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日本のFX投資家の属性と収益性との関係を分析 ~口座レベルデータから見えてきたエビデンス~

2024年11月19日

※本プレスリリースは、 中央大学、SBI FXトレード株式会社との共同発表です。

■概要

 中央大学経済学部准教授の吉見 太洋は、外国為替証拠金取引(以下、FX)投資の収益性が、さまざまな投資家の属性にどのように依存するか、SBI FXトレード株式会社から提供を受けた口座レベルのデータを利用して検証した。
 口座レベルのデータを利用したFX投資家の属性と収益性の関係に関する研究は、諸外国においていくつか存在するが、日本にフォーカスした研究は多くない。そこで本研究では、これまで先行研究で明らかにされてきたことが、日本のFX投資家にも同様に当てはまるのかを検証した。まず、二種類の収益性指標(取引成功率*1)と累積損益率*2))についてFX投資家の属性との関係を検証した。その結果、両方の収益性指標に対し、個人資産額、年齢等が正の影響を持つ一方、性別(男性が保有する口座であること)、年収、前回取引からの経過日数等が負の影響を持つことが明らかになった。さらに、取引成功率は累積損益率に正の影響を持つが、この影響は男性よりも女性でより強く、また投資家の年齢が上がるほど強く、観察された。この結果は、先行研究が指摘する「Learning about Abilityの効果」(投資家としての素養の発見効果)が性別や年齢などの投資家の属性に依存していることを示唆している。
 本研究成果は、2024 (令和6) 年11月 9日開催の「日本金融学会中部部会2024(令和6)年度第1回研究報告会」で発表された。
 

【研究者】  

吉見 太洋 中央大学経済学部 准教授 (国際経済学科)

【発表学会】 

学会名: 日本金融学会中部部会2024(令和6)年度第1回研究報告会
日時: 2024 (令和6) 年11月 9日土曜日12時30分~17時10分 
場所: 南山大学 名古屋キャンパス J棟54教室、55教室
論題:「FX投資家の収益性に関する研究:口座レベルデータから得られるエビデンス、SBI FXトレード株式会社との共同研究」
発表者: 吉見 太洋 (中央大学経済学部)

 日本金融学会は、金融および金融に関する事項の理論並びに政策の研究を行い学問の進歩、経済の発達に寄与することを目的として、昭和18(1943)年に設立された。経済学に関連する学会では最古の部類に属する。会員は2024年現在で約1,300名。

【研究内容】

1.背景

①これまでの研究でわかっていた点
 FX投資家の属性と収益性の関係に関する研究は世界でもそれほど蓄積がある訳ではない。現状存在するいくつかの先行研究では、過去に収益をあげている投資家が必ずしも将来も高い収益をあげている訳ではないことや、収益が出た後には取引回数や取引額を増やし、損失が出た後には減らす傾向があること等が明らかになっている。また、経験の長い投資家が必ずしも高い収益を挙げている訳ではないことを指摘する研究もある。言い換えれば、いわゆる”Learning by Doing”の効果は必ずしもFXトレードにおいては観察されないことが指摘されている。さらに、経験を積むことで自らの投資家としての素養を認知するという経験効果(”Leaning about Ability”と呼ばれる)が存在することを指摘する研究もある。こうした研究では、現在までの取引のうち収益があがった取引の割合を投資家の素養と同定し、経験を通じて自らの素養を認知し、素養の高い投資家が市場に残って高い収益率を上げる傾向があると論じられている。

②この研究が新しく明らかにしようとした点
 FX投資家の属性と収益性の関係に関する研究はいくつか存在するが、日本にフォーカスした研究で、かつ口座レベルの詳細な情報を用いた研究は多くない。本研究の目的は、これまで先行研究で明らかにされてきたことが、日本のFX投資家にも同様に当てはまるのかを検証することである。
 

 

2.研究内容と成果

③目的達成のために新しく開発した方法
 本研究の目的は諸外国で得られた知見が、日本のFX市場においても成立しているかを確認することであるため、基本的に分析や変数の作成については先行研究と整合的な方法で行った。分析の鍵となる二つの収益性指標(取引成功率と累積損益率)は、以下のように定義した。
取引成功率:    取引があったすべての日のうち、プラスの収益が実現した日が占める割合(%)
累積損益率:    観測日までの累積損益額が、初期証拠金残高と観測日までの累積入金金額に占める割合(%)
 また、FX投資家の属性に関する指標として、個人資産額、年収、口座開設後の年数(経験)、年齢、性別などを設定し、128,705口座の投資家データを元に検証した。分析は一般的なパネルデータ分析の方法に準じて行った。

④この研究で得られた結果、知見
 個人資産額と年齢は、取引成功率と累積損益率の両方に対して正の影響を持っていた。また、男性ダミー(男性が保有する口座であること)、年収、前回取引からの経過日数は、取引成功率と累積損益率の両方に対して負の影響を持つことが分かった。さらに、取引成功率が高いほど累積損益率も高い傾向があり、この傾向は男性より女性で強く、また年齢の高い投資家ほど強く、観察された。この結果は、先行研究が指摘する「Learning about Abilityの効果」が、性別や年齢などの投資家属性に依存することを示唆している。
 

 

3.今後の展開

⑤研究の波及効果、将来への発展性
 当該研究結果はFX取引への新規参入者に対する重要な参考情報となる。例えば、前回取引からの経過日数が取引成功率に与える負の影響が観察されたが、この結果は、経過日数を少なくし、FX投資家としての経験を積む取引を継続的に行うことが累積損益率を高めることにつながりうるという仮説を導くものである。この仮説が正しければ、高リスク商品であるFXを始める際には、少額の取引で経験を積んで素養を向上させることが、長期的なリスク管理の観点から重要であると考えられる。また、FX投資においては現状男性が主なプレイヤーとなっているが、少なくとも今回の分析サンプルにおいては、女性の方が男性よりも収益性が高い傾向にあった。これはFX投資が必ずしも男性向きの投資手法である訳ではないということを示唆している。インフレ環境や「貯蓄から投資へ」のスローガンを背景に、株、債券、為替への投資に多くの新規参入が見られる。本研究の分析結果は、FX投資への参入を検討する個人や、既にFX投資を行っている投資家に対する、一つの参考資料となるはずである。将来へ向けて資産運用を発展させる方策として、本研究の分析結果をSBI FXトレード株式会社の顧客に対するセミナーという形で展開することを計画している。今後の研究の展開としては、具体的な取引手法(指値、逆指値など)が収益性に与える影響の検証なども予定している。

⑥今後の課題
 今回は口座レベルのデータに基づいて分析を行った。より厳密に検証を進めるには、取引ごとの収益性にも着目して、投資家の属性だけでなく、各取引タイミングにおけるマクロ環境や取引方法の影響を見る必要がある。また、本研究の現状の成果が投資家の実感と整合的なものであるかも確認する必要がある。こうした課題についても、今後共同研究を続ける中で取り組んでいきたい。
 

 

【中央大学について】

 中央大学は、1885年の創立から「實地應用ノ素ヲ養フ(じっちおうようのそをやしなう)」という建学の精神のもと、いつの時代にも社会を支え、未来を拓くことを使命とし、実社会の課題に対応する教育・研究に取り組んでいます。
 「Chuo Vision 2025」に基づき、中央大学は持続可能な社会を築き、国際的に貢献できる実践力を持つ次世代の人材育成を目指して、2026年から2027年にかけて新しい5つの学部を設置する計画を進めています。2026年4月には現在の理工学部を再編し、基幹理工学部、社会理工学部、先進理工学部の3つの学部を、2027年4月にはデジタル×スポーツ、デジタル×農業の2つの学部を開設に向け設置構想中です。
 URL:https://www.chuo-u.ac.jp/

【SBI FXトレードについて】

 SBI FXトレードは、東証プライム市場上場のSBIホールディングス株式会社傘下、SBIグループの100%子会社です。外国為替証拠金取引(FX)に特化し、初めての方にもわかりやすく、上級者の方にも納得いただける高度なお取引など、FX専業だからできる、きめ細やかなサービスをお届けしています。
 URL:https://www.sbifxt.co.jp/
 

【お問い合わせ先】 
<研究に関すること>
吉見 太洋 (ヨシミ タイヨウ) 
中央大学経済学部 准教授(国際経済学科)
E-mail: yoshimi[アット]tamacc.chuo-u.ac.jp

<広報に関すること>
中央大学 研究支援室 
TEL 03-3817-7423または 1675 FAX 03-3817-1677
E-mail: kkouhou-grp[アット]g.chuo-u.ac.jp  

SBI FXトレード株式会社 企画室 
TEL 03-6229-0915

※[アット]を「@」に変換して送信してください。

【用語解説】

注1)取引成功率
現在までの取引のうち、収益があがった取引の割合のこと。

注2)累積損益率
観測日までの累積損益額が、初期証拠金残高と観測日までの累積入金金額に占める割合(%)のこと。
 

付記:
「口座レベルのデータを利用したFX投資家の属性と収益性の関係に関する研究は、~ 日本にフォーカスした研究は存在していない。」としていたところ、「口座レベルのデータを利用したFX投資家の属性と収益性の関係に関する研究は、~ 日本にフォーカスした研究は多くない。」と訂正。
また、「FX投資家の属性と収益性の関係に関する研究はいくつか存在するが、~ かつ口座レベルの詳細な情報を用いた研究は存在していない。」としていたところ、「FX投資家の属性と収益性の関係に関する研究はいくつか存在するが、~ かつ口座レベルの詳細な情報を用いた研究は多くない。」と訂正。
(2024年11月29日付)」