大学院

【究める vol.27】研究科委員長に聞く大学院での学びと研究①(新原 道信 文学研究科委員長)

2020年12月04日

新原 道信 文学研究科委員長

 

本記事は、11月20日(金)に行われた文学研究科のオンライン進学説明会での新原 道信 研究科委員長による説明をまとめ、再構成したものです。
大学院とはどのようなところか、学部との違いや授業の進め方、研究の特徴などについて、研究科委員長の立場からお話をいただきました。
受験生の方や大学院という場所に関心をお持ちの方は、ぜひお読みください。

学部と大学院の違いを教えてください。

学部は卒業単位が124単位で専門科目は約半分ですが、大学院は修了単位が32単位で大半が専門科目になりますが、根本的な違いは別のところにあります。学部で「よい成績(高いGPA)」を取れることと、大学院で自分の学問をつくっていく力との間にはそれほど相関関係はありません。もちろん、知識を集積してその分野で必要な技法を身につけ、先行研究から学ぶことは必要です。しかし、大学院では、さらにその先、つまりは既存の学問の「枠組み」を捉え直し、「前人未踏の地(no-man’s-land)」へと歩み出て行こうとする強い意志が必要となります。

大学院での研究で求められることは何ですか。

研究をするということは、自分のペースで自分の好きなように「答え」を出すことではありません。自分が理解しようとした現実が自分の予想をこえたものや、望まないものであったとしたら、自分の側(理論や方法)を革新していく必要があります。まずは以下のような力をつくっていってほしいと思います:


(1)教えられたり、指示されたりする前にまず自分で始めてみる力。
(2)自分に対して向けられているのでないコメントをわがこととして聴く力。
(3)自分がいまだ体験していないことだとしても興味関心(コミットメント)を持とうとし続ける力。
(4)自分の(既存の)枠組みによる整理・分析の対象としてしまうのでなく、相手の独自の筋やリズムを理解しようとする力。相手の文脈を理解しようとすることで、自分の枠組みをかえていく力。
(5)助力を受ける力:自分で考え行動するべき部分と、どうしても自分の力では突破できないことがらとを見極め、  自らの答え/応えを準備したうえでアドバイスを受ける力。
(6)切実な個別的問題をある特定の条件下で考える。「すっきり」、「くっきり」、思いついたままに言い放つのでなく、複雑なやり方で、“多重/多層/多面”的に考え、調べ、語る力。

大学院ではどのような力が身につきますか。

大学院では、社会で生きる人間としての総合的な力――根本的に物事を考える想像/創造力(他者、異なる時代・社会の状況・条件に想いを馳せ、そこから新たなものの見方を創造する力)を養います:


同時代性:自分の学問・調査研究が持つ現在的意味を問い、存在証明する力。
問題志向性:状況の変化のなかで生起する諸問題(issues)に接近し、入り込んでいく力。
複合性:生活者を断片化することなく複合的に受けとめ、総体として把握する力。
複数性と相補性:異なる視点・立場から、領域横断的に現実を把握し対話をおこなう力。
根源性:人間や社会の“原問題/問題の源基(underlying problem)”を探求し、“新たな問いを立てる(formulating new questions)”力。


そして、自分の研究そのものだけでなく、研究・教育のための場をつくる仕事をすることで、“協働/ 協力性( willingness )”を身につけていくことも重要です。
大学院で学んだ人の中には、研究者を目指す人だけでなく、中高の教員や公務員、一般企業へ就職する人も多くおり、多彩な進路が待っています。いずれの進路においても、大学院で身につけた総合的な力が役立つことと思います。

大学院進学を目指すにあたり、やっておいた方がよいことはありますか。

大学院では、自ら学び問うひとを歓迎します。先達から学ぶとともに、生身の人間や社会のうごきに対して開かれた学問を自らつくっていこうとする姿勢が大学院では大切になります。そのため、進学にむけて、個々の専門知識を修得すると同時に、根本から考える時間を確保しておいてください。人間や社会という存在の限界・意義を考え、自分のなかの歴史や社会を掘り起こし、新たな問いを立てること、新たな社会への見通しをつくること、〈ひとのつながりの新たなかたち〉を構想することなど、縦横無尽に思考の翼を拡げておいてください。
大学院という場(知の共同体)を生かすかたちで、自分の道を切り開き、大切なこと/出会うべきひとに出会い、他者とともに場を創っていっていただけましたら幸いです。