中央大学大学院博士後期課程
NPO法人東京自由大学理事
辻 信行
話は突然やってきた。中央大学で中国語の講師を務める、郝燕書先生(明治大学経営学部教授)から届いた一通のメールには、中国大使館が後援する「日中青年友好交流訪中団」が参加者を募集しており、推薦するのでぜひ応募するようにと書かれていた。締め切りまで、あと4日しかない。二つ返事で了承するとすぐに応募し、当選の知らせを受けた9日後の2015年12月23日、わたしは厦門へ向かう機中にいた。NPO法人東京自由大学理事
辻 信行
今回の訪中団は、日本華人教授会議と一般社団法人日中科学技術文化センターが合同で主催し、中国大使館が後援している。参加者は、両主催団体から推薦を受けて応募し当選した141名の学生と社会人。A・B・Cの3コースに分かれて訪中し、現地で大学交流や企業訪問、景勝地見学を行うというものだ。わたしは、厦門、福州、武夷山、上海をめぐるCコースに当選し、総勢48名のメンバーを取りまとめる総長に指名された。
以下、総長として参加した訪中団での一週間を、順を追って報告することとしたい。
★1日目:12月23日(水) @厦門
中山路はコロンス島の対岸に位置し、2階以上の部分が歩道の上まで延びている華南地方特有の建物が並んでいる。屋台では黄遠堂鳳梨酥などの台湾を代表する銘菓も売られ、ここが台湾と距離的に近いことを感じさせる。
夕食は福建料理レストランに行った。福建料理は日本人の舌に合うあっさり目のシーフードが多い。しかし初日の夜は、四川風の辛い味付けの料理も多く、訪中団の中には四苦八苦しているメンバーもいた。唐辛子と花山椒が大好きなわたしとしては、この上なく素晴らしいディナーとなった。
★2日目:12月24日(木) @厦門
続いて、わたしたちはすぐ近くにある厦門大学へ、交流会をするために向かった。会場に到着すると、陈芳副教授が英語で歓迎の意を表してくれた。前夜、訪中団のわたしたちは中国語で挨拶しようと決めていたので、わたしは総長として以下のようなスピーチを行った。
![]() 我们一行昨天刚刚到达厦门.我们看到了融合了东西文化的这个城市充满了魅力. 我们为对岸的鼓浪屿的美丽自然的风光所吸引.今天听了有关厦门大学的介绍激起了我们想到这里来留学的强烈愿望. 今天来到这里的我们一行全体人员都非常喜欢中国.大众媒体有关日本人反中的报道.不代表一般日本大多数人民的意见.我们这次访华团定员是30名.但在非常短的时间内居然有314名报名.这反映了日本的学生,一般社会人热爱中国的心情.我们实现了多年来想访问厦门的愿望非常幸运.充满幸福感.在次向厦门大学的全体师生再次表示深切的感谢. 我们作为民间人士,我们原做中日友好的桥梁为推动中日友好关系不断向前发展添砖加瓦.贡献力量.多谢!感谢!
↑厦門大学でスピーチする筆者
本日は、歴史ある厦門大学にお招きいただき、心より御礼申し上げます。 わたしたちは昨日、厦門に到着したばかりですが、この街の洋の東西を融合させた文化と、対岸に浮かぶコロンス島の美しい自然にすっかり魅了されています。そしていま、厦門大学についてご紹介頂き、早くも留学したくなったところです。 本日、ここを訪れたわたしたちは、全員が大の中国好きです。マスメディアで報道されているであろう日本人の反中的な動向は、決して多数派によるものではありません。それは、今回の訪中団の定員が30名なのにも関わらず、314名もの日本人の学生と社会人が、ここ厦門を訪れたく、応募したことからも明らかです。幸運にも念願の厦門訪問を果せたわたしたちは、いま、幸せで満たされています。今一度、厦門大学の皆さまに深く御礼申し上げます。 そしてわたしたちは、政府レベルでどのような対立が起きようと、共に手を携えて、中国と日本の架け橋になろうではありませんか。 いま、ここから、わたしたちの友情が永遠に育まれますことを心から祈っております。本日は誠にありがとうございました。
日中青年友好交流訪中団 総長
辻 信行 |

→ 集合写真 (厦門大学にて)
午後は、対岸に位置するコロンス島にフェリーで渡った。コロンス島は、面積1.78㎢の小さな島である。ここに、2万3,000人の島民が暮らしている。島内には租界時代の洋館が保存され、それを囲むように緑が広がっている。ピアノの普及率が高く、「ピアノ島」と呼ばれることでも名高い。わたしたちはコロンス島で最も標高の高い日光岩を目指し、えっちらおっちら階段を上ってゆく。途中、新婚カップルが何組も記念撮影している教会を通り過ぎ、元気なおじいさんから「人生で最も大切なことは、1に健康、2に家庭円満、3に勤勉勤労!」などと演説をぶたれたが、それにもめげず、20分ぐらいで頂上に辿り着いた。そこからの眺望は、もやに霞んでよく見えない。しかし雨季特有の独特の美しさがあった。手前には赤い建物の連なるコロンス島の歴史地区が、奥には蜃気楼のように霞んだ厦門市街の近代的な超高層ビル群が見えた。
★3日目:12月25日(金) @福州
福州に到着すると、まずは木工製品を取り扱う創之源社を企業訪問した。ショールームにズラリと並べられた1個数十万円のテーブルたちは、重厚で木の温もりを感じ、隣の部屋には元々の木の形状を生かした仏像と彫像が所狭しと置かれている。副社長の伍铃烽さんによると、福州は古くからものづくりの街として栄えてきたらしい。

→ 福州大学機械学院でスピーチする筆者
★4日目:12月26日(土) @武夷山
「武夷山のお茶は有名ですね。とくに標高の高い岩地で栽培された武夷岩茶は薬効があることで知られています。武夷岩茶には、大きく分けて烏龍茶と紅茶があるけれど、紅茶の方がお薦めです。品種は、正山小種もおいしいけれど、一般に出回っているものでは、金駿眉が最高級ですよ」
なんでも金駿眉は買おうと思えば日本でも買えるが、武夷山の現地で売られているものとは全く質が異なるという。武夷山の茶は、明代から中国茶の最高級品として知られるようになり、はるか遠く北京の皇帝まで献上された。いまでも政府関係者に買い占められる「大紅袍」という品種には、とくにその名称の由来を巡って、様々な逸話や伝説が伝えられている。
わたしたちは、武夷山の製茶工場の2階にある実演販売所に案内された。まずは烏龍茶を試飲させてもらう。口にした瞬間からこの上なく爽やかな香味が通り抜け、明確な味の変化が絵巻物のように展開し、それは岩韻と呼ばれる後味まで続いてゆく。続いて正山小種。いわゆる「紅茶」とはかなり違う味わいで、烏龍茶と紅茶のハーフといった感じだ。世界三大紅茶として知られる中国の紅茶、キームンに似ていると思った。
こうして無事にわたしは金駿眉を手に入れることができた。ちなみに、帰国後に金駿眉を飲んでみると、やはり正山小種とは雲泥の差があった。その奥深さ、まろやかさ、確実に寿命が延びそうな霊妙な味わいに心から感動した。
武夷山に着いた初日は、竹で作ったいかだによる九曲渓下りを楽しんだ。岩山の間を蛇行して流れるコバルトグリーンの九曲渓を、約1時間半、くだってゆく。途中、9つの大きな曲り角を通り抜け、カエルの岩や顔面岩、横穴墓風の岩などの奇岩を眺める。
夜は、チャン・イーモウ監督がプロデュースした野外劇、《印象・大紅袍》を鑑賞した。360°回転する客席の周囲で、武夷山を背景に総延長1.2kmの世界最長の舞台が展開し、最高級茶の大紅袍に関する故事をもとにした壮大なスペクタクルショーが繰り広げられる。竹林でアクロバティックな任侠があり、宮廷で女官たちが艶やかに舞い、何段にも重なった茶畑で歓喜の歌がうたわれる。ショーの最後では、俳優たちが客席にやってきて茶をふるまい、「なにかと苦悩が多い日常も、この一杯の茶を飲めば、たちまち幸福で満たされます!」と繰り返し、観客も総立ちになって「わたしは幸福になりました!」とみんなで叫ぶ。実に印象的な一夜となった。
★5日目:12月27日(日) @武夷山

→ 武夷山天遊峰より
人々が願いを書いて木の枝にくくりつけた赤い布切れがはためく道教寺院で参拝し、午後は大紅袍景区に向かう。大紅袍は、前述した通り武夷山で最高級の茶であり、現在でも母樹6本が残され、見ることができる。岩壁の途中にある小さな空間に、ひっそり生える小さな古木を見上げ、その何気ない佇まいに、すべてはここから始まったのかとジワリ感動が込み上げてくる。
近くにある武夷山唯一の禅寺、永楽禅寺も参拝し、儒仏道の聖地として武夷山を実感した。

夕食後、わたしたちは高速鉄道に乗り込み、約3時間かけて上海に入った。
←永楽禅寺
★6日目:12月28日(月) @上海
隣接する豫園商城は、昔ながらの町並みになっており、雑貨屋、菓子屋、西洋鏡屋など様々な店がひしめき合い、魑魅魍魎の感を醸し出している。
その後、一行は租界時代の建物が立ち並ぶ外灘から浦東を眺め、上海きっての繁華街、南京路を速足で通り抜けると、夕食会場の新疆ウイグル料理レストランへ向かった。ここでは、訪中団のA・B・Cの全てのコースのメンバーが合流し、これまでの一週間を報告し合った。回族のダンスショーを見ながら、羊肉をふんだんに使った料理を楽しんだ後、我々は上海雑技団のショーを鑑賞し、伝統的な皿回しから最新式のバイクショーまで、幅広い技芸に目を見張った。
★7日目:12月29日(火) @上海
まず、果敢に中国語で現地の人々と交流するメンバーが多かった。たとえば写真を撮り合って、「我是你的朋友!」(わたしはあなたの友達です!)などと言う。そうすることで、各人にとって中国が、そして相手にとって日本が、より身近な存在となっていった。
次に、訪中団の中には、初めて中国に行くというビギナーから、何度も訪れているというエキスパートまで存在した。エキスパートはバスの車内や訪問先で積極的にレクチャーを行い、ビギナーの中国理解を格段に深めることとなった。
そして訪中団には、学生と社会人が混在していた。とくに玄人向けとも言えるCコースは、社会人の割合が他のコースよりも多かった。普段出会うことの少ない学生と社会人が深く交流し、今後につながるご縁を結ぶことができた。
今回の訪中団の経験により、中国に留学や就職を考えたり、個人的に訪中し実現可能なレベルで「日中友好の架け橋になろう」とするメンバーが急増した。急ピッチで準備が進められた今回の訪中団であったが、成果はとても大きかったと言えよう。
★大使館報告会:2016年1月22日(金) @元麻布
次回、第2回目となる日中青年友好交流訪中団が実現した際には、ぜひ多くの中央大学の学生・院生・卒業生の皆さんにもご参加頂きたいと、切に願っている。