「究める」では、大学院に携わる人々や行事についてご紹介します。
経済学研究科 博士後期課程1年の菊池 陽(きくち ひなた)さんが、10月27日から31日に行われた「コンピュータセキュリティシンポジウム2025」にて、「CSEC優秀学生研究賞」を授与されました。
「CSEC優秀学生研究賞」は、2025年3月17日から18日にかけて前橋市で開催された「情報処理学会 第202回マルチメディア通信と分散処理・第108回コンピュータセキュリティ合同研究発表会」における発表について、優秀と認められた学生に授与されるものです。
本記事では、菊池さんによる発表内容の紹介や受賞にあたってのメッセージをお届けします。
参加された研究会について教えてください
「情報処理学会 第202回マルチメディア通信と分散処理・第108回コンピュータセキュリティ合同研究発表会」は、情報処理学会の「マルチメディア通信と分散処理(DPS)研究会」と「コンピュータセキュリティ研究会(CSEC)」の共催で開催される研究会です。情報通信技術やセキュリティ分野における最新の研究成果を発表・議論する場として位置づけられています。
発表概要について教えてください
本研究は、統計数理研究所の南和宏教授との共同研究であり、プライバシー保護技術として注目される「差分プライバシー」と「合成データ」を組み合わせ、その有用性を実証的に評価したものです。
「差分プライバシー」とは、個人が特定されるリスクを確率的に制御し、理論的に保証するための枠組みです。現在では、米国国勢調査局をはじめ、Google や Apple など、多くの公的機関・民間企業で実用化が進んでいます。
一方、「合成データ」とは、機械学習などの統計モデルを用いて、元データの統計的特徴を再現するように人工的に生成されたデータを指します。AI 学習用データの不足や個人情報保護への需要の高まりを背景に、その重要性は急速に高まっています。
本研究では、複数種類の合成データを生成し、それぞれに対して個人特定(再識別)を目的とした攻撃を行うことで、各データの匿名性と実用性を検証しました。旧来の匿名化手法とは異なり、合成データを用いることで元データとの高い統計的類似性を維持しながら、差分プライバシーの適用によって強固な匿名性を両立しています。
差分プライバシーの保証を備えた合成データを活用することで、個人情報の漏えいや再識別リスクを低減しつつ、安全にデータを利活用できる機会が大きく拡がると期待されます。
特に、医療や金融のように、個人情報と結びつくことで危害リスクが生じうる領域において、これまで難しかったデータ活用の幅を広げる可能性があります。
受賞にあたって
本研究が評価され、大変光栄に思っております。
「合成データ」や「差分プライバシー」は、いずれも現在の情報分野で特に注目されている技術であり、社会的関心の高まりを反映していると感じています。
私はこれらの技術を、単なる情報分野の枠を超え、現代社会が抱える課題に応答して生まれた概念であると考えています。プライバシー保護の研究領域では、心理学や経済学のように個人の行動や効用の観点からの研究はまだ少なく、今後は個人の効用・選好概念とプライバシー技術の接続を目指していきたいと考えています。
また、本研究の着想は、前年度に開催されたコンピュータセキュリティシンポジウム(CSS)内のPWS Cup 2024での経験に基づくものです。
運営に携わられたPWS運営委員の皆様、そしてともに競い合い高め合った参加チームの皆様に、心より感謝申し上げます。
※この記事は2025年11月時点の内容です。