キャリアセンター(理系)

技術コミュニティをベースに歩むキャリア

freee株式会社・個人事業主
山口 鉄平(やまぐちてっぺい)

学生時代

高校時代からコンピューターに触り始め、データ圧縮の技術に興味を持つようになりました。その流れで、情報工学科に入学。学部3年生までは大学の授業を真面目に頑張り、少ない空き時間には塾講師や家電量販店でのアルバイトを詰め込んで、忙しい毎日を送っていました。学部4年生からは、鈴木寿教授の知能・情報制御研究室に所属。もともと興味を持っていたデータ圧縮技術について研究し、このテーマで卒業研究にも取り組みました。その結果、この分野に関する学術的な理解は十分深まり、データ圧縮の研究の深さと難しさを見たことから、修士課程に入ってからはデータの秘匿へとテーマを移しました。
このまま研究を続けたいと思いながら、修士2年生で就職活動にチャレンジ。しかし、その時は納得する進路に巡り合えず、そのまま博士課程へ進み、引き続きデータ秘匿の研究を続けました。そして、現在の社会状況におけるこの技術領域のポジションや、実業界での応用の限界点が見えてきたところで、大学院での研究に一区切りを付けました。

日立製作所時代

大学院を出て初めて就職したのが株式会社日立製作所(以下、日立製作所)。研究開発職として迎えてもらい、日立グループの研究開発の要である中央研究所で社会人生活をスタートさせました。最初の2年くらいは主にソフトウェア開発、その後は技術開発を担当。本体の日立製作所だけでなくグループ会社に向けた仕事も多く、日本全国各地を転々としながら業務にあたっていました。
その中で、プロセスではなく人との対話を重視し、常にソフトウェアを動かしながら変化へ対応していく「アジャイル開発」に出合い、もっとこれを深く研究したいと思うようになりました。しかし、当時所属していた部署が扱っているのは主に組み込み系だったため、アジャイル開発を実践するにはベストな環境ではなく、もっと実践できる場はないかと模索するようになりました。そんな中、特定の技術に興味がある人々が会社の垣根を越えて集まる、いわゆる「技術コミュニティ」で知り合った方からお声が掛かり、ヤフー株式会社(以下、ヤフー)に転職する運びとなりました。

ヤフーからfreeeへ

ヤフーでは、実践もさることながら、アジャイル開発を普及する立場として主に活動していました。その過程で、アジャイル開発をスムーズに進めるためには、ソフトウェアテストを改善すべきだと気付き、アジャイル開発と合わせてテストの自動化の技術普及を行うようになりました。
その中で、ある分野に突出した知識とスキルを持っている第一人者を「黒帯」として認定し、啓蒙活動や技術貢献の役割を与える社内制度があり、私も自動テストの黒帯として認定されました。そのことで、自動テストを含めた、テスト技術の技術普及に注力するようになりました。一方で、より効率的なソフトウェア開発を自分自身で実践したいという思いも強まっていきました。そんな矢先、ここでも技術コミュニティのメンバーから声を掛けていただき、クラウド会計ソフトを提供するfreee株式会社(以下、freee)という会社に移ることにしました。
freeeでは自動化エンジニアとしてSaaS型クラウドサービスの開発に用いる自動テストシステムの開発・運用や、サービス開発のフィードバック高速化を担当しています。やりがいを感じるのは、開発メンバーから感謝の言葉をもらったり、より素早いサービス提供を実現したり、サービス提供前に不具合を発見できたりした時。今後も自動化できるテストの種類を増やしながら、さらなる高度化に向けて取り組んでいきたいと考えています。今はDXの名の下にさまざまなサービスのソフトウェア化が進む時代です。まだまだ進化し、大きく変容していく分野に身を置いているので、組織の一員として自分に何ができるのか、社会実装を夢見ながらワクワクした思いで仕事を続けています。
このように、数万人の従業員を抱える日立製作所から数千人規模のヤフー、そして数百人規模のfreeeへと移ってきて感じるのは、組織の大きさによって属する人の特性やマインドセット、業務範囲や動き方も変わるということ。規模の大きい会社には落ち着いた環境でじっくりと仕事に取り組める良さがあり、規模の小さい会社には自分の意見やアイデアを提案しやすく、やりたい仕事をやれる良さがあります。どちらも経験できて幸運でした。

個人事業主として

会社員として働くかたわら、実は個人事業主としても仕事をしています。始めたのは、アジャイル開発の啓蒙活動をする中、ブレーヤーとしてみずから手を動かしたいという欲求が高まっていたヤフー時代。知人に頼まれて業務委託で仕事を請け負ったのをきっかけに、以降も課題に直面しているマネージャーやエンジニアリングリードからの依頼を受け、プログラミングやコンサルティングのお手伝いをしています。十年来の付き合いになる技術コミュニティのメンバーをはじめ、お世話になってきた方々のお役に立ちたい、これまで受けてきたご厚意を今度は私から若い世代に受け継ぐ「恩送り」がしたいと始めたことで、こちらを本業にして自分自身の会社を作りたいという考えは持ちあわせていません。会社員としてのメリットを手放したくないという思いもあります。会社員なら、経営や経理、総務などはほかの担当者に任せて自分の業務に専念できますが、経営者となったらそうはいきませんから。
一生プレーヤーとして技術に向き合っていきたいと考えているからこそ、できる限り会社員と個人事業主の両輪で進み、専門とする技術領域の進化に少しでも貢献できたらと考えています。

学生たちへのメッセージ

大学には、変化の大きな時代でも長く使える基礎的な知識や考え方を学べる機会がたくさんあります。即戦力となる技術は社会に出てからでも学べますが、基礎を一から学ぶ時間まで捻出するのは困難です。どんな最新技術を扱うにせよ、そのベースとなる知識や論理的思考を持っているのといないのとでは理解度や応用力が大きく変わってきます。学生時代のうちに、基礎をしっかり身につけておくことをおすすめします。
また、もしも興味のある分野があるなら、それに関わるイベントやコミュニティなどにどんどん参加してほしいです。私が日立製作所からヤフーへ、さらにヤフーからfreeeへと移ったのも、すべて技術コミュニティの仲間がきっかけでした。会社の垣根を越えて多様な方が集まるコミュニティの中で、私も多くを学び成長しました。だからこそ、現在は運営側としてイベントを開催するなど、後進育成にも取り組んでいます。皆さんにも是非、このような場を活用して視野を広げていただきたいです。
そして最後に。私のようなおじさんの話は、話半分で聞くようにしましょう(笑)。ある程度経験を積んでいる者には、多かれ少なかれ生存者バイアスがかかっているものです。年長者のアドバイスが自分にとってベストとは限らないので、すべて鵜呑みにせずに自分の決断を信じてやりたいことを思い切りやってください。応援しています。

Profile

1979年生まれ。
2008年、理工学研究科博士課程後期課程情報工学専攻を単位満期退学。その後、株式会社日立製作所、ヤフー株式会社を経て、2019年よりfreee株式会社。個人事業主としてコンサルティング業も営む。趣味はスキー。