国際連携・留学

第3回 人権デー・国際家族農業年記念イベント

第3回 人権デー・国際家族農業年 記念 ―実施レポート―
Human Rights Day・International Year of Family Farming

ドキュメンタリー映画『収穫は誰のもの?』特別上映会

2014年12月7日(日)、後楽園キャンパス3号館3300教室にて、『第3回 人権デー・国際家族農業年 記念イベント』が開催されました。

ミレニアム開発目標・ポスト2015開発アジェンダに関する3回シリーズの啓発イベントの最終回です。今回は12月10日の人権デーと2014年の国際家族農業年を記念して、特別上映会と有識者によるパネル・ディスカッションを実施しました。

テーマ

土地への権利/土地収奪/家族農業/紛争と開発

プログラム
開演
主催者あいさつ:根本かおる 国連広報センター所長
共催者あいさつ:石井 靖 中央大学理工学部長
国連制作ショートビデオ
『ミレニアム開発目標(MDGs):数字は何を物語る?』上映
『収穫は誰のもの?』上映
パネル・ディスカッション
質疑応答
閉会あいさつ:黒田かをり 国際開発学会 社会連携委員会 副委員長 Beyond MDGs Japan 運営委員会 構造団体

ドキュメンタリー映画『収穫は誰のもの?』


NHK「BS世界のドキュメンタリー」で放送された番組のひとつ。アフリカの土地をめぐる、海外投資家と現地農民、政府の争いを描く。
マリ政府は、肥沃な土地・ニジェール川沿いの土地を海外投資家に提供する事業を進めていた。その事業に参加する投資家のひとり、アメリカ人のミマ・ネデルコヴィッチは、バイオエネルギー企業を経営している。彼は200平方キロの農地を借り、大規模なサトウキビ農園を立ち上げる予定だ。「この農園で地元農家が働けば、彼らの生活も向上する」と主張するネデルコヴィッチ。しかし、この計画は地元農家が土地を失うことを意味している。彼らは自分たちの土地と食料を守るため、計画に反対。その一方で、サトウキビ畑で収入を増やしたいと考える農民も多い。マリ政府の対応は進まず……。

【視聴後 ―有識者パネル・ディスカッション概要】


土地を巡る権利や人権問題について、岡村氏、津山氏、Boliko氏、森さんが、それぞれの立場から意見を述べました。

以下、パネリストの方々の意見を集約。

投資家と政府、農民の間における人権――
土地収奪の問題は、そこで生きる人の農業、暮らしを破壊する行為であり、村の生活を大きく変えてしまうものである。自分のことは自分で決めたいと思うのは当たり前のこと。開発は、農民が十分な情報を持ち選択できる状況において、進められるべきものである。しかし、政府は農民に必要なことだと勝手に判断し、農民に相談もなくプロジェクトを進めてしまう。しかも、プロジェクト終了後に住民がマネジメントできるのかというと、必ずしもそうでない。
こうした問題はマリ以外でも起こっており、農民たちは読めない契約書にサインをするよう迫られ、土地を奪われている。アフリカは汚職が激しく、お金さえ払えば土地が買えてしまう。投資企業のなかには賄賂を送って政府の決定をゆがめる動きがあるのも事実。政府は国民のためになることを考えていなければならないし、投資する側の倫理も求められている。

現場の声を反映した意思決定をするには、相手をひとりの人間としてリスペクトすることが大事である。権力や富に差があったとしても、彼らの知識を尊重することで話し合いの場がつくられる。援助においても「アフリカの農民は知識がない、遅れている」という前提があるが、農民には豊富な経験があり、その土地のことを一番よく知っているのだから、絶対的権力を持つ人がまず相手を尊重する姿勢をとることが重要である。

土地は、誰のものか――
法律上、土地が誰のものか指定されても、昔からその土地を使用している農民は、後から決められた土地使用権を知らずに使い続け、農民や村同士で衝突が起きている。このほか、交渉の場が設けられても、コミュニティ内で力がある人ばかりが参加し、弱い立場にある女性が参加できていない場面も見受けられる。話し合いに誰が参加するかについても課題が残っている。

家族農業と土地収奪への対抗策――
世界5億7千万人の農家のうち、家族農業の人口は4~5億人に及び世界で大きなシェアを占めている。途上国の子どもたちは自然との付き合い方を親から学び、伝統的な食糧生産方法を続けている。学校には短期間しか通わない場合も多く、新しい技術を活用するチャンスを逃しがちだ。さらに、農業規模が小さく収入も少ないため、栽培量を増やすためにトラクターを買いたくても銀行が融資してくれず、悪循環が生まれている。中小規模の家族農業は気候変動の影響も受けやすい。こうした様々な課題を抱えながらも、家族農業世帯は世界数十億人のために食糧を生産している。このように家族農業が大きな役割を果たしていることに対して人々の認識を高め、各国政府から支援を引き出すことを目指して、国際連合は国際年のひとつとして2014年を「国際家族農業年」に制定した。
土地収奪の問題解決に向けては家族農業者たちが結束している例もあり、モザンビークでは各村でアソシエーションを作り、家族農業者が中心となって自分たちの農業をどう発展させるか話し合い、技術を学び合っている。土地収奪があった時には犠牲となった農民を助け、情報を共有・発信するネットワークができている。
2012年10月には、モザンビーク最大の農民組織UNACから、ProSAVANA(プロサバンナ/日本・ブラジル・モザンビーク三角協力による熱帯サバンナ農業開発プログラム)に対する抗議声明が出され、改善された例もある。

消費者として考える食料安全保障――
自国の食糧を他国で確保しようとする国も、土地収奪の当事者のひとりと言えるだろう。食糧危機と言われながら、先進国で廃棄されている食糧を合わせれば世界には十分な食糧がある。日本では消費される食糧と同じ量が廃棄されている。日本に暮らしている私たちに求められるのは、自分たちの食料安全保障(フード・セキュリティ)で生産者の食料安全保障を脅かさないこと。誰かの食料安全保障を犠牲にしてはいけない。生活するうえで消費者として、どういう行動をとればいいか考えてほしい。

モデレーター
根本かおる 国連広報センター所長
パネリスト
岡村和美 法務省人権擁護局長
津山直子 アフリカ日本協議会(AJF)代表理事
Mbuli Charles Boliko(ムブリ・チャールズ・ボリコ)
国連食糧農業機関(FAO)日本事務所長(ビデオ出演)
森 朋也 中央大学大学院経済学研究科博士後期課程

(あいうえお順・敬称略)

 

 

左より黒田氏、津山氏、根本氏、岡村氏、森さん、石井教授、加藤俊一副学長/中央大学理工学部教授。universal declaration of human rights(世界人権宣言)の冊子を手に。

 

主催:国連広報センター
共催:中央大学
協力: Beyond MDGs Japan/NHK