文学研究科 博士後期課程に在籍している越智 隆太さんが、ポルトガル共和国ポルト市にて、2024年7月3日~7月5日に開催された「Global Neuropsychology Congress 2024」で発表を行いました。
Global Neuropsychology Congressは、以下4団体によって共同開催されました。
●International Neuropsychological Society
●Australasian Society for Study of Brain Impairment
●Federation of European Societies of Neuropsychology
●Sociedad Latinoamericana de Neuropsicologia
50を超える国や地域から、約950名の神経心理学を専門とする研究者や臨床神経心理士が出席しており、国際色豊かな会議です。
本記事では、越智さんによる発表内容の紹介や発表にあたってのメッセージをお届けします。
発表について
今現在住んでいる自宅や、入院している病院といった場所はたった1つしかありません。しかし、脳の損傷によって本来1つしかない場所が、別のところに同時に2つ存在する、という奇妙な体験をする場合があり、これを重複性記憶錯誤といいます。これまでの研究では脳の右側を損傷した患者さんでみられやすく、前頭葉と視床、側頭葉と後頭葉をそれぞれ結ぶ脳の神経線維が同時に切れてしまっていることが報告されています。
今回、脳腫瘍によって「自宅のなかに病院が建っている」という重複性記憶錯誤がみられた患者さんを経験し、都立駒込病院脳神経外科と共同で報告をしました。この方は右前頭葉に腫瘍がありましたが、神経線維の状態を確認してみると、前頭葉と視床の繋がりのみが損傷しており、側頭葉と後頭葉の繋がりは保たれたままでした。これは、重複性記憶錯誤に関する従来の考え方では説明しにくいものであり、前頭葉と視床の繋がりに、まだ明らかになっていない役割があると示唆されました。
世界遺産の港町・ポルト
左端が心理学専攻(後期博士課程)の越智さん
発表にあたって
国際会議への出席は2回目でしたが、前回はコロナ禍でオンライン発表だったこともあり、対面での参加は初めてでした。世界各国の研究者や臨床家との面と向かってのディスカッションは、論文や査読などのテキストを介したコミュニケーションとは違った刺激や面白さがあり、2時間の発表時間があっという間に過ぎていきました。また、今回発表した内容に直接関わる先行研究の著者とも交流する機会があり、とても貴重な経験をすることができた日々でした。