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「水環境に関する国際シンポジウム」-招待講演
2013年03月22日
水災害適用型社会を目指して-日本における河川管理の課題
中央大学研究開発機構 福岡捷二教授
日本は、水災害の影響を受けやすい国土構造をしており、洪水氾濫により形成された国土の10%の氾濫平野(洪水の水位より低い土地)に全資産の75%、全人口の50%が住んでいます。
1時間あたり50mm以上の降雨の発生回数は、1996年~2005年は年平均で約300回となり、1976年~1985年の200回ほどだった期間に比べると1.5倍にも達しています。治水事業により、住宅の浸水地域は減っているものの資産被害額は増加し、経済的なロスが重大です。最近では、地下鉄の駅など都市部の地下施設にも浸水が生じており、また水災害の被災者には高齢者の割合が増大しています。
都市化の進行は水災害の大きな原因の一つです。首都圏の鶴見川流域では、この50年間に人口が140万人増え、流域の85%もが市街化されました。このため、以前に比べて土地の保水能力が低下し、洪水が発生するスピードが早くなりました。鶴見川流域では、開発前と比べると洪水ピーク流量は約2倍、流出時間は7時間も早くなりました。
都市化等に加え、温暖化による気候変動に起因する水災害の危険性が高まってきています。
国土交通省河川部局では、気候変動による水災害への適応策の検討を行っています。それによれば、一例として関東地方の100年後の予想降水量を見ると、現在の降水量の1.11倍となり、このため洪水流量が著しく増大し、現在の治水の安全度が著しく低下することになります。さらに、海の水位が上昇し、わが国の沿岸の土地がかなりの範囲で水面下に没してしまいます。東京、名古屋、大阪の三大湾地域では、海面下になる面積が現在の1.5倍、被災人口は1.5倍になると推定されています。
日本の河川の多くは整備途上の河川です。気候変動に伴って水災害がより深刻化しますので、将来の河川流域のあるべき姿、適応策についての検討が急がれます。
政府の水災害適応モデルには、気候変動の影響が考慮されており、いくつかの事例研究が行われています。適応策の実施にあたっては、政府と地方自治体が一体となって取り組むことが重要です。また一般市民の協力も不可欠です。水災害適用戦略を社会・経済構造改革の一環として捉え、柔軟なアプローチを基本として検討していくこと、新たな技術を発展させ、国際間の連携を深め、洪水調節や水使用、環境保全の計画のための研究や対策を推進しなければなりません。
こうした問題を解決するには膨大な時間がかかります。適応策と緩和策は車の両輪です。今後も科学者、工学者、技術者、政策決定者、市民等が協力し、取り組んでいくことが大切です。