社会・地域貢献

竹廃材を用いたバイオマスエネルギーの可能性

富山県立富山東高等学校 2年 関口 輝

1 はじめに ~香港の竹足場~
 私は旅先の香港で、建築現場の竹足場に衝撃を受けた。高層建築にも足場資材として用いられ、絶妙なバランスで組まれている。鉄を用いない理由を聞くと、次の返答があった。
 第一に、「竹の性質」と足場資材としての適合性。竹は軽く、組立てや解体作業も容易で、「しなる」という特徴により、重みで崩れる危険性も低いとのこと。第二に「立地条件」と足場資材との相性の良さ。湿度が高い香港では、鋼製足場は錆び易く管理も難しいが、竹は湿気を含むと締まり丈夫に使えるのだ。第三に「入手しやすい」資材であること。中国では、竹は建築資材、工芸品、食材として使用され、安価に大量生産されている。軽量でもあり、運搬費用も抑えられるのだ。
 建築現場の方からは、逆に日本で竹を使用しない理由を質問される始末だった。

2 竹を巡る日本の現状①~生産量の減少~
 竹は日本各地に広く分布し、身近な資材として利用されてきた。我が国最古の物語である「竹取物語」に「野山にまじりて竹を取りつつ、よろづの事に使ひけり。」とあるように、平安時代前期には様々な用途で使用されたと考えられる。軽く丈夫で、通直な材質が、民具や工芸品、建築資材等に好まれたのだ。さらに、筍は食材としても用いられてきた。
 しかし、近年、アルミやプラスチック等の代替品が普及し、竹材の国内生産量は減少傾向である。林野庁の「特用林産物を巡る状況~竹関係資料」のデータによれば、漁業(海苔・牡蠣養殖)・建築・造園等に用いられる竹材の需要は減少し、生産量と共に輸入量も減少傾向にある。
 また、筍は安価な輸入品が増加し、林野庁の「特用林産物の生産動向」によると、平成26年消費量の84%を輸入品が占めている。私たちの生活から、国産の竹が失われつつある。

3 竹を巡る日本の現状②~竹林の拡大~
 しかし、竹材・筍の生産量の減少とは反対に、日本の竹林面積は増加傾向にある。林野庁の「森林生態系多様性基礎調査~タケの分布状況」の調査結果では、平成11年から25年に至るまで、モウソウチクは東北以南において増加している。そして、広葉樹の森林等に侵入し、竹林は拡大を続けているのだ。竹は常緑性の多年生植物であり、生長速度が速いという特徴を持つ。24時間で1m近く生長し、地下茎も1年に5m程度伸びる等、強い繁殖力を持っている。そのため、定期的な伐採を怠ると、竹林は急速に拡大してしまうのだ。
 現在、放置された竹林は約9億平方mに及び、林業従事者の高齢化と後継者不足による里山の荒廃が背景にあると考えられている。
 農林水産省「平成27年度農林水産情報交流ネットワーク事業全国調査~森林資源の循環利用に関する意識・意向調査」の「林業者の森林手入れ状況」に関する調査結果によると、「手入れはしているものの、必要最小限の手入れまではできていないと思う」33.6%、「ほとんど手入れをしていないと思う」4.9%と、約4割が保有している森林の手入れが不十分な状況であった。その主たる理由を複数回答で調査されたデータによれば、「手入れをする労働力が不足しているため」76.6%、「手入れに要する費用を負担できないため」74.5%、「国や地方自治体による資金面や技術面での支援が不十分なため」46.8%と続く。費用不足という面は、「現在の林業経営の状況」という質問項目で、資金面の切迫した状況が明らかになっている。「毎年木材販売収入はない」という従事者と「毎年木材収入はあるが、主な収入は木材販売収入以外である」という従事者を合わせ、88.6%に上るのである。
日本の林業を取り巻く状況は厳しい。生活様式の変化や、工業製品の台頭、安価な輸入品との市場競争による日本製竹材、筍の需要減少。高齢化と、いわゆる3Kと呼ばれる労働環境のイメージ先行による、第1次産業の就労者不足。竹林の手入れ不足による荒廃が、森林への侵入拡大につながっているのだ。
 しかし、森林には以下のはたらきがある。二酸化炭素の吸収、山腹表層土の侵食や崩壊防止、水資源貯留、水質浄化、洪水緩和等だ。林野庁では、それらの森林の機能について定量的評価を行っており、「水質浄化」については雨水処理施設の減価償却費と比較し、年間14兆6,361億円と試算している。また、「表面侵食防止」については堰堤の建設費と比較し、年間28兆2,565億円と試算している。森林保全は、国の重要な施策であり、竹林の適正管理は課題となっている。そして、森林が担う二酸化炭素の吸収は、温暖化対策として最も重要な意味を持っている。

4 竹資源の新用途への使用
 では、竹林の森林への拡大を抑止し、森林を保全するにはどうすればよいのか。一番有効なのは、定期的な竹林と森林の下草等の伐採である。しかし、林業従事者が減少する中で、里山の竹林整備を誰が担うのか。この課題の解決に向けては、林業従事者の声を反映させることが大切である。先程の意識調査でも触れたように、「国や自治体の支援」「労働力」「資金」が必要である。
 まず、「国や自治体の支援」であるが、一般市民に現状を周知し、必要とされる具体的な取り組みを明確に示すことが大切である。私の住む富山市では、平成24年に「富山市環境基本計画」が策定された。市の面積の約7割が森林である私の町にとって、放置竹林問題は深刻だ。竹林拡大による里山の荒廃は、生態系の乱れやクマ問題、土砂災害に至るまで、様々な問題を誘引している。計画には、「都市部の市民の参加を得て森林を保全する仕組みを作ること」や、「森林バイオマスの利用促進」等が盛り込まれている。「放任竹林整備面積」や「竹林ボランティア活動参加者数」について、具体的目標値を設定し取り組んだ結果、整備面積は目標値4haを上回り、7haとなっている。ボランティア活動の様子は、地元紙や地方局でも連日取り上げられ、認知度も上がり、参加者も増加している。
 次に、「労働力」については、林業を魅力あるものにし、後継者を育てる必要がある。そのためには、竹資源を従来の用途ではなく、新たな用途で利用することを推進し、需要を増すことで、産業を活性化させていかねばならない。そして、それは「資金」を得ることにもつながっていく。
 富山県の森林組合連合会に設置された「とやまの竹資源ネットワーク」は、地元企業と協力し、竹材をパルプ原料として利用する活動を推進している。竹林整備により伐採された竹廃材を利用するため、廃棄物減少や、新たな地場産業を生み出し、林業を活性化することにも貢献している。他にも、竹廃材のチップの舗装資材への活用や、抽出物の食品添加物・抗菌剤への活用等が実用化されている。

5 バイオマスエネルギーとしての可能性
 そのような中で、注目を浴びているのが、竹チップのバイオマス燃料としての利用だ。元来、竹はカリウムを多量に含有し、灰の軟化温度が低いため、大型のボイラーで燃焼させると炉内に溶岩を生成してしまう。また、塩素濃度が高いため、電熱管等を腐食させるという性質を有しているのだ。逆に、低温で燃焼すればダイオキシンの発生にもつながるため、バイオマス燃料としては不向きなものとされていた。しかし、平成29年3月、株式会社日立製作所が、竹類からカリウムと塩素を溶出させ、発電用木質バイオマス燃料と同等の品質に改質する技術の開発に成功したのである。これは、竹の生産地である福岡県八女市と北九洲市の協力のもと、林野庁の「木質バイオマス加工・利用システム開発事業」に、2年間にわたり取り組んできた結果である。官民協力のもと、新技術が誕生したのだ。同年10月に山口県に「山陽小野田バンブーバイオマス発電所」が竣工された。発電所の年間発電量は年間1万5800MWhを見込み、一般家庭約4800世帯以上の年間使用電力量に匹敵する。稼動は平成31年1月を予定している。
 さらに、公益財団法人日本肥糧検定協会によると、抽出した成分からは、肥料の三要素であるカリウム・窒素・リン酸が検出され、有害物質は含まれていないとのことだ。今後は、自然素材から作成された環境負荷のない肥料としての有効活用も検討すべきである。

6 今後の課題
 竹廃材を用いたバイオマスエネルギー利用の推進は、低炭素社会の実現に貢献するばかりでなく、竹林の適正な管理にもつながる。実用化された発電が軌道に乗れば、伐採された竹廃材利用に加え、生長の速い竹を生産し、短期循環型の再生エネルギーとして、市場を拡大することも可能である。
 ただし、竹は空隙率が高いため、竹材として運搬すると、高コストであり、輸送燃料の大量消費にもつながるため、環境負荷も大きくなる。また、竹は含水比が高いため、乾燥させるのに時間を要するなどの問題を含む。現在は、チップを気流による粒子摩擦熱で乾燥させる装置等が開発中である。
 問題解決には、竹の生産地で竹チップに加工し、乾燥等の処理をした上で、発電所に運搬を行う等の方法が模索されるべきだ。そうすることで、環境問題に寄与するだけでなく、地方に雇用創出も期待でき、第一次産業の魅力発信にもつながり、それがまた森林保全につながるという良い循環をもたらすと思う。

7 おわりに~私たちにできること~
 竹という資源一つをとらえても、環境問題は経済・産業・科学技術等、多くの問題と密接に関連している。私たちは、周囲の事象に関心を持ち、多角的にとらえ、問題の背景を踏まえ打開策を考えていくべきである。また、環境への負荷を考える上で、地産地消という考え方も大切である。香港の竹足場で感じた風土に適した産物の性質をとらえ扱うという姿勢を大切にしていきたいと思う。

参考資料・参考文献
「林野庁ホームページ」
「農林水産省ホームページ」
「富山市役所ホームページ」
「富山県庁ホームページ」
「とやまの竹資源ネットワークホームページ」
「公益財団法人日本肥糧検定協会ホームページ」
「(株)日立製作所ホームページ」
「日本経済新聞 2017/3/9」
「福岡大学 工学部ホームページ」
「竹資源高度利用研究室ホームページ」