2023.02.01

「なんて素敵なファンタジー」 選手と並び国歌を歌う
車椅子で一人、W杯開催地のカタールへ
サッカー部の持田温紀さん(法3)

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多摩キャンパス国際教育寮に住み、車椅子生活を送りながら学業などに励んでいる法学部3年、サッカー部所属の持田温紀(はるき)さんが2022年11~12月、サッカー・ワールドカップ(W杯)の開催地、カタールを1人で訪れた。

 

試合前のセレモニーで国歌斉唱する日本代表選手の列に加わり、国際サッカー連盟(FIFA)のサイトで紹介されたり、国内外のメディアに記事が載ったりと、20日間の滞在中、信じられないような出来事が続いた。フォロワーが29人だったツイッターで、国歌斉唱の際のハプニングを紹介すると、6万を超す「いいね」がついた。

 

「一生、記憶に残る経験でしたが、これを人生の“最高点”にしてはもったいない。グローバルな視点をもち、世界を旅して、世界で活躍する人になりたい」。持田さんは未来へ夢を広げている。

日本-スペイン戦の試合前、日本代表選手と並んで国歌を歌った持田温紀さん=2022年12月1日(現地)
(写真提供:共同通信社)

吉田キャプテン「一緒に歌おう」

「あなたをセレモニーに招待します。どうですか」

 

日本のグループリーグ2試合目のコスタリカ戦の日、FIFAの服を着た人から、座席で声をかけられた。車椅子の人をセレモニーに招待する取り組みをFIFAが行っていることは後で知った。厳重なゲートを通過して、ピッチサイドから見た光景、選手の姿はひときわまぶしかった。くしくも、11月27日というこの日は、5年前に車椅子生活が始まった日だった。

 

3試合目のスペイン戦でもFIFAの人に声をかけられた。グループリーグ最終戦のこの日はエスコートキッズや、スペインの車椅子の人と同じように、選手の近くに並んだ。そして最大のサプライズがやってきた。

 

日本の国歌斉唱が始まる直前、吉田麻也主将が「一緒に歌おう」と車椅子を選手の列まで引いてくれたのだ。キャプテンの思いやり、心遣いに感謝した。喜んでいるような、泣いているような、感極まった表情で君が代を歌い、「うれしさも感動も、あらゆる感情が人生で一番あふれた瞬間だった」という。

(写真はともに持田温紀さん提供)

優しかったカタールの人々

「一生、記憶に残る経験になった」と振り返った持田温紀さん

初戦のドイツ戦ではゴール裏の位置、車椅子の人のために設けられたスペースに陣取り、ほとんど日本人がいない中で、日の丸の扇子を手に、必勝の鉢巻き姿で声をからした。

 

日本の勝利が濃厚となったゲーム終盤は、観客席のさまざまな国籍と思われる人たちが「日本人と記念撮影したい」と近寄ってきた。「100人以上と一緒に撮ったかもしれない」と持田さん。「世界中の方々と一緒に日本代表を応援できたことがうれしかった」と振り返った。

 

カタールへの航空券や試合のチケットは2022年11月に入って確保した。宿泊先ホテルのダブルブッキングなどで「あさってまでチェックインできない」と言われ、途方に暮れたこともあったが、空港のスタッフも会場のボランティアも優しい人たちばかりだった。

 

階段の前で困っている様子を見た人たちが、「teamwork !」と声に出し、さっと集まって車椅子を持ち上げてくれたことも一度や二度ではなかった。

 

人権侵害について報道されるなど、大会期間中、問題が指摘されたカタール大会だが、持田さんはバリアフリーも行き届き、優しさに富んだ国という印象を抱いている。

 

出場国32カ国、いや、それ以上の国や地域の人たちが中東の国に集まった。持田さんにとって「平和」ということを強く意識した20日間だった。

日本ースペイン戦の試合前セレモニーに招待された持田温紀さん(手前左) (写真提供:共同通信社)

商学部「Jリーグ」講座、サッカー部、海外インターンシップ
人との出会い、結びつきが「夢の舞台」へ導く

吉田麻也選手の背番号のユニフォームを着る持田温紀さん

 

 

 

持田温紀さんは高校1年生の夏、自転車事故で脊髄を痛め、入院は1年半に及んだ。車椅子生活となり、4歳で始めたサッカーもプレーできなくなった。

 

家族や周囲の支えもあって中大に進学。他学部履修制度を利用してJリーグについて学ぶ商学部の講座を受講し、担当の渡辺岳夫教授から「組織改革を始めたサッカー部がプレーヤー以外の役割の人材を探している」と声をかけられたことが転機となった。

 

サッカー部が地域企画や営業活動を行う「事業本部」という名のフロント制を導入しようと計画していた頃だった。持田さんは入部後、地域や社会貢献活動、スポンサー獲得などに携わった。

 

サッカーで熱くなれる機会をくれたチームへの感謝を抱く一方で、「車椅子だからチームに受け入れられたと思われたくない。結果を残して、能力があるからチームの一員なのだと思われたい」と話す。

東南アジアでの研修で成長

 

サッカー部に入部して、再びサッカーと関わる生活が始まり、さらに転機が訪れる。神奈川県鎌倉市にあるサッカークラブ「鎌倉インターナショナルFC」を経営する四方(よも)健太郎さんが、主に企業を対象に行っている海外人材研修に興味を抱いた。そして、海外インターンシップとして2022年9月にシンガポール、マレーシアを訪れたのがW杯観戦の直接のきっかけとなった。

 

1週間の研修プログラムの中で、「一日で40人以上にインタビューする」「4時間半後に中国語で自己紹介できるようになって戻ってくる」といったユニークでハードなミッションと向き合い、海外で動き回るマインド、ヒントを培った。自分が一皮むけて成長したと実感できたという。

 

インターンシップ最終日、今後半年で成し遂げたい目標を参加者が表明することになり、持田さんは「W杯現地観戦」と宣言。今回、有言実行を成し遂げた。

持田温紀さん

 

もちだ・はるき。神奈川・桐蔭学園高卒、法学部3年。学友会体育連盟サッカー部所属。選手と並んでピッチで国歌を歌ったことを「最大の興奮」とたとえた。スペイン戦で話題となった「三笘選手の一ミリ」のように、「最後まであきらめなければ奇跡を起こせる」という意識を今も大切に過ごしている。吉田麻也選手には「いつか直接、お礼を言いたい」という。

(写真はいずれも持田温紀さん提供)

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