社会・地域貢献
受賞論文【優秀賞】「アフリカに光を」で地球温暖化抑制
関西学院千里国際高等部 2年 南口 虎太郎
1.はじめに
去る2015年は、温室効果ガス削減に向けての新しい枠組みであるパリ協定が年末に 合意されたことにより、環境問題を語るうえで大きな節目の年になった。
1994年に発効した気候変動枠組条約では、先進国と途上国が地球温暖化に対し共通だが差異ある責任をとることを原則としている。96年に第3回条約締結国会議(COP3)で採択された京都議定書には先進国等にのみ温室効果ガス排出量削減義務が法的拘束力のある数値目標として設定された一方、途上国に対する義務は規定されなかった。その後、同議定書で定める諸制度の詳細な実施ルールに関する議論が続けられ、2001年の米国離脱に象徴されるように調整は難航するが、05年に京都議定書は発効する。同年のCOP11では、京都議定書第2約束期間とよばれる13年以降の枠組み検討が開始され、09年のCOP15では、先進国は温室効果ガス削減目標を、途上国は同削減行動を提出することや、気温上昇抑制の考え方をまとめたコペンハーゲン合意に留意することが確認された。2年後のCOP17では、緑の気候基金の設置や、緩和に向けた協力的アプローチとして二国間クレジットなど新たな市場メカニズムが議論され、2013年のCOP19では、各国でその能力に応じた目標を定めることで自ずと差異化が実現されること期待し、各国提案方式で緩和目標・行動の約束草案を提出することが合意された。
そして、最終的に、すべての国が参加する新しい枠組みとしてCOP21で採択されたのが、パリ協定である。i
2.これまでの取組み
この20年間の流れはおおよそ上記のとおりであるが、実際に各国が行動するのはこれからであり、この合意は終着点というより、出発点であろう。そして、今後の具体的な取組みについて具体策まで確立されたとまではいいがたいので、2016年の課題として、日本が、今後何をすべきか、何ができるかについて、検討することとする。
まず、日本がこれまで行ってきた気候変動対応関連支援のうち特徴的なものは、高効率な石炭火力発電技術の輸出である。日本は超々臨界圧などの低炭素技術に秀でていて、当該技術に基づくインフラシステムの輸出は、G7諸国のなかで群を抜いて1位である。ii一方、本年4月、世界自然保護基金は、現在建設計画中の石炭火力発電所がすべて高効率低炭素型になったとしても、パリ協定が目標とする気温上昇を2度以内に抑制するという効果が得られないとの研究結果を発表した。iiiつまり、低炭素技術は、地球温暖化の抜本的な解決策にはなりえない。低炭素技術ナンバー1を誇る日本が、自らその強みを捨てて、低炭素から脱炭素に舵を切れば、日本の真摯な姿勢と問題の深刻さを、全世界に知らしめる象徴的な強いメッセージになる。
3.これからの取組み
では、脱炭素での支援に切り替えるにあたり、日本の強みとなるのは何だろうか。台風や地震による停電が多い日本では、他の先進国に比べ、災害非常時対策の商品開発ニーズが高く、非常時電源としての設置に適した小型・長寿命太陽光発電装置や、そうした小規模発電でも長時間使用可能な消費電力の少ない超省エネLED照明といった、災害による停電経験も踏まえた小型・高性能オフグリッド商品の技術改良が進んでいて、公共施設などに導入され始めている。iv
一方、世界銀行が進める「アフリカに光を」プロジェクトは、灯油によるアフリカの照明を近代的照明に置き換えることで、温室効果ガス排出抑制などを模索するものであり、送電線網が整備されていないアフリカにおいては、オフグリッドソリューションが成功の鍵とされている。具体的には、ナショナルグリッドの行き渡らない地方に村単位の太陽光ミニ発電所を設置するインフラ整備と、そうしたミニ発電所も難しい僻地の各家庭にソーラーランタンを普及させることが模索されている。v
日本では非常時対策の意味合いの強いオフグリッド製品であるが、小型化されているわけだから各家庭への配置すること、そして日常的に使用することができる。したがって、非常時対策用のオフグリッド照明製品を、「アフリカに光を」プロジェクトで各家庭に普及させる日常用のソーラーランタンに応用することができると思われる。
4.国レベルでの支援展開
パナソニック社は、同事業についてインドで参入済みであり、ケニアにおける事業化も検討しているといわれているが、製品を届ける流通網の整備状況の悪さと当該地域の所得の低さから、事業参画するスケールの販売が見込めるかどうかが不安要素のひとつだという。vi日本政府には、多くの日本企業が短期的な事業採算を気にせずに参入できるような後押しを期待したい。たとえば、国対国の交渉でまとまった数量の輸出を約束したうえ、事業継続可能なレベルに設定した特別価格で日本政府が日本企業から製品を買い上げ、それを日本政府としてアフリカに輸出し、各家庭への配布は相手方国に委ねるといった官民協調の仕組みができれば、官民一体で、途上国への支援を継続することができる。
もちろん、受入れ側国の協力も重要である。上記ケニアの例では、ソーラーランタン向けの輸入については25%の関税と16%の付加価値税を免除する優遇措置をとっているという。viiこうした優遇措置が他のアフリカ諸国にも広がれば、ケニア以外での事業化もスムーズになり、多くの国で、「アフリカに光を」が展開されることになるだろう。
かかる取組みの結果、日本企業の生産量が増えれば製造単価が下がり、国内の各家庭に非常時対策として配備することも視野に入る。国内の防災対策にも資することになるわけだから、支援に国費を使用しても、国民の賛意が得られやすいのではないか。外務省によれば、2012年からの3年間で160億ドルの支援を実施しているというviii。ソーラーランタンは1台50ドル程度で販売されているixので、年間50億ドル超という支援額は、ソーラーランタン1億台分に相当する。つまり、日本の支援額全額をソーラーランタン提供に集中投下すれば、毎年1億世帯に近代的照明を提供できる。アフリカの一世帯人数は日本の倍程度で仮に1世帯5人だとすれば、年間5億人の人に近代的な照明が提供できる。現在、近代的な電力供給を受けていない人口は13億人いるが、x上記集中投下を3年続ければ、世界中の全人口に、近代的な照明、つまり「新たな光」が行き渡る計算になる。支援額の全額を一点集中投下するというのはやや乱暴に見えるかもしれない。しかし、支援に対する国民の理解を継続的に得ようと思えば、国内の防災対策にとも繋がるという自分へのメリットに加え、象徴的な「目に見える成果」も必要だと思われるので、日本政府ができるだけ大規模に、ソーラーランタン事業支援に踏み切ることを期待したい。
5.おわりに
現在、電力以外の「灯かり」を得るために灯油等に支出されている金額は、年間380億ドルに上るというxi。つまり、灯油ランプによる現在のアフリカの照明事情は、地球環境に優しくないだけでなく、現地の人々の財布にも優しくない。一方、いったんソーラーランタンが普及すれば、太陽光は無料だから、これまでの灯油代を別の用途に使用することが可能になる。たとえば、本を買って、ソーラーランタンの下で読むことになれば、教育改善にも繋がる。
FIT価格引下げによる太陽光発電関連事業者の倒産が続くなか、国内外の再生可能エネルギーへの転換に向け、上記のように官民一体のオフグリッド照明事業支援に積極的に乗り出すことが、気候変動対応だけに留まらない、地球の明るい未来に向けた大きな一歩になると思われる。
参考文献一覧:
i 一連の流れについて、環境省地球温暖化対策HP内の各種資料を参照
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/cop.html
ii E3G 2015年10月レポ
https://www.e3g.org/news/media-room/japan-isolated-as-usa-leads-the-way-in-g7-move-beyond-coal
iii WCOFYS 2016年4月レポート
http://awsassets.panda.org/downloads/the_incompatibility_of_high_efficient_coal_technology_with_2c_scenarios_report.pdf
iv 各製品の機能について、日経テクノロジー2015年3月記事等を参照
http://business.nikkeibp.co.jp/atclemf/15/238719/062301310/
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20150302/406857
http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100320.html
v 「アフリカに光を」パンフレット
http://siteresources.worldbank.org/JAPANINJAPANESEEXT/Resources/515497-1196411375472/JPN_ver_lighting_africa_brochure_Final.pdf
NTTデータ経営研究所レポート
http://www.keieiken.co.jp/monthly/2016/0810/
vi 朝日新聞2016年8月記事
http://www.asahi.com/articles/ASJ8D64VXJ8DULZU00F.html
知的資産創造2013年4月号記事
https://www.nri.com/jp/opinion/chitekishisan/2013/pdf/cs20130404.pdf
vii 知的資産創造2013年4月号記事
https://www.nri.com/jp/opinion/chitekishisan/2013/pdf/cs20130404.pdf
viii 外務省 攻めの地球温暖化外交戦略
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000019458.pdf
ix 知的資産創造 2013 年 4 月号記事
https://www.nri.com/jp/opinion/chitekishisan/2013/pdf/cs20130404.pdf
x アジェンダ2030ファクトシート
http://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/15775/
xi 「アフリカに光を」パンフレット
http://siteresources.worldbank.org/JAPANINJAPANESEEXT/Resources/515497-1196411375472/JPN_ver_lighting_africa_brochure_Final.pdf
以上