法学部政治学科4年岡嶋美和
6月26日(水)、グローバル人材育成推進事業による学生啓発講演会が多摩校舎8号館8208号室で開催され、世界銀行より東アジア・大洋州局シニアエコノミストの河内祐典氏をお招きしました。河内氏は私が昨年ワシントンDCに留学していた際に知り合った方ですが、開催の契機は河内氏の一時帰国の報を聞きつけた私が依頼したことに拠ります。今回の講演では世界銀行と日本のODAに携われてきた河内氏のご経験より、「開発援助の在り方―世界銀行と日本の国益―」をテーマに、世界銀行の概要及び日本との関わり、そして日本の取り組むべき課題についてお話しいただきました。
融資される側として始まった日本と世界銀行との関わりですが、近年は援助を通じて国際社会に貢献する側として活躍する立場に替わり、現在の日本の出資割合はアメリカに次いで第2位です。また、昨年の2012年には48年ぶりに東京で世銀・IMF総会を開催することができました。しかし世界銀行に多大なる貢献をする一方で、日本国内では大きな課題を抱えています。河内氏のお言葉を借りると、「厳しい財政事情や途上国の台頭の中、いかに効果的・効率的に国益を追求していくか?」です。日本は一千兆円に達しようとしている財政赤字を抱え、さらに国の一般会計予算のかなりの部分が国債の償還費や社会保障等の必須な支出で占められていることから、開発援助に充てる資金の拠出が難しいという現状にあります。ODA予算は減少し、以前世界第2位であった実績も5位に転落してしまいました。国内の厳しい財政状況は、ともすれば対外援助に対する疑問を抱く声を生みかねないとも指摘されています。
そのような苦境の中、河内氏は日本の取り組むべき課題として三点あげています。1つめは国際援助コミュニティにおけるプレゼンス・発言権の確保です。世銀において上級副総裁を1名輩出している日本ですが、現在の職員数は出資比率に相応しいものでは決してありません。世銀幹部への登用や出資額に中国やインド等の新興国が勢いを見せる中、世銀への貢献に見合った地位を確保しているとは言い難い状況にあります。そのような現状を打開するには「人材育成」がカギであると河内氏は指摘していました。2つめは日本の援助理念に対する国際理解の促進です。ある英系シンクタンクの発表によると日本の開発への貢献は著しく低く評価され、とりわけ「援助」、「貿易」、「移民」の項目において厳しい点数がつけられています。この事実に驚いた学生も多いようで、必死にメモを取る姿が多く見受けられました。そして最後に、「日本そのもの」に対する国際的理解の促進の必要性です。世界銀行による「日本のビジネス環境」とOECDによる「規制の厳しさ」の統計は、日本の経済環境が必ずしも世界で正しく把握されていない現状を表しています。「日本の援助理念」と「日本そのもの」が低評価されている原因について河内氏は、評価基準の設定方法にあると指摘し、ルール設定の段階から影響を与えることのできるようなポジションを確保することの重要性を指摘されていました。
このような課題を踏まえ、河内氏は「開発援助」と「他分野」が必要であると提言されていました。貧困削減という伝統的開発援助中心に、マクロ経済、安全保障、ソフトパワー外交、環境・エネルギー等の分野と関連させ、IMF、国連といった他機関や諸外国と緊密に連携することが今後は不可欠となってきます。講演の最後には、「グローバルなものの考え方を身につけることは、今後どのような分野で働くにしても結果的にそれが日本の国益につながると考えています。皆さんも視野を広く持って意欲的に学んでください」と河内氏より学生たちに熱いメッセージが送られました。
質疑応答では学生から「日本のODAの評価が低い背景には日本の技術協力の方法に原因があるのではないか?」、「21世紀の世界経済の成長の原動力は金融から実体経済に移行するか?」等活発に質問がなされ、講演会終了後も質問の列ができるほど大好評となりました。河内氏からも「とても鋭い質問をする学生たちで、私も良い刺激になりました」との感想を頂くことができました。今回の講演会を企画した者として、講演会を通じて世界銀行に興味・関心を持つ学生が増え、またグローバルに働きたい思いを後押しする良い機会になれば大変嬉しく思います。
最後に、この度は急な持込み企画であったにも関わらず、先生方、国際センターの皆様のご協力をいただき、無事開催に至ることができました。グローバル人材育成推進事業をご紹介いただいたヘッセ教授、授業の中に講演会を受け入れていただいた西海教授、そして手厚く支えていただいた国際センターの皆様に感謝の意を表したいと思います。そして何より、私がワシントンDCに留学中からお世話になり、今回もお忙しい中、中央大学での講演に時間を割いてくださった河内氏にこの紙面をお借りして心より御礼申し上げます。