大学院

【究める vol.124】研究室訪問① 考古学研究室(文学研究科・日本史学専攻)

2023年07月10日

「究める」では、大学院に携わる人々や行事についてご紹介します。今回は研究室訪問の第1回として、文学研究科・日本史学専攻の考古学研究室(小林 謙一教授)へお伺いしました。中央大学唯一の考古学研究室である本研究室の活動や所属する大学院生へのインタビューを中心にお届けします。

考古学研究室の概要や活動について

考古学研究室の概要や活動について、担当教員である小林 謙一教授に伺いました。

考古学研究室はどのようなところですか

普段のゼミでは、文献(論文)講読や修論・博論にむけての発表をやっていきます。夏休みには、担当教員である私と一緒に遺跡に発掘作業に行きます。昨年は、縄文時代中期のムラの遺跡である山梨県北杜市の諏訪原遺跡に発掘に行きました。調査した竪穴住居跡からたくさんの土器や石器等の遺物が出てきたので、現在は、それらの資料の整理作業をしています。調査や作業は、学部の考古学実習や3~4年生の考古学ゼミとしてもやっていますが、学部生ではすべてに関わることは難しいため、作業の中心となっているのは大学院生です。大学院生にとっては、学部生に教えることで自分の学習効果も高まるほか、作業の中で自分の研究テーマを見つけていく人もいます。

一つひとつの調査や作業は自分の研究になるだけでなく、研究室全体としての仕事にもなっていて、調査結果を報告書にまとめて連名で学会で発表することもあります。

研究室に出入りする人には、学部生や大学院生のほか、人文学研究所の客員研究員や博士前期課程を修了した後にアルバイトで補助をやっている人もいます。作業には日本史学専攻の他の時代を専門としている大学院生や考古学をやりたい学部生も参加しています。考古学を専門にやりたい人も、自身の学習の一つとしてやりたい人もいて、いろんな人が集まる場になっています。

考古学の発掘作業・遺物整理の流れを教えてください

発掘調査はただ掘るだけでなく、準備、発掘作業、整理作業とあります。夏休みに2~3週間発掘へ行った場合、整理に1~2年はかかります。遺跡に行って発掘作業をしたら、まずそれらの資料(遺物)を整理する作業があります。どんなものが出たかを報告できるように資料化していく作業です。土を落とす(洗う)、どこから出たかを記す(注記作業)、リストを作る、写真や図面を書く等の作業を行い、どこの地点のどこのどのような土器が出土したかを記録していきます。最終的に発掘調査報告書を出さなければならないため、報告書にまとめられるよう、資料を整えていきます。

発掘調査にもいろいろなケースがあります。自分の調査として行う場合だと、事前に研究調査デザインとして一連の調査全体をデザインしてから調査に行く必要があり、研究目的に沿った形で発掘をデザインしていきます。発掘調査には、自治体等から依頼を受けて発掘する場合のように遺跡自体を中心に、遺跡全体の内容解明や地域における位置づけをみていくケースもあれば、まず自分の研究があってそれに合った形で、遺跡を保存しながら調査をする必要があるケースもあります。研究科全体的な調査か、場合によっては調査か保存かが問題になることもあり、調査の際には、さまざまなバランスを見ながら進めていきます。

大学院生へのインタビュー

考古学研究室に所属する大学院生(文学研究科・日本史学専攻)に、実際の発掘作業の様子や自身の研究活動をはじめ、大学院進学のきっかけや受験生のみなさんへのメッセージなど、様々な角度からインタビューを行いました。

インタビューを受けていただいたのは、柴田 実季さん(博士前期課程1年)、奈良部 大樹さん(博士前期課程1年)、佐藤 舞優さん(博士前期課程2年)、西村 彩さん(博士前期課程2年)の4名です。

考古学に関心を持ったきっかけは何ですか

もともと小さい頃から考古学が好きだったから、が根底にあります。ただ、学部では哲学をやっていて、考古学を始めたのは大学院からです。学部時代に考古に関わる授業を受けたいと思い、それと一緒に学芸員資格を考古学分野で取ろうと思いました。その際、考古学実習は最低1日行くのが必須だったのですが、行きたい人は何日か続けて行ってよいということで、数日続けて行ったことでより深く学びたいと思ったことが、考古学をやろうと思ったきっかけです。この発掘の後から研究室に行くようになり、遺物について実物を見ながら教えてもらうようになりました。

(西村さん)

小さい頃に吉野ケ里遺跡へ家族で行った時にちょうど発掘調査をしていて、すごいなと思った記憶が残っています。小中高では特に何もしていなかったのですが、大学の学部1年生の時にクラス分けがあって、クラス担任がたまたま小林先生でした。そこで発掘に参加する機会があり、研究室には学部1年生の頃から出入りしていました。2年生で新型コロナウイルスが流行して、大学に来られなくなりましたが、研究室で先生のもとで資料整理とかをやらせてもらったため、遺物を見る機会はたくさんありました。

(柴田さん)

もともと子供の頃から昔のものに興味があり、その一環で考古学にも興味がありました。大学受験の時は恐竜よりは歴史で勉強したいなと思い、学部は東洋史学専攻に入学しました。東洋史をやっていこうと思っていましたが、サークル活動で考古学研究会に入って発掘をしていたら面白いなと思い、卒業してから大学院進学を考えました。

(奈良部さん)

親の仕事の関係で文化財保護のことをやっている知り合いがいて、その中に考古学をやっている人もいたため、考古学や学芸員に興味を持ちました。日本史学専攻に入学したのは、高校時代にお城巡りが好きだったので、大学では日本史を学びたいと思ったことがきっかけです。卒論を書く際にどのゼミに入ろうかと考えるなかで、自分は古代や古墳を研究したいと思い、考古学のゼミを選びました。

(佐藤さん)

初めて発掘調査をした時の気持ちを教えてください

初めてでさらに炎天下の中での発掘作業でしたが、疲労感よりも達成感の方が強かったです。夏休み中の発掘でしたので直射日光が強く、さらに遺跡が交通の便が良いわけではない所にありましたが、発掘中に土器片を初めて掘り出した時の感動で全て帳消しにできるくらい楽しい経験になりました。最初は礫と土器片の区別もつかなかったのですが、先輩や先生が優しく教えてくれるので、とても勉強にもなり考古学への意欲もそこで育ちました。

(西村さん)

学部1年の5月に初めて参加しました。周りは自分よりもずっと専門知識がある人で、少し緊張しましたが、発掘に必要なことは先輩が丁寧に教えてくれるので、心配はいりませんでした。実際に掘ってみて、掘ったらちゃんと出てくるんだという感動がありました。あとは、博物館や教科書で見るような立派な土器って珍しいんだなと。現場だと、土器片がポンと単体で出てくることが多いです。運よくつながるものもありますが、まとまって出てくることは珍しく、これまでの人生で見てきた土器はすごくいい土器なんだなと思いました。

(柴田さん)

学部1年の秋に三鷹の滝坂遺跡(縄文時代中期の集落)に行ったのが初めてで、その時は周りが何をやっているかわかりませんでした。現場には竪穴住居跡等の遺構があり、現場経験がないと見えないものがあります。先生がどんどん位置(線)を引いていくのを見て、何で引いているのか不思議に思ったり。発掘は一人で黙々とやるよりはみんなで相談しながら進めます。掘り間違えるとやり直せないし、遺跡の性格の解釈を間違えると、正しい歴史を把握できません。

(奈良部さん)

初めての発掘をしたのは学部2年の考古学実習です。毎年履修者が1日行くもので、体験のような感じで行きました。なにかが出てきただけでこれが発掘か!という感じでした。初めて行った時が実習生という立場だったので、とりあえず掘ってみようという感じで、測量を手伝うときもありましたが、実習生は掘るのが中心です。遺物を袋に入れて縛っていく作業だけでも、あ、出てきたものなんだ!と思いました。

(佐藤さん)

大学院生になって、やること・できることはどう変わりましたか

学部の時と大きく違うのは、やはり自分の研究のための時間が取れるようになったことです。授業も他大学のものも受けれるようになったことから、より自分の学びたい領域の授業を受けられるので選択の範囲も広がるようになります。私は学部とは違う分野に来て、基礎知識が圧倒的に足りないと感じることもありましたが、その分リカバリーするための時間も作ろうと思えば作れるので、やはり学部とは違い自分のスケジュールの組める範囲が広がるのが大学院という場所だと思います。

(西村さん)

大学院の前に、まず大学に入ると自分が好きな日本史、そして大学院に入るとその中でもさらに考古学と、自分の好きな分野に集中して学べるようになりました。もちろん授業を取らないといけないですが、取る授業も自分の研究に関連するもので、自分の研究を深めるために時間を費やせますし、大学院はそれが認められる環境だと思います。

(柴田さん)

学部を出てから社会人を挟んで大学院に入りました。考古学研究室の中でウェイトを占めるのは発掘で出てきたものの整理作業ですが、学部生の頃は院生の先輩に言われて手伝う感じだったのが、今度は自分が主体となって進めるようになりました。あとは、考古学実習のTAを担当していて、学部生に作業を教えるために勉強し直して、こういうものだったのかと改めて気づくこともあります。いずれは行政の発掘の仕事に就きたいと思っているので、初心者の感覚やコミュニケ―ションを取りながら作業をしていく経験は、将来、未経験者と発掘をする時に役立つと思っています。また。

(奈良部さん)

自分は学部時代に考古学研究会に入っていたわけではなく、実習で少しやっていたというだけでした。進学したいということを学部3年の終わり頃に小林先生に伝えて、4年生になってから週1回整理作業に参加していました。ただ、しっかり整理作業などをしたのはその時からで、大学院に入って変わったというよりは、できる環境にようやくなってきたという感じです。私も考古学実習のTAをやっていて、そうなると学部生からみたら院生で頼る対象になりますが、逆に、今やり始めて少し慣れてきたからこそ、等身大で教えられる面もあります。TAを通じて、自分でも教えられる、力になれるんだと思いました。

(佐藤さん)

研究テーマについて教えてください

縄文時代前期の関山式土器を対象に研究しています。一つの土器型式でも地域によって文様に違いが出るので、そこの細分化をしているところです。他にも、現在の千葉県に当たる地域を対象に海岸線が違った時代に焦点を当て、海面上昇で海岸線近くの住居の場所がどう変化したか研究しています。

(西村さん)

縄文時代中期の土器(曽利縄文期土器)について研究しています。フィールドとしている甲信地域から南西関東では、加曽利式と曽利式が互いに影響しあっていて、少しごちゃごちゃしています。そのうちの曽利縄文期土器の地域性を整理して、混沌としたところを少し整理できたらいいなと思っています。

(柴田さん)

縄文時代は土器を作るための轆轤(ろくろ)がまだなく、敷物を敷いてその上で土器を作っていたとされています。その敷物の素材としてどういったものが使われていたか、また、それを使ってどう土器を作っていたかということについて研究していきたいと考えています。

(奈良部さん)

古墳時代の終末期(7世紀から8世紀頃にかけて)に築造された終末期古墳のなかでも、日本列島に6基しか確認されていない上円下方墳について研究しています。この6基はバラバラに点在していて、それがどのような意味があって作られたのかという点に関心を持っています。主に遺物ではなく遺構についての研究です。

(佐藤さん)

大学院進学を考えている人へのメッセージをお願いします

学部と大学院で勉強すること(分野)が違ってもなんとかなります。そこを気にするよりも、「学びたいことをやりましょう」と思ってます。勉強する、知識を取り入れてそれを自分の研究でアウトプットする、という一連の流れはどの分野においても変わらないことなので、学部での経験が役に立たないということは絶対にありません。むしろ、学部の頃学んでいたことから院での研究にヒントをもらう、といったことも往々にしてあります。新しいことを学ぶことを恐れず、自分が興味関心を持っていることについてもやれることはやっていく、といった心持でいれば大丈夫です。

(西村さん)

大学院は、興味があることをどれだけやっても怒られない場所です。その分、求められることのレベルも高くなりますが、自分のやりたいことを突き詰めたい人には向いています。考古学研究室では遺物と常にゼロ距離で向き合うことができ、考古学に興味がある人にはおすすめです。入学試験に向けては、学部の授業をとにかくしっかりやって、あとは幅広く、自分の専門の勉強だけでは突破できない部分もあるので、まずは学部の授業で基礎を抑えて、しっかり説明できるようにしておくといいと思います。

(柴田さん)

他専攻出身という点では、もともとの専攻で学んだことを大学院で活かす道も考えられます。小林先生は縄文中期が専門ですが、研究室にはいろんな専門の人がいて、刺激を受けながらやっていかれるのは楽しいです。社会人からという点では、社会人経験で得た仕事の進め方をはじめ、失敗した部分をうまく生かしながらやっていくことができます。

進学するかどうかで悩む人は多いと思いますが、大学院で一生懸命勉強したことは、学部だけを出た人よりも専門職という点では広がるところがあります。先生もオープンな方なので、やりたいことを伝えれば他大の単位互換を紹介してくれたり、ゼミに他大の先生を呼んでくれたりします。小林先生と同じ考えを持つ先生だけでなく、時には異なる意見を持つ先生のお話を伺うこともあります。一つの考え方にとらわれず、頭を柔らかくして勉強していけるのが中大考古学のいいところだと思います。

(奈良部さん)

自分の場合は3年生になったときにコロナが流行したため、就活や資格試験の勉強を始める時期に人と進路の話ができませんでした。学芸員になりたいという目標はありましたが、まだ専門性が足りないと思い、進路を決めきれずに当時は一人で悩んでいました。小林先生に進学の相談をしたのは3年の終わり頃で、もっと早く決まっていればもっと経験を積むことができ、もっと先生と話す機会も持てたと思いますが、自分にとってはちょうどよい時期でした。

小林先生は縄文土器の人という印象が強くて、専門が縄文ではない人が遠慮してしまうかもしれませんが、そんな必要はありません。専門が異なる人も広く受け入れてもらえます。中大はいろんな分野の人との交流、違う時代の視点からの意見がもらえる場として、他大では同じ専門の人と交流する場として、うまく活用しています。

(佐藤さん)

小林教授からのコメント

私個人の話ですが、本学に務める前は、主に遺跡の発掘をする調査員を複数の場所で勤めた後、国立歴史民俗博物館で考古系研究員となり、考古学研究・調査に携わっていました。身分的には不安定な非常勤職の期間も長かったのですが、文字通り自分の好きな考古学の仕事をしていて満足でした。本学に招いていただいたときは、自分だけが好きなことをやるのではなく、考古学を社会に役立ててくれるような後進を育てなくてはならないという気持ちをもち、あまり向いてはいないと思っていた教育の場に身を置くこととしたのですが、「人に何かを教える」ということにはなかなか慣れませんでした。

しかし、授業で私が下手な話をするよりも、夏休みに行う発掘調査に興味関心を持つ学生が次第に集まってきてくれました。暑い夏の現場を共にし、その後に研究室で出土物整理を共同作業する中で、勝手に学生が成長していく姿に接し、私が教えると言うよりも一緒に研究を進めることで互いに大きな成果が挙がることが多いのだなということが、実感となってきました。

また、私が興味関心を持っている東日本の縄紋時代のことのみならず、ほかの様々な時代や地域の考古学を志す若い研究者の卵たちとの交流によって、私自身、おそらくは院生・学生たちにとっても、考え方の幅が広がることが大きな効果となっていると考えるようになりました。中央大学における、考古学研究の実践の場としてのあり方が、私にとっても、そこで学ぶ院生・学生にとっても、同時に中央大学さらには社会においても、いくばくかの意義をもたらすことを、今後とも期待したいと思います。

 

※本記事は2023年6月23日・27日に取材した内容に基づいています。