キャリアセンター(文系)

起業家精神でつくる共創の新時代を生き抜くキャリア

ハタプロ・ロボティクス株式会社 代表取締役CEO 
伊澤 諒太

伊澤 諒太

はじめに

■大学で磨かれた起業家精神

 20代で会社を起こし上場できる規模まで成長させた。自分の利益や経験を社会に還元すべく、地方自治体との共同出資で合弁会社も起こし、日本の未来のための事業を推進する〝公的企業〞の経営者となった。
 30代のいまも、後輩起業家たちの支援をしながら、自身も新たに日本を代表する大企業と提携しAI(人工知能)ロボット事業を立ち上げ、最前線でストイックに走り続けている。
 挑戦を繰り返し、ゼロから事業を創造してきた自分のキャリアを話すことで、これからの共創の新時代を生きる後輩たちに何か気づきを与えられればと想い筆をとる。

私の学生時代

■オリンピック金メダルをめざして進学

 私はかつてアスリートだった。高校時代にボクシングを始め、強豪ひしめく関東選抜大会で優勝。インターハイ・国体・全国選抜代表選手として活躍。夢はもちろんオリンピック金メダルだ。そんな自分にとって、中央大学は、当時、日本で唯一の金メダリストを輩出した超名門。自分の夢を実現するのに最も良いと考え、スポーツ特待生として進学した。

■大きな挫折。全てが嫌になり、自分から逃げてしまう

 現実は厳しく、入学して初っ端からけが。期待に応えられず、悶々とした日々を送る。自暴自棄になり夜逃げ同然に寮を飛び出した。もともとの理想が高かった分、現実の自分の姿とのギャップで落ち込みも激しい。
 スポーツの成績で大学に入った身なのに、そのスポーツができない状態になってしまったのだから、自分が大学にいる存在価値はないという脅迫観念に陥った。

■総合政策学部で、新たな世界へ

 落ち込んでいた自分を元気にしてくれたのが、総合政策学部の先生、先輩、同級生たち。
 少人数の学部で、一人ひとりを手厚く見てくれる環境にあった。
 また中央大学は優秀な留学生がとても多い。国際色豊かだ。さまざまなバッググラウンドを持った学生が、世界から集まってきている。一人ひとりが〝国の未来〞を背負って、真面目に、志高く、まるで研ぎ澄まされたアスリートのように全身全霊をかけてストイックに学んでいた。
 そんな彼らと話していると、自分がこれまで狭い価値観だけで生きていたのだと思い知らされた。彼らの背負うものと比べて、自分の悩みがいかにちっぽけなものだったか。
 反省すると同時に、大きな刺激を受けた。
 「アスリートとしての金メダルの道は絶たれたが、別の分野で再び情熱を燃やそう! 世界に誇れる事を成し遂げれば、それが自分にとっての〝新しい金メダル〞だ!」と。

■経営学を学ぶ

 総合政策学部は、さまざまな学問を横断的に履修できる学部。
 私はその中でも、特に「経営学」に興味を持った。
 当時、履修していた経営学の先生が、経営戦略の本髄は「敵を知り己を知れば百戦殆からず」だと教えてくれ、私にはその言葉が妙にしっくりきた。スポーツで勝つための戦略と考え方がまったく一緒だと。
 経営学という学問に励んでいると、「実際の企業で自分の力を試してみたい」という欲求に駆られた。
 春休みをフル活用してディー・エヌ・エー(DeNA)の実践型(有給)インターンシップに飛び込んだ。
 本来、大学3年生以上が対象だったはずだが、私は2年生で空気を読まずに飛び込み面接にこぎつけ、面接官が情熱に負けたのか、面白いやつだと思ってくれたのか、何とか特例のようなもので採用してもらった。
 それで実際に入社後も大活躍できていれば格好良かったのだが、毎日上司に迷惑を掛ける日々で、優秀な先輩たちと比べてまったく戦力にならず落ち込んだ。
 だが、ただ落ち込むだけでは終わらず、なぜ自分が活躍できなかったのかを必死に分析し、自分に足りないスキルを補い、自分が得意だと思えることをより伸ばせるよう自己分析を繰り返し、さまざまな成長できそうな機会に飛び込んでいった。身の丈以上のことに挑戦してボロボロになりながらも、着実に成長していった。

■起業

 春休みを終えて就活する学年になった後も、さまざまな挑戦をした。
 オリンピックをめざしていたボクサー時代からの癖で「世界」への関心は高く、何か世界を相手に仕事したいと片っ端から飛び込んでいった縁で、米国シリコンバレーの急成長企業、「Twitter」日本法人起ち上げチームのオフィスに転がり込んだ。
 こうしたグローバル企業の創業期に関わった経験は、私の人生の大きな財産となっている。
 その後、自分でも起業して私の最初の会社を設立し、大きくなった事業を売却して資金を得た。海外で新しい事業に挑戦したり、最初の事業とは全然違う製造系の事業に挑戦したり、紆余曲折と成長を繰り返しながら今の仕事に至る。

現在の仕事のこと

■AI(人工知能)ロボットを開発

 現在の私の会社は、ロボットのハードウェアの設計と、AI(人工知能)のソフトウェアの開発を主な事業として展開している。自社ブランドでの製品を販売する「B to C(一般消費者向け)製品」販売も好調だが、それよりも稼ぎ頭となっている領域が、自社の高度な企画開発力を活かした「B to B(企業向け)ソリューション」領域の事業だ。

■日本を代表する大企業との共創

 弊社の豊富なハードウェア・ソフトウェア双方の開発基盤を基に、ロボットやAIを活用した事業を新たに立ち上げたい大企業を顧客として、製品企画・デザインなどのコンサルティングから、開発や製造の受託、共同出資等によるJV(ジョイント・ベンチャー)事業化まで、市場を先導する技術の〝旗手〞として、次の時代の柱となる製品や事業を共に創造をする。
 NTTドコモや日本航空(JAL)など、日本を代表する大企業が弊社の共創事業の顧客だ。
 日本の未来を変えうる新しい製品を、志高い優秀な仲間たちと議論しながら実際に世に送り出し、人々の生活や社会の文化を変えていく。とてもワクワクする仕事であり、使命だと感じている。
 また近年、AIロボットの需要が急増している医療・介護関連の製品開発にも力を入れており、東京大学や大阪大学などさまざまな医学部附属病院と連携し、業界の第一人者である研究者・医師らと協働している。
 内閣府の医療AIプロジェクトや、2025年大阪関西万博へ向けたモデル事業に採択されたものもあり、高度なレベルでの医療とAIの「共創を担う総合政策」を推進している。

後輩へのMessage

■創造しいやつになろう

 無限の可能性がある学生時代。殻を破って「挑戦」しよう。「創造」しよう!
 武道の世界に、守破離という言葉がある。この言葉は本質的には、ビジネスで成長する法則と一緒だと私は感じている。
 「守」だけでは、いつか成長に限界がくる。高い志と勇気を持って、「破」を行い、多様な価値観を受け入れ、これまでの自分の殻を打ち破ろう。そして「離」の領域に達する。その「離」は、ただ単に何かから逃げることとは違う、本質的な「創造」をすることだ。
 グローバル化・デジタル化で、これまでの日本だけの常識では通用しなくなっていく未来。
 社会の閉塞感を打ち破り、まるごと良い方向にアップデートできるような、大胆な守破離・創造ができる力が必要だ。
 明日からの学生生活はもちろん、社会に出てからも、一人ひとりが活躍して、一緒に日本、世界の未来をより良いものとしていけることを願う。
 そしていつか、成長した後輩たちと共創できる日を楽しみにしているよ!

Profile

1987年生まれ。

2010年 総合政策学部 在学中にIT メディアを起業、売却

2014年 海外で起業。台湾政府・工業技術研究院と提携、IoT 家電製造事業を開始

2016年(株)NTT ドコモと提携。JV(ジョイント・ベンチャー)事業を共同で推進

2017年 戦略子会社としてハタプロ・ロボティクス(株)を東京都に設立
以降、日本航空(株)などさまざまな大企業と共同でAI ロボットを企画、開発、製造

2022年 東京都・羽田空港1丁目1番地に新拠点設立

趣味はサウナ。休日は息子と元麻布ヒルズSPA。

体育連盟ボクシング部後援会 副会長

OB・OGからのMessages Vol.36
(学内広報誌『草のみどり』2022年3月号掲載)