社会・地域貢献

『アマモ』再生活動と『アマモバイオマス』の提案

岡山学芸館高等学校 2年 森末 雄大

( 1 ) はじめに
海洋国家である日本に住む私たちには、海を守るべき使命がある。この志のもと、本稿は、岡山学芸館高校で取り組んだ海洋学習と、その学びから得た、新たな構想を述べたものである。
日本は国土こそ狭いが、排他的経済水域と領海を合わせた広さは世界6 位である。海洋国家日本にとって海の資源と環境の保全は必須となる。
瀬戸内海、また吉井川や百間川といった一級河川に近く、水資源が豊富な環境に立地する岡山市東区西大寺。この地に私の通う高校がある。この絶好の環境を活かして、私の在籍するコースでは実践的な海洋学習に取り組んでいる。

( 2 ) 海洋環境問題解決のための2つの視点
私は1年次に、世界規模での生物多様性の維持・向上、世界的な漁獲量の問題、水資源の枯渇、EEZと今後の公海への取り組みなどを学んだ。
この学びから、海洋環境問題を解決していくうえで重要となる2つの視点を得ることができた。まず、環境問題の解決といえども、環境面を考慮するだけではなく、「多面的、多角的に捉える視点」だ。例えば、水資源の過剰採取という現状の改善には、全世界的な漁獲量制限の実施と同時に、その経済的影響も想定するというものである。
次に、「里海」という視点である。里海とは「人手が加わることにより、生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域」のことである。海の環境、資源の保全というと、自然状態こそ最善と考えがちだが、そうではない。自然生態系と調和しつつ人が手を加えることで、高い生産性と生物多様性の保全を図ることが重要であるという視点だ。

( 3 ) アマモ再生活動
私は海洋学習の一環として、日生漁協に協力してもらい、漁師の方々をはじめ漁協組合の職員まで、海に関わる多くの人々から海の現状のヒアリング(聞き書き)を行った。その結果、日生漁協では、漁協と地元の漁師が協力し、埋め立てで地形的に悪化した漁場や、生活排水などで汚染されていた水質を、30年という長い年月をかけ「アマモ」によって改善してきたということを知った。
アマモとは海草の一種であり、海底に自生する被子植物である。アマモ場は稚魚の餌が豊富なことから、魚が産卵する場所、稚魚が育つ場所として大変重要な役割を果たしている。さらにアマモは根から海底の栄養塩(窒素やリン等)を吸収するとともに、光合成によって海水中の二酸化炭素も吸収し、酸素を供給する。そのため、アマモの減少は、海水中の二酸化炭素吸収量、酸素量の減少につながる。酸素量の減少により、生物の生存環境が損なわれる。また、アマモの減少が栄養塩を増加させ、それがプランクトンの大量発生、海の濁り、水質の悪化にもつながるのである。
アマモの減少と漁獲量の減少、水質悪化の関係に気付いた日生漁港の漁師の方々は、アマモの再生に取り組んできた。その再生活動の結果、漁獲量は増え、乱獲も減った。これはまさに、前述した多角的・多面的な問題解決が図られている一例であるといえる。アマモの再生活動により、環境問題としての水質改善と生物多様性の改善が図られ、同時に、漁獲量の向上により経済的な問題の解決も図られている。そしてこれらが人の手が介入されたことで行われており、自然と人為の調和した解決がされているのである。
この取り組みを広めるためには、まず私たち自身がアマモ場再生活動について深く知ることが重要である。そこで、1 年間を通じたアマモ再生活動に参加させていただいた。
① アマモの流れ藻の回収
まずは6月半ばにボートで沖に出て、流れ藻の回収を行った。大量に浮遊している流れ藻を、銛で少しずつすくい上げていった。回収中に、アマモを観察し、アマモがイカの産卵場所になっているなど、多くのことを見て学ぶ事ができた。
② アマモの種取り・種まき
回収した流れ藻を袋詰めしたものを、4ヶ月間カキ筏に吊るして成熟させる。その流れ藻は4ヶ月前に見たものとは全く異なり、腐食して濃い緑に変色していた。米を研ぐように、何度も海水で洗い流すと、米粒のようなアマモの種子を集めることができた。その後、集めた種子を船で運び海に撒いた。
③ アマモポットの作成
10月中旬に、NPO法人里海づくり研究会議の田中丈裕氏にご指導いただき、アマモポットの作成を行った。ポット内の砂が含んでしまっている空気がアマモの発育を抑制してしまうとのことで、割り箸を用いて空気を抜くなどと、細かい行程や工夫が必要であった。そして作成したアマモポットは、翌年の3月にダイバーの手によって日生の海に植えられた。
漁師の方々や漁協の人々が、どれ程の苦労を重ねてアマモの再生活動に臨んできたか。また、現在250㌶以上にもなるアマモ場の再構築がどれほどすごいことなのか。一連の流れを経験することで、改めて感じた。
この日生漁港での取り組みを事例に、世界各地でアマモ場を育成する試みが始められている。インドネシアでは放棄されていたエビの養殖池でエビ、魚、天草などを組み合わせた複合養殖の実験を行ない、本格運用に乗り出すところまできている。

( 4 ) アマモバイオマスエネルギーの構想
私は、種を取りだした後のアマモがそのまま海に廃棄されていることに疑問を感じた。「捨てるのではなく、利用する方法はないのだろうか」と考えた。しかし、アマモは他の海藻と異なり人間の胃では分解しにくいため、食品に活用することは難しい。そこで、私はアマモを使ったバイオマスエネルギーの構想に至った。
バイオマスは枯渇しない新しい資源、石油、石炭、天然ガスに次ぐ4 番目のエネルギー資源として、世界で注目されている。
バイオマスの原料として、サトウキビやトウモロコシといった農作物が利用されていることはよく知られている。しかし穀類の利用は、食料価格の高騰をもたらすなど、食料との競合が課題となる。そこで次に注目されたのが、間伐材や稲わらだ。これらは国土の3分の2が森林である日本には一見有用にみえる。また、食料とも競合しない。しかし、前処理が非常に困難という欠点がある。木の幹は、非常に固い繊維を形成している。微生物は固い物を食べて分解するのが苦手であり、バイオマスエタノールを精製するための前処理として、原材料を柔らかくしなければならず、高コストとなる。
しかし、アマモバイオマスは、原材料が食用されない海草である。食料との競合もほぼなく、もともと柔らかいため前処理の手間も省ける。実際に、広島大学ではコンブをつかった研究が行われている。その研究で、干潟の泥内に生息する微生物群を利用して海藻を分解し、メタンを生成できることが発見されている。また、アマモには、でんぷんが多量に含まれ、成分上では麦やトウモロコシなどの陸上穀物に類似しているという。したがって、アマモは潜在的な海産穀物資源であり、他の海藻より水産バイオマスとしての可能性を秘めていると考えられる。

( 5 ) アマモの活用でコスト削減
一般的な水産バイオマスは、属性の違いはあるものの間伐材と同様に、コストが課題となる。通常、水産バイオマスの工程では、原材料を栽培し、回収し、エネルギーを抽出し、そして抽出したエネルギーを精製する必要がある。海藻を活用する場合、栽培費用はもちろんのこと、海藻を粉砕する装置、メタンガスに分解させる装置、さらには分解したメタンガスを保管する設備が必要となるため、やはり石油や石炭に比べると高コストになるのが現状である。そのため、以前から世界各国で水産バイオマスの研究は行われているものの、実用化が遅れている。
しかし、アマモの活用で、コストの課題を解決できるのではないか。まず、アマモによる水質改善、生物多様性の向上で良い漁場ができ、水産業からの利益が見込める。さらに種を採取した後の藻を使用する。現在は廃棄されている「ゴミ」を使用するので、収集にかかるコスト、藻の購入費用なども削減できる。
次に高付加価値物質の併産が期待できる。藻類特有の糖質である「マンニトール」や「アルギン酸」から、「EPA(エイコサペンタエン酸)」や「DHA (ドコサヘキサエン酸)」、「アスタキサンチン」や「スクアレン」といった健康市場へ展開できる物質を回収・精製することができる。高付加価値物質を販売し、エネルギー生産分の赤字を補えば、コストの課題はクリアできる。

( 6 ) まとめ~アマモを基盤にした地域社会創生~
アマモの栽培により、水質や生物多様性の改善を図るとともに、アマモ場を魚介類の“ 揺り寵” にして水産業の利益向上を図る。さらに種を採取したアマモからメタンと高付加価値物質を精製する。高付加価値物質は特産品として売り出し、メタンはガスタンクに保存して燃料ガスや発電に利用する。漁港や漁船で活用してもよいし、余剰分がでれば、地域外に販売することも可能だ。これらを離島や過疎化が進む漁村で行うことで環境保全とともに、地域活性化につなげることもできるのではないか。
また、上述したインドネシアの例同様に、海洋資源の活用は世界にも広げられるメリットがある。
海洋国家日本にとって、海との共生は必要不可欠であり、多様な問題に直面する将来、その価値は必ず高まるはずである。将来とは私たちの生きる世界、そしてさらに未来へ続いていく世界である。私たち自身が積極的に関わり、守っていく必要がある。今私はペットボトルなどを使い、簡素なバイオマス装置を作り、アマモの葉や茎からメタンを抽出する実験を計画している。今後も海洋学習を通じてアマモの可能性を探求しつつ、環境保全、経済・地域発展に寄与できる道を模索したい。

《参考文献》
「基礎からわかるバイオマス資源」 山本博巳 エネルギーフォーラム2012/7/1

「里海論」 柳哲雄 恒星社厚生閣2006/2/1

「再生可能エネルギー技術」 藤井照重 森北出版
2016/12/6

《参考URL》
https://www.sbenergy.jp/study/illust/biomass/
バイオマス発電のしくみ みるみるわかるEnergy  SB エナジー

http://emira-t.jp/special/3124/
海藻をエネルギーに変換する水産バイオマス実現への道のり

https://www.fra.affrc.go.jp/bulletin/fish_tech/6-1/12.pdf
発酵原料としての利用を視野とした海藻草類の収集と成分調査

http://www.maff.go.jp/j/budget/yosan_kansi/sikkou/tokutei_keihi/seika_h24/suisan_ippan/pdf/60100433_04.pdf
海藻バイオマスからのバイオ燃料生産技術開発

https://www.spf.org/opri-j/projects/information/newsletter/backnumber/2011/265_2.html
海の恵み・海藻から作りだすバイオエタノール

http://www.eco-juku.com/contents/biomass.html省エネ塾

http://www.sanyonews.jp/article/775894/1/?rct=chiiki_syaka
山陽新聞デジタル 備前で里海提唱20年記念シンポ アマモ場再生など取り組み報告
(以上すべて9月3 日現在)

《参考資料》 三重県科学技術振興センター工業研究部研究報告
No.31 (2007) 超音波処理による海藻の液状化
男成妥夫