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厚いグラスで甘いお茶に,薄いグラスで苦いお茶に〜グラスの厚みと重みが飲料の味を変えることが明らかに〜

2023年06月02日

【概要】

 中央大学の有賀敦紀教授と松下光司教授は,北海道大学大学院生の市村風花さん,東京大学の元木康介講師との共同研究において,飲料を飲むときのグラスの厚みが緑茶の味に影響を与えることを明らかにしました。
 これまでの研究では,グラス等の容器の材質や手触りが飲料の味や香りに影響を与えることが報告されてきました。本研究では,同じ材質かつ同じ手触りのグラスであっても,飲み口の厚いグラスは緑茶の甘味を増大させ,飲み口の薄いグラスは緑茶の苦味を増大させることが明らかにされました。本研究の知見は,同じ飲料であっても,グラスの厚みを変えるだけで,消費者に多様な味覚を提供できる可能性,すなわち個人の好みに合わせた飲用体験を提供できる可能性を示唆しています。
 本研究の成果は「Food and Humanity」誌に掲載されました(日本時間5月27日オンライン公開)。

発表雑誌

Food and Humanity
論文タイトル: The tactile thickness of the lip and weight of a glass can modulate sensory perception of tea beverage
著者: Fuka Ichimura, Kosuke Motoki, Koji Matsushita, & Atsunori Ariga
DOI: https://doi.org/10.1016/j.foohum.2023.05.011

背景

 これまでの先行研究では,容器(グラスやマグカップなど)の色,形状,材質,手触りなどの視覚情報や触覚情報が,そこから飲む飲料(ワインやコーヒーなど)の味覚評価に影響を与えることが報告されてきました。しかし,実際に飲料を飲むとき,我々は常にそれらの情報を入力,認識しているわけではありません。例えば,飲料を飲んでいる最中,グラスの形状は視界に入りません。
 そこで本研究は,飲料を飲んでいる最中に常に入力がある容器の飲み口の厚みに注目しました。つまり,唇における触覚入力が飲料の味覚評価に与える影響を調べました。

研究内容と成果

 実験では,厚みの異なる2種類のグラス(飲み口の薄いグラスは1.2 mm,厚いグラスは2.8 mm,図1参照)に常温の緑茶を注ぎ,目隠しをした参加者に順番に飲んでもらいました。参加者は,各グラスからお茶を飲むごとに,飲料の甘味,苦味,酸味,まろやかさ,コク,清涼感,美味しさを評価しました。
 その結果,厚いグラスで飲んだ緑茶は薄いグラスで飲んだ緑茶よりも甘く,薄いグラスで飲んだ緑茶は厚いグラスで飲んだ緑茶よりも苦く評価されました(図2参照)。参加者は目隠しをしていたことから,唇における厚みの触覚入力が緑茶の味に影響を与えたことが示されました。
 厚みの異なるグラスは重さも異なっていたため,その後の実験では,重さの影響を調べました。その結果,上述した結果はグラスの重さだけでは説明できないが,グラスの重さも重要な要因であることがわかりました。つまり,厚みと重さが自然な組み合わせであったとき,緑茶の味覚評価はグラスの厚みの影響を受けることがわかりました。

研究の意義

 本研究より,同じ飲料であっても,グラスの厚みを変えるだけで,消費者に多様な味覚を提供できる可能性,すなわち個人の好みに合わせた飲用体験を提供できる可能性が示唆されました。レストラン,カフェ,居酒屋などのサービス企業は,自らが望むような甘味や苦味の体験をしてもらうためには,適切な厚みのグラスを選択する必要性があるわけです。
 さらに、本研究の成果は,次のような現代的なビジネス課題についても示唆を提示します。近年,環境への配慮を目的として,プラスチックストローの削減が推進されています。日本国内でもプラスチックストローを廃止し,代替品として紙製ストローを使用する企業が増えています。しかし,プラスチックストローと紙製ストローでは唇における触覚が異なるため,消費者は同じ飲料であってもこれまでとは異なる味覚を知覚している可能性があります。本研究の成果は,環境配慮型のストローがもたらす味覚の変化を調べることの重要性を指摘しており,これに関する今後の研究が期待されます。

※なお,本研究は長谷川香料株式会社の支援を受けて実施されました。

<本件に関するお問い合わせ>            
 有賀 敦紀(ありが あつのり)
  TEL:042―674―3711(文学部事務室)
     E-mail: aariga413◎g.chuo-u.ac.jp(◎を@に変換して送信してください。)

<取材に関するお問い合わせ>
 中央大学広報室
    Email:kk-grp@g.chuo-u.ac.jp