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ニホンウナギで初めて天然遡上個体の減少を特定
- 岡山県におけるケーススタディ -

2018年07月06日

 中央大学法学部 准教授 海部健三を含む研究グループは、ニホンウナギの天然遡上個体が減少していることを、岡山県におけるケーススタディとして実証した論文を発表しました。この論文は、本研究グループが世界で初めて開発した、ウナギの天然遡上個体と放流個体を判別する手法を、実際の河川及び沿岸域で捕獲された個体に応用した初めての事例でもあります。この論文の概要は下記のとおりです。

 

概   要

1.本研究の背景
 天然の二ホンウナギ漁獲量は1970年代から減少し始め、現在では絶滅危惧種に指定されています。種の保存にむけた適切な対応を検討するためには、日本ウナギの環境中での資源動態を把握する必要がありましたが、ニホンウナギの資源動態に関する研究報告は、これまでに1例しかありませんでした(Tanaka 2014)。その論文では、1990年以降、1歳以上の日本ウナギの数は増加していると結論付けていましたが、古くから放流によって人為的にウナギが添加されてきた日本の河川や湖沼の漁獲データに基づいた研究であったため、ニホンウナギの資源動態を正しく推定できていない可能性がありました。ニホンウナギの資源動態を正確に把握するためには、放流された個体と天然遡上した個体を識別し、天然遡上個体の資源動態を解析する必要があります。

 

2.本研究で利用した手法
 中央大学法学部 准教授 海部健三を含む研究グループは、2017年に世界で初めて「耳石安定同位体比を活用した天然遡上個体と放流個体の識別手法」を提案しました(Kaifu et al. 2017)。シラスウナギとして沿岸域で採捕され、養殖場である程度育った個体を河川や湖沼に放すのが、日本で行われているウナギの放流です。放流されたウナギが育った養殖場の環境と、自然の河川や湖沼の環境は大きく異なるため、天然遡上個体と放流個体の耳石の酸素・炭素安定同位体比は大きく異なり、この違いを利用してニホンウナギの天然遡上個体と放流個体を識別する線形判別モデルを作成しました。本研究では、この線形判別モデルを岡山の河川及び沿岸域で捕獲されたニホンウナギに適用しています。

 

3.本研究の成果
 本研究では、岡山県の河川及び沿岸域で「耳石安定同位体比を活用した個体識別法」を応用し、天然ウナギの資源量の動態を推定しました。はじめに岡山県の吉井川、旭川、高梁川及び沿岸域を含む10か所の試料採取地点で採集された全289個体資料を線形判別モデル(Kaifu et al. 2017)を用いて判別し、天然遡上個体が優占している水域を特定しました。次に、天然遡上個体が優占している水域においてニホンウナギの漁獲データを収集し、個体数の変動を解析しました。天然/放流の判別の結果、放流が行われている淡水域で捕獲された161個体のうち、98.1%が放流個体と判別されました。一方、放流が行われていない沿岸域で捕獲された128個体のうち82.8%が天然遡上個体と判別されました。天然遡上個体が優占する沿岸域における2003年から2016年までのはえ縄及び定置網のCPUE(単位努力量あたりの漁獲量、個体数密度の指数)は有意に減少しており、この水域における天然遡上個体が現在、減少していることが示されました。
 岡山県の淡水域に生息する天然のニホンウナギは極めて少なく、しかも、天然遡上個体が多く存在する沿岸域の個体数密度指数も減少しています。全体的にみると、岡山県に生息する天然遡上のニホンウナギは、著しく減少したと結論づけられます。ニホンウナギは単一の産卵集団により構成されているため、この地域の資源動態が、個体群全体の動態を反映している可能性、つまり、ニホンウナギ個体群全体が減少を続けている可能性も考えられます。

 

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【論文タイトル】 Depletion of naturally recruited wild Japanese eels in Okayama, Japan, revealed by otolith stable isotope ratios and abundance indices(岡山県の天然個体の優占する水域におけるニホンウナギ資源の減少)

 

【研究者】海部健三(中央大学法学部)
     横内一樹(水産研究・教育機構中央水産研究所)
     樋口富彦(東京大学大気海洋研究所)
     板倉光(メリーランド大学環境科学センター)
     白井厚太郎(東京大学大気海洋研究所)

 

【発表(雑誌・学会)】 Fisheries Science
            https://doi.org/10.1007/s12562-018-1225-2

<本件に関するお問い合わせ>
 中央大学法学部・研究開発機構ウナギ保全研究ユニット
  国際自然保護連合(IUCN)種の保存委員会 ウナギ族魚類専門家グループ
   海部健三
   TEL:0426-74-3243
   Email:Kaifu◎tamacc.chuo-u.ac.jp

 

  *◎を@にかえて送信してください。

 

<取材に関するお問い合わせ>
  中央大学広報室
   TEL:042-674-2050

   Email:kk@tamajs.chuo-u.ac.jp