慮した商品を作るように促したり、環境を破壊して製造している商品を買わないようにしたりして、日本全体の価値観を、環境に配慮して作られた商品が良いというものに変えていく。そうすれば値段は多少高くなっても、企業は売れる商品を作ろうとするため、自ずと商品は環境に配慮して作られたものに変わっていくだろう。さらに、教育の過程で自然や動物と触れ合える場を用意し、幼い頃から自然を愛する心、大切にする心を育んでいき、少しでも自然を大切にし、環境を考えることの出来る人を育てていくこともひとつの解決策になるのではないだろうか。
インドネシア・スマトラ島の動物の減少は私達日本人が「物」を購入することによって起きていた。私達はそのことをしっかりと受け止め、これから対策を行っていかなければならない。私達は常に自分の行動がどう環境に影響しているのかを考え、環境に配慮した生活に変えていくべきだ。1人1人が出来ることは本当に小さなことかもしれない。だが、その積み重ねは結果的に地球全体の環境保護、そして私達の生活の向上にも繋がるだろう。人間の生活は地球の恵みが無ければ成り立たない。地球を守るということは人間の暮らしを守るということなのだ。だから私達は自分達のためにも、そして未来の人々のためにも地球を守っていかなければならない。

参考文献

・『NHK地球データマップ 世界の“今”から“未来”を考える』
 (大橋晴夫 日本放送出版協会 2008年2月25日)

・『私たちにたいせつな生物多様性のはなし』
 (枝廣淳子 かんき出版 2011年7月19日)

・WWFジャパン
 (https://www.wwf.or.jp)

・『100の知識 消えゆく動物たち』
 (スティーブ・パーカー訳 渡辺政隆 2009年8月30日)

・『子供の科学 サイエンスブック 消えゆく野生動物たち そのくらしと絶滅の理由がわかる絶滅危惧種図鑑』
 (小川雄一 誠文堂新光社 2014年7月14日)

・『池上彰のニュースに登場する世界の環境問題 ⑥動物の多様性』
 (池上彰監修 訳・文 稲葉茂勝 原著者アンジェラ・ロイストン さ・え・ら書房2010年12月)

・パーム油とは? あぶない油の話~パーム油のことを知るサイト~
 (http://plantation-watch.org/abunaiabura/)

・スマトラ島の観光案内|インドネシアコーナー
 (http://www.indonesia-corner.com/sightseeing/sumatera/)