学生相談室

学生のみなさんへ【2024年度 学生相談室からのメッセージ Vol.6】

2025年03月01日

学生のみなさんへ

 

 

年度も終わりに近づきました。4月からの新年度、新しい環境や新しい役割、新しい活動を楽しみに考えている人もいれば、不安に思っている人もいるかもしれません。中大生のみなさんのお話を聞いていてよく思うのが、みなさん聡明、そして謙虚で、よく周りをみて行動する慎重な学生さんが多く、それは良いところであると同時に、行き過ぎると、常に周り気にして自己不信を抱え、失敗のリスクにおびえて自己抑制ばかりすることになってしまう場合もあるようです。

 

 話は飛びますが。。。蟻はフェロモンを追うこと、そして自分も分泌することで、行列を守り、迷わずに餌場と巣を行き来しているようです。では、どうやって蟻の集団は餌場と巣の最短ルートを見つけるのでしょうか。初めの蟻がいきなり正解を出すわけではないでしょうし、みんなが前の蟻に正確についていくだけでは、ルート変更は起こりません。そこでエラーを起こす(跡を正確に追わず、違うルートを選択する)蟻の存在が重要になるようです。エラー蟻のルートがより効率よく往復ができるとなると(もちろんそうではない場合もあります)、そのルートのフェロモンが少しずつ濃くなり、それにより追従する蟻がさらに増え、やがて主要なルートに置き換わっていくということです。群れの中に、既存のルートを正確に追従する蟻だけでなく、間違う(不正確な、外れの行動をとる)蟻がいることが、蟻の集団全体の餌の獲得率を上げるのに役立っているという研究もあるようです。

 

 私が何を言いたいか大体お分かりかとは思いますが、短期・近視眼的に見てエラーに見えることが、長い目で見ると誤りではないことがあること(その時にはすぐに分からないですが)、また実際に部分的な行動が誤りであっても、そうした不確実さを確保しておくこと(部分的な揺らぎやランダムさを残しておくこと)自体が意図を超えて全体を修正し、最適化していく可能性を持つこと、また蟻は集団の力でそれを可能にしていますが、私たち個人が一人でやるには試行回数の多さが助けになるのではないかということです。こうして聞くと、失敗にも価値や意味があり、それほど悪いことではないような気がしませんか?

 

 蟻のルートの話から、私は脳の神経ネットワークの可塑性を連想します。脳の神経ネットワークは現在の思考や行動の基盤となっていると同時に、経験や学習、様々な脳内活動によって、常にその機能や構造を変化させていきます。よく使われる回路はより伝わりやすく強化されますし、そうではないものは衰えていきます。新しい接続が増えたり、不要な接続が排除されたり、柔軟に変化し続けていくのです。つまり、皆さんの日々の在り方がそれぞれの脳をより個性化しいくので、不安や過去の失敗に過度にとらわれ、萎縮して機会喪失の毎日を過ごすのは大変勿体ないことであると言えます。(もちろん必要な時期もあります。)こんなことを思い出しながら、いつものお決まりの思考パターンや行動パターンに留まり過ぎず、過去の失敗経験にもこだわり過ぎることなく、新しい経験や学習に開かれた態度でいるように心がけると、いつか予想している以上の自分の成長を実感できる時が来るかもしれませんね。

 

 学生相談室では、精神科医や心理カウンセラーが皆さんをお待ちしています。既にたくさんの学生さんが利用しているのですが、それを知らない人にはハードルが高く感じられるかもしれません。ですが、これも新しい経験の一つとして、勇気を持って一歩目を踏み出してみてくださいね。



 

中央大学 多摩・後楽園キャンパス 学生相談室嘱託心理カウンセラー 野島 美穂

(臨床心理士、公認心理師)