キャリアセンター(理系)
「水」と社会の接点をデザインし、ワクワクする社会を創りたい
メタウォーター株式会社/認定特定NPO 地球の友と歩む会
小田嶋 龍飛(おだしま りゅうと)
海外ボランティアなど何事にも挑戦した学部時代
もともと環境や人に興味があり、人を軸に幅広く学べる理工学部人間総合理工学科を志望し、入学しました。人間総合理工学科は学際的な環境で、先生方も所属する学生も実に個性的。特に印象に残っている授業は、「人間総合理工学演習」です。さまざまな学生と一緒にグループワークやプレゼンテーションに挑戦する機会があり、異なる視点を持つ仲間たちとのディスカッションを通して、コミュニケーション能力を養うことができました。
入学当初はまだ専門分野を絞っていませんでしたが、「水環境工学」の授業がきっかけで「水」に興味を持つようになりました。そこで、大学1年のときにマレーシア農村整備の短期ボランティアに参加。自由に水が手に入らない環境でその重要性を体感し、「水」を研究テーマにしようと決意しました。大学3年からは山村寛先生の水代謝システム工学研究室に所属し、下水汚泥処理の研究に励みました。
また、学部時代は一貫して、「面白そうだと思ったら、まずやってみる」をテーマに行動するよう心掛けていました。塾講師からカフェ、アパレル、ライブスタッフなどありとあらゆるアルバイトを経験し、フットサルサークルでも活動。一人で海外旅行に行ったり、ヒッチハイクをしたり、友人と大学選びのコンサルティング業務を企画し、起業に挑戦したりもしました。やらずに後悔することだけはしたくないという一心で突っ走った結果、さまざまなフィールドで活躍する方々との出会いに恵まれ、それが自己成長につながったと感じています。
大学院在学中、インドネシアに研究留学
大学卒業後は就職する道も考えていましたが、研究をより一層深めると同時に、留学も経験したかったことから大学院へ進学。1年間、インドネシアのバンドン工科大学に留学し、現地の環境に適した下水汚泥処理について研究しました。インドネシアの研究環境は日本のように整備されておらず、現地の下水汚泥処理をテーマにしている研究者、先行研究はほぼゼロ。自分自身で研究の道筋を一から組み立てるのには苦労しましたが、そのおかげで課題設定能力が身につきました。
また、留学中には現地の水処理企業でインターンも経験しました。国際協力機関から技術支援を受ける場面に立ち会った際には、支援する側が現地の問題を把握できていなかったことで支援のミスマッチが起きる事態に遭遇。問題を解決するには何が必要なのか、自分の目でしっかり見極めることが大切だと学べたのも大きな収穫でした。
総合水事業会社でPPP/PFI事業に従事
大学院修了後は、ビジネスの観点から水問題の解決にアプローチしたいと思い、水処理プラント会社に就職しました。半導体や医製薬の製造に不可欠な超純水を製造する水処理プラントの設計に3年ほど従事。充実した日々を過ごす一方で、学生時代に研究してきた上下水にかかわる仕事がしたいという気持ちが強まり、総合水事業会社のメタウォーター株式会社に転職しました。現在は、浄水場・下水処理場を対象にしたPPP/PFI事業のプロジェクトマネジメントを担当しています。
官民が協同して効率的かつ効果的に質の高い公共サービス提供を実現するPPP/PFI事業は、ここ数年でますます活発化している比較的新しい取り組みです。具体的には、地域の上下水道事業を運営する特別目的会社(SPC)の設立、経営管理や、株主総会の運営、自治体との交渉、現場の維持管理効率化、研究開発や実証実験の支援、地域における新規事業ニーズ調査などを担当しています。
一番のやりがいは、自治体や地元企業などさまざまな関係者と協力し、上下水道の「ヒト・モノ・カネ」の最適化を行うことで地域に貢献できること。長期視点で自治体と信頼関係を構築しながら、「水」を軸に地域の未来を創っていく「経営者」のような仕事に面白さを感じています。また、近い将来、老朽化や人口減で従来型の上下水道システムの継続が難しくなっていくことが予想されます。水インフラの構造変化が迫られる転換期だからこそ、やりがいもひとしおです。
NPO、個人事業主の立場でも「水」を軸にした活動を展開
会社員としてはたらくかたわら、認定特定NPO地球の友と歩む会のスタッフとしても活動しています。これまでに携わったのは、人口約5000人のインドネシア・バリ島のプダワ村という農村での「住民主導の給水事業スキーム」の構築。およそ3年かけて現地への適用を試みた結果、給水普及率を90%以上に改善したうえ、NPOの支援が無くても、地元の方々のみで給水事業を運営できる仕組みが整いました。(この取り組みは、秋篠宮殿下が主催する第25回日本水大賞で国際貢献賞を受賞しました)。
NPOでの活動のやりがいは、本当に困った地域の方々を支援できること。会社員の〝ビジネス視点〟とNPOの〝草の根視点〟を掛け合わせながら、「手触り感のある社会貢献」ができることにやりがいを感じています。現地の方々から直接「ありがとう」をいただけるのも魅力です。今後はプダワ村での成功事例を水平展開すべく、スタッフのサポートに取り組んでいきたいと考えています。
一方、個人として「水ワクLabo」というプラットフォームを立ち上げ、水をテーマにした講演活動やキャリア支援、情報発信なども行っています。「水」をテーマに生活やビジネスを豊かにするべく、今後も新たなチャレンジを重ねていくつもりです。個人的にはカフェでのおしゃべりが好きなので、いつか「水」にこだわったカフェを開いて、そこを「水」について語れる情報発信基地のような存在にできたらいいな、などと夢を描いています。
「水」を軸にワクワクする社会を実現したい
ここまで、会社員、NPOスタッフ、個人事業主としての私の活動をご紹介してきましたが、すべてに共通するのが、「安定志向」「古い」「暗い」といったイメージを持たれがちな水業界のイメージを塗り替えたいという思いです。誰しも毎日触れているのに、普段はその存在をあまり意識することがない「水」は、あらゆる分野でもっと活用の余地があると考えています。だからこそ、これまで水業界に興味のなかった人たちを巻き込み、多様なアプローチで水と社会の接点をデザインし、ワクワクする社会を創っていきたい――。「水」を軸に歴史や宗教など教養を深掘りしていくこともできますし、水をビジネスの収益性向上、ブランディングや地域振興に役立てることもできます。「水」を軸にワクワクする社会を実現するために、今後も会社員、NPO、個人事業主の3足のわらじで奮闘していくつもりです。
「やってみたい」の声に従い今しかできない挑戦を!
変化の激しい時代、大切なのは「自分ならではの理想を想像する力」と、それを実現するための「課題設定・解決力」だと思います。学生時代は、その基礎力を身につける重要な時期です。ぜひ授業やゼミ、研修室を存分に活用してください。そして、アルバイトや趣味など自分の「やってみたい」の声に素直に従い、幅広い経験を積みながら自分ならではの理想を醸成してください。
皆さんの活躍を心から願っております。
Profile
1994 年生まれ。2017 年、理工学部人間総合理工学科卒業。2019 年理工学研究科都市人間環境学専攻修士課程修了。水処理プラント会社のエンジニアを経て、メタウォーター株式会社に入社。認定特定NPO 地球の友と歩む会でも活動するほか、個人事業主として水をテーマに生活やビジネスを豊かにするきっかけを発信。趣味は自然を感じること。
日本水大賞 国際貢献賞受賞時のスピーチ
大自然を浴びてリフレッシュ
NPO 給水事業を行ったプダワ村の皆さんと
インドネシア研究留学の様子