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グローバル・パーソンを目指す中大生 vol.035 持田 温紀さん

エキサイティングでファンタスティックな大学生活!
入学前に想像できないほど、素晴らしい出会いと経験に恵まれて
僕の世界が広がり続けている。

サッカー部や国際教育寮、海外インターンシップ、
思い切ってカタールで応援したサッカー・ワールドカップ、
UNIVAS AWARDS最優秀賞の受賞……等。
まさかまさかのサプライズの連続に驚いている。

大学生活は残り1年となった。
卒業後の未来は、これまでの経験と出会いを活かしながら、
障がいや国籍といったボーダーを越えて
自分らしく笑顔で成長していきたい
 

絶望の時期を救ってくれたアスリートたち。スポーツのもつチカラを知った瞬間。

 もし他の大学に入学していたら、僕の大学生活はこんなエキサイティングでファンタスティックなものになっていなかったかもしれない。入学前には予想もつかない大学生活を満喫している。

 高校登校中の交通事故によって脊椎を痛め、今は車いす生活をしている。治療とリハビリのために1年以上の入院を経て、高校に復学したときには1学年下の子たちと一緒のクラスになった。事故によって幼少期から頑張ってきたサッカーができなくなったり、描いていた夢も失い、辛いリハビリもしながら絶望感いっぱいでの復学だった。
 しかし、復学後に入ることになったスポーツクラスの皆の明るさやパワーにとても救われ、笑顔が戻ってきた。スポーツクラスには、ラグビーや野球、サッカー等、今では名門大学で活躍するアスリートが揃っている。車いすをヒョイと持ち上げてくれて移動を助けてくれたり、アスリートならではの爽やかな明るさに励まされ、いろんな面で支えられた。アスリートの人間性やスポーツのチカラに癒される高校生活となった。
 その頃に入った塾で中央大学に通う先輩と出会った。法学部に通う先輩から学ぶうちに法律の楽しさを感じたこと、キャンパスの隣に新設された国際寮のグローバルな環境などが決め手となって、今の進路を選んで進学した。

選手を支える重要なポジションとして、再びサッカーの世界へ

 しかし、コロナウィルスの蔓延により日本中が自粛となり、僕らの入学式は中止され、授業はすべてオンラインになり、キャンパスにも入れなくなった。楽しみにしていた寮生活だが、留学生の人数も少ない上に寮内での行動も制限されていた。希望に満ちたキャンパスライフがそんな状況になりとても落ち込んでいた。
 そんなときに、他学部履修している「スポーツ・ビジネス・プログラム」を指導する渡辺岳夫先生(商学部教授、現サッカー部マネジメントアドバイザー)からサッカー部への入部を勧められた。当時サッカー部では、グラウンド以外で活躍する学生を探していた頃だった。それまで選手やマネージャー等以外の入部は認められていなかったが、コーチや選手の声をきっかけに競技以外の活動にも力を入れようとしていた。
 サッカー部は創部95年を超え、多くのJリーガーを輩出している名門チームで、車いすの自分が受け入れてもらえるだろうか、役に立てるのだろうかという不安もあったが、部員の皆やスタッフの方々は温かく、部則を変えて迎えてくださった。関東大学サッカーリーグ2部優勝を目指し、1位昇格を狙う選手たちを支えよう。スポーツビジネスといった観点で自分はチームが勝つための力になっていきたいと強く思った。

関東大学サッカー1部リーグ昇格の瞬間!

  僕はサッカー部での活動において、スポンサーの獲得や地域との交流を積極的に行ってきた。地域密着の交流活動では、部員による小学校訪問やサッカー教室を通じて中大サッカー部のことを知ってくれた子どもたちも増え、サッカー部が作ったTシャツをうれしそうに着て学校に通ってくれる小学生の子もいる。ある時、サッカー教室に毎週のように参加してくれた子どもたちに感謝を伝えたいという思いから、駄菓子をプレゼントすることにした。
 その駄菓子は、静岡県掛川市の駄菓子店が提供してくれた。店主は自分と同じ車いすで生活する大先輩で、サッカーと駄菓子が共に子供たちに夢を与える存在という思いからタイアップすることになった。さらにそのご縁から繋がり、サッカー部ユニフォームのスポンサードをしてくれる企業の獲得にもつながった。

 リーグ戦は苦難の連続だったけれど、最終盤に7連勝を達成して、サッカー部は2部リーグ優勝、1部リーグへの昇格を果たした。その瞬間を目の前で仲間と共に見守ることができて、本当に幸せだった。

国際寮の仲間たち

いつも明るい寮の仲間たち

 サッカー部の小学校訪問の際に、国際教育寮の留学生が部員たちと一緒に八王子市内の小学校を訪問して授業や給食で子どもたちと交流する機会をいただいた。寮に暮らす留学生が初めて地域交流に出たのだ。ちょうどコロナの渡航制限が緩まり、多くの留学生が世界中から来日してきて、留学生の国際交流活動が地域でできたらよいのに、と常々思ってきただけに、うれしい出来事になった。留学生が日本文化を学ぶきっかけにもなり留学の思い出の一つにもなってくれるだろう。このような機会がもっと増えることを期待している。 

 国際教育寮では寮生同士の交流を図るために、毎月イベントを実施している。僕はパラリンピック競技のひとつでもある「ボッチャ」の大会を企画した。寮生のコロナ感染で延期もあったが、ようやく2022年秋に開催することができた。大会には100人を超える寮生が参加してくれた。大会後に「とても楽しかったよ。困ったときはいつでも声かけてね」と、いう言葉を何人もの留学生がかけてくれて本当にうれしくなった。
  ダイバーシティについて、目指すのは共生社会だと、言われているが、その前にさまざまなボーダーを超えて一緒に共有することが大切なことだと思う。このボッチャ大会では、国籍、肌の色、言葉の違い、障がい等、多様な寮生たちが違いなんて関係なく、スポーツを楽しんで、一緒に熱中して勝負したり応援することができた。この共有が国際寮における共生につながるのだと思うと、大会は大成功のものになったと確信している。

人生観を大きく変えてくれたインターンシップ

人生初のエアロビクス体験。教室に通う陽気なおばさまたちから中国語を習う

  3年の夏休み、マレーシア・シンガポールでのインターンシップに参加してきた。このインターンシップは、「鎌倉インターナショナルFC」(神奈川県)を経営する四方健太郎氏が企画しているものだ。四方氏はクラブの運営のほかに、本業として海外人材の育成研修を運営している。そして、サッカー・ワールドカップに7大会連続で現地観戦に赴くなど、日本代表の応援にとどまらず世界のサッカーを楽しんでいるサポーターでもある。

 このインターンシップでは驚きのミッションを毎日こなし、初めての海外の不安を思う暇もないほどに活動した。最初に経験したミッションは、「今から4時間半後に中国語で自己紹介をできるようになる」というものだった。たくさんの方に話しかけたが、なかなか思うようにはいかなかった。どうにかしたいと、思い切ってショッピングモールのエアロビクス教室に飛び込んだ。エアロビクスレッスンへの参加をきっかけに、おばさまたちの輪に溶け込むことができて中国語を習い、自己紹介の課題をクリアすることにつながった。

ミッションで出会った現地の中高生たちと

  エアロビクス教室のおばさまたちだけでなく、本当に多くの現地の人たちと出会い、驚き体験をたくさんして度胸が付いた。英語力にはまだ自信がないけれど、世界でコミュニケーションしていける自信が付いたインターンシップとなった。
 そしてインターンの最終日、今後半年以内で叶えられそうな目標を掲げて発表する流れになり、「ワールドカップを応援しにカタールに行く」と宣言した。このときは本当に実現できるのかなんて考えもなく、ただ行きたいという気持ちだけが勝っていた。
 
 夏休みが終わり後期授業が始まる。授業、サッカー部、寮の活動、アルバイト等もあり忙しく過ごしていたが、ワールドカップの開催日が近づくにつれ、思いはどんどん膨らみ、遂に決心した。資金を両親や知人にも頼り、アルバイト先にもお願いするなどして備えた。飛行機のチケットが取れたのは開催日4日前のことだった。

サッカーワールドカップ。スポーツが作り出す“平和な世界”を体感する

カタールの街で出会った車いすの仲間たち

 カタールには20日間滞在した。渡航から最初の数日は一人での行動だったので不安もあったけれど、それ以上に楽しかった。出発前にニュースで聞いた「カタールの人権問題」が少し気になっていたけれど、カタールの街には、現地の人々もワールドカップを応援しに来た世界中の人々も、皆がとっても優しくて、車いすの僕を笑顔でサポートしてくれた。
 階段を上りたいと思っていると、数人が集まってきて「Together!  Together!」と声をかけ合って移動を手助けしてくれる。宿にチェックインできないトラブルや宿のシャワーから泥水が出るといったトラブルもあったけれど、人々に何度も助けられた。カタールが周辺国からも人々が集まる国で、違いを受け入れようとする社会の寛大さを感じた場面もあった。また、カタールという小さな国で開催されたワールドカップだったからこそ感じる熱狂も大きかった。

 世界で最も愛されるサッカーというスポーツが、カタールの地に国籍や信仰などの違いを越えて作り出している平和な世界は、想像を遥かに超えるものだった。さらには、障がいの壁も乗り越えたバリアフリーでやさしさにあふれた世界を感じた。

 待ちに待ったワールドカップが始まった。日本対ドイツ戦では、車いす席の後ろには現地の人々や他国のサポーターたちの姿が多く、アウェイ感を感じていた。しかし試合が進むにつれ、まさかの日本の善戦に、僕はもちろんのこと、後方に座る人たちも感動したようで、後半から日本を応援してくれる人が増えていった。そして日本の勝利後には周りの人たちが「一緒に写真を撮って」「勝利を祝おう!」と話しかけてきてくれたり、ハイタッチしたり、記念撮影をして一緒に勝利を祝った。素晴らしい試合、日本代表の素晴らしいプレイが国籍の壁を取り払ってくれた気がした。

 2戦目のコスタリカ戦。スタジアムの席に到着して試合開始を待っていたところ、声をかけられた。その方が実はFIFAの者だと言ってきた。そして「あなたをセレモニーにご招待します」と提案された。試合開始前のピッチサイドに招待してくれるというのだ。ピッチサイドからの景色は、選手たちを目の前で見ることができる夢のような世界が広がっていた。まさかの奇跡に興奮と感動で胸が熱くなった。

 3戦目となるスペイン戦の日にもFIFAの方から声をかけられた。さらにグループリーグの最終戦となるこの日は、試合開始前のセレモニーでピッチに入ることができるというサプライズだった。
 そして人生で最も心が震えた瞬間が訪れた。主将の吉田麻也選手が近寄ってきて、「一緒に歌おう」と声をかけてくださり、僕の車いすを選手の列に導いてくれた。日本代表選手たちと並んで君が代を歌うというという信じられない出来事に、うれしい・驚き・感動……、あらゆる感情が入り混じった。幼い頃に夢に思ったワールドカップのピッチという景色は、想像していたよりも遥かに輝く場所だった。

 6年前の交通事故の後に状態の変化を経て、コスタリカ戦と同じ日の5年前から車いす中心の生活となった。大好きなサッカーを一度は諦めた。しかし、大学のサッカー部に入部して選手のサポートするようになり再びサッカーと関われるようになった。そしてカタールに来てからはサッカーが作り上げる平和な世界を体感し、日本代表選手たちや監督、大会スタッフの人柄の大きさや温かさを真近に感じることができた。サッカーをずっと好きで応援し続けてきて本当によかった。

カタールで出会った車いすの仲間たち
日本に戻ってきてからも、たまに連絡を取り合っている大切な友人と出会うことができた。
●オマーさん(モロッコ人)※写真:中央上
カタール初日に、「明後日までチェックインできない」と言われたホテル群の前で出会った。僕がカタールで初めてに出会った車いすの方だ。オマーさんはまったく英語が話せないにもかかわらず、僕と出会った瞬間に、強い握手を交わして一瞬で仲良くなった。このとき、ホテルのチェックイン不能トラブルによってホテルのフロントでは世界中の方々からの怒号が飛び交っていたけれど、僕とオマーさんだけは車いす同士で会えたことに感動して満面の笑みを浮かべていた。
●アブドゥラさん(カタール人)※写真:左上
2011年にカタールで開催されたアジアカップ決勝で日本が優勝を決める試合を観戦して以来、日本代表ファンだというのカタール人(スウェーデンの血も流れている)のアブドゥラさん。カタールでは、日本代表の試合予定分の全チケットを手に入れたそうだ。日本対スペイン戦の試合前に話しかけてくれて仲良くなり、試合終了後に祝いに来てくれた。さらにクロアチア戦でも見つけてくれて慰めてくれた。

UNIVAS受賞・そしてこれから

 2023年になってからのビッグサプライス。光栄な出来事として、「UNIVAS AWARDS 2022-23 サポーティングスタッフ・オブ・ザ・イヤー」最優秀賞を受賞させていただいた。中央大学からの推薦を受け、名誉ある賞に選出していただき、学生スタッフとして日本一の称号をいただいたのだ。車いすになった僕が、車いすに関係なくサッカーの世界でここまで来れたことに感無量だった。
 
 僕はサッカーをずっとやってきた。でも、車いすになりプレーはできなくなった。それでもサッカー部のみんなに支えられたおかげで、サッカーの道で再び熱くなれた。サポーティングスタッフとしての賞ではあるが、本当のところは僕自身が支えられていたように感じる。サッカー部、家族、高校や大学の仲間たち、関わってくださったすべての方々に感謝している。
 
※UNIVAS AWARDS:2019年に誕生した日本の大学スポーツ振興を推進する組織「一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS:ユニバス)」による賞。UNIVASは、大学生が安全・安心な環境でスポーツと学業に打ち込み、その経験を卒業後の社会で活かせるよう、加盟大学を通じて様々な支援を行っている。試合のインターネット中継や大学対抗戦、表彰事業などによって大学スポーツの認知度向上と盛り上がりの創出にも取り組んでいる。

 コロナの自粛開始と同時期に大学に入学したときには、大学生活がこれほどまでエキサイティングなものになるとは思わなかった。大学生活は、4月から集大成の1年間がスタートする。将来を考えたときに就職活動も頭をよぎるけれども、まだ深く考えていない。世界中を旅してみたいという気持ちもあるし、就職してもグローバルに活動していきたいと思っている。
 ワールドカップでカタールに滞在中、インターンシップでお世話になった四方さんのシェアハウスに招かれて、彼の友人たちと一緒に過ごす機会をいただいた。シェアハウスやカフェで仕事をしながらワールドカップの観戦をしているビジネスパーソンを目の当たりにした。世界中のどこにいてもパソコンひとつで仕事をすることが可能だし、その姿がとてもカッコよかった。そして、今までは何事も「考えてから行動する」のが当たり前だと思ってきたけれど、世界に出るとハプニングに出会うことも多く、もちろん筋道は考えるけれど「行動してから考える」、それでもなんとかなるという自信がついた。

 「いつでも笑顔で」。大学3年生までに経験した出来事は一生の宝物にはなるけれど、それを自分の最高点にはしたくない。卒業後、数年後、10年後、さまざまな経験を土台に進んでいきたい。グローバルな視点を楽しみながら、障がいや国籍といったボーダーを越えて、仲間や新しい出会いを大切にして、ボーダーを越えるための何かに挑戦していきたい。

 さぁ、世界へ、未来へ。次のかけがえのない人と新しい自分に出会うために、僕は景色を拓いてゆく。