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「2024年度 中央大学日蘭交流会」を開催しました

オランダ人戦争被害者と学生が交流し、平和についての理解を深めました

 2024年9月27日(金)、後楽園キャンパス 3号館の会議室にて「中央大学日蘭交流会」を開催しました。
 外務省の「日蘭平和交流事業」により5名のオランダ人の方々が来訪し、本学の北井・宮丸ゼミ、外交研究会、選択英語クラスから参加した学生、教員など約60名と交流しました。

■「日蘭平和交流事業」とは

 第二次世界大戦時、日本の支配下にあったインドネシアにおいて、オランダ人の方々が旧日本軍の捕虜・民間人拘留者となった過去がありました。戦争が終結して平和条約が交わされたのちに、日本とオランダの間で平和と友好のために、1995年より「日蘭架け橋事業」が開始されました。2005年からは外務省欧州局が主体となり、「日蘭平和交流事業」として事業が引き継がれました。以降、オランダ国内に今も残る日蘭間における過去の問題に向き合う試みを続けてきました。
 この事業は、戦争の捕虜や拘留などに関わりのあるオランダ人の方々を毎年日本に招聘し、観光や交流を通じて日本および日本人についての理解を育むとともに、両国の理解を深める日蘭間の平和交流の事業のひとつです。

■「中央大学日蘭交流会」とは

 「中央大学日蘭交流会」は、かつて外務省に所属していた元法学部教授・元駐英大使 折田正樹(2022年逝去)の発起により、中央大学国際センター主催、外務省欧州局西欧課の協力を得て、2007年より本学で実施しています。「日蘭平和交流事業」を通じて日本に招聘されるオランダの戦争被害者の方々を本学にお招きし、学生達に戦争時の体験をお話しいただくというものです。学生達は戦争経験に触れることにより学修の動機づけを得るだけでなく、平和理解と国際交流の場にもなっています。また、招聘者にとっては学生との対話から現在の日本の姿を知っていただく良い機会にもなります。
 折田元教授が退任した2014年以降は、法学部教授 宮丸裕二、法学部准教授 ピーター・ソーントンがこの事業を引き継いで継続しています。
 2024年度は5名の招聘者が来日し、日本での8日間の滞在期間のうち半日間、本学の後楽園キャンパスにて過ごされました。

プログラムの様子

 “Goedemorgen” (おはようございます)
 中央大学日蘭交流会は、司会のピーター・ソーントン准教授のオランダ語での挨拶から始まりました。この交流会に参加された学生、先生、スタッフをはじめ、会の実現のためにご尽力いただいた方々への感謝のお言葉の後、旧オランダ領であったインドネシアの日本軍の収容所で幼少期を過ごした経験のあるオランダ人戦争被害者5名の方々のお名前が紹介されました。

オランダ人戦争被害者の方々によるスピーチ

 ヨープさんからは、インドネシアでの幼少期に父親が収容所に連行された記憶、小学校で十分な教育を受けなかったため、ギムナジウム(中等教育機関)での勉強方法の習得に苦労したこと、ギムナジウム卒業後は大学で法学を学んだことをお話しされ「平和の中で学校生活を送れることについて喜んでほしい」と伝えました。
 ウィックさんは、捕虜収容所での過酷な生活を語りました。「終戦の年、広島と長崎への原爆投下は、私たちにとって天の助けのようでした。それは戦争が終わることを意味し、終われば家族の命が助かるからです。"No winner, Only loser"(戦争に勝者はおらず敗者しかいない)」と力強く伝えました。
 ニコレッタさんは3才で捕虜となり、食べ物がほとんどなくいつもお腹を空かせていたとのこと。「終戦日の2日前、1人の見張りが泣いていて、母が理由を尋ねても答えてくれませんでした。終戦を迎えた後、母がもう一度その見張りに泣いていた理由を尋ねると、『あなた方を銃殺しないといけなかったから悲しくて泣いてた』と答えました。原爆が私たちの命を救いました。この2日の差で私は今生きています」と奇跡のようなお話をされました。
 エリーさんは、「戦時中、私は6才でしたが、今でもまだ日本軍や軍服が怖いです。でも日本に来てそのような姿の人を見かけないので、やっと解放されたことを実感します」と語りました。
 ヤンさんは、戦時中の収容所での過酷な生活、戦後のベルシアップ(独立戦争期の混乱した時期)は人生で最もひどい時期であり、今でも悪夢を見ることを涙ながらに語りました。「戦争は、家族間、部族間、国の、宗教の不一致で始まり得る。未来のために、人種、学歴などで人を差別してはいけない。所有物を破壊してはならない。誰に対してであれ丁寧に謙虚であるように。そして日本を訪問する機会を与えてくれたこと、長崎の神社と博物館を訪れることができたことに対して、日本政府に感謝します。ずっと収容所での記憶を抱えてきたが、長崎で起こったことを見た後は、本当に今こそ和解の時である」と伝えました。

質疑応答

 学生達は英語で、日本に来てくださり貴重な経験を共有していただいたことへの感謝の意を伝えた後、質問を投げかけました。
 「体験をお話しされることで、若い世代の私たちに何を期待されますか」という学生からの質問に対し、「戦争の経緯や状況を知ること、このような会に参加することが解決策だと思います。知らなければ教育できません。外国人を嫌わないよう、世界を支配したいなど思わないよう、お互い幸せに暮らせるよう、子供たちを教育してください」と回答されました。

 他の学生からは、「日本軍から残虐行為を受けたにもかかわらず、日本に来ようと思った最大の動機は何ですか。日本に着いて日本の文化を体験した時、何を感じましたか」との質問に対して、「もう80年も昔のこと。日本で出会う人はみんないい人ですし、皆さんは法律と経済を学んでいる私の孫と何ら変わりありません」 さらに、「誰かに日本人は嫌いですか?と聞かれたら、私はいいえ、私を苦しめた人たちはもう死んでいます。人を嫌うことは全く意味を成しません」と回答されました。

グループでの意見交換

 グループでの意見交換は、4つのグループに分かれて行いました。
 学生達はオランダ人戦争被害者の方々が話す戦時中の体験やエピソードに真剣に耳を傾けていました。また、学生自身の専攻科目や海外への関心事など多岐にわたるテーマで意見交換し、人生の先輩としてのアドバイスをいただきました。

 ウィックさんのお孫さんは、グループの学生たちと同年代ということもあり、普段の学生生活などを一人ひとりに優しく問いかけていました。そして"Count on blessing and don't stick too long on bad thing"(幸運に感謝して、失敗にいつまでもくよくよしない)というメッセージを残してくれました。
 ニコレッタさんを囲むグループでは、学生から「政治的・経済的なパワーバランスがあることを前提としつつ、各国独自の文化や特徴、歴史を尊重しあわなければならない」との意見や、法学における平等の重要性に関する意見が交わされていました。議論の最後に、ニコレッタさんは「大事なことは、このようなことが起きたことを若い人たちに教育して、何が起きたのか事実を知らせること。若い人たちもいろいろな国を旅行して、違いを知り、見識を深めることです」と述べました。

懇親会・ポスターセッション

 会場には、日本がアジアに侵略した歴史を学んできた参加学生達が制作したポスターが展示されました。"Japanese Colonizatioin in Indonesia"や"The Relation between Janpan and Taiwan"など国際関係をテーマにしたポスターを観ながら、オランダ人戦争被害者の方々が制作者からの説明を熱心に受け止め、質問している場面がありました。
 懇親会では、リラックスした雰囲気の中、食事を囲みながら参加者一同が歓談しました。

参加学生の感想(終了後のアンケートより)

●法学部 1年
 戦争の実際の経験がとても衝撃的で、実際に話を聞けたことがよかったです。オランダ人の方々がおっしゃっていたように平和を保つことができるよう努力し貢献したいと思いました。

●法学部 2年
 「戦争に勝者はおらず敗者のみ」という強い言葉と、戦争のせいで教育を受けられない実体にも心を揺さぶられました。
 どんなにネット上で調べても出てこない、戦時中、戦後の生の体験を聞くことができ、とても有意義な時間であったので、このような交流会にもっと多くの人が参加できればいいなと感じました。彼らの経験を家族や友達にも共有したいと思いました。戦争は絶対に起きてはならないという意識をより確固たるものとして作っていきたいと感じました。

●総合政策部 3年
 "No winner, Only loser"という言葉が印象に残りました。私はこの言葉を「戦争は確かに勝ち負けを決めるものだが、戦争をしていることが負け」という解釈をしました。苦しい思い出を私たちのために思い出しながら共有してくださり、とても貴重な機会でした。誰かと今日のことを共有したいです。

●法学部 3年
 "bombs really saved me"とおっしゃっていたのを聞いて動揺しました。とりわけ原爆については幼い頃から「落とされた人たち」の歴史ばかり学んでいたので、それに救われた人の存在を知れたことだけでも大きな価値があると感じました。
 無知を恥じました。みなさんがおっしゃるように歴史を知り、他者を知ることで平和の実現に近づけるようにしたいなと思います。

●法学部 4年
 80年以上前の子供のころの話をこれほど鮮明にお話される姿を見て、戦争の経験はトラウマとなって一生つきまとわれていることを改めて感じました。特に"No winner, Only loser"という強い言葉は本当に心を揺さぶられました。
 1年間のオランダ留学を経て、今回初めて交流会に参加しました。ヨーロッパ留学中に、アンネの家やベルリンの壁、ユダヤ博物館へ行き、実際に自分の目で見て訪れることで、より学びになりました。今回オランダの方々もお話しされたように、海外だけでなく、日本の博物館にも足を運び、実際に目で見ることで感じたり勉強したいと思いました。