広報・広聴活動
水中のPFAS完全無害化達成に向けた技術開発に 産学連携体制で挑む ~2025年度NEDO先導研究プログラムに採択~
2025年05月30日
概要
学校法人中央大学は、国立大学法人東京科学大学、国立大学法人金沢大学、株式会社明電舎と共同で、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募する「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム」における研究開発課題「PFAS 分解・無害化のための技術開発」に技術提案し、採択されました。提案したテーマは、「PFAS自己濃縮型回転円板プラズマ分解装置・検出装置の開発」です。本先導研究の実施期間は、2025年5月から最大3年を予定しており、PFAS注1)の分解・無害化による環境負荷の低減やフッ素資源の循環に向けた要素技術開発を行います。
【研究内容】
1.背景
PFASは、熱や薬品に強く、撥水剤やコーティング剤などとして半導体や通信などの産業分野をはじめ、生活用品にも幅広く利用されてきました。しかし、水に溶けやすく分解されにくいため、環境中に長期間残留し、水道水や河川などの水質への影響が指摘されています。特にPFASの一部であるPFOSやPFOAは人の健康への影響が懸念されており、近年は、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)注2)、REACH規制提案注3)をはじめとする国際的な枠組みに基づき、製造・使用・輸出入の制限提案の検討が進められています。加えて、各国で飲料水や環境中の濃度基準も導入されており、今後さらなる規制の強化が見込まれます。
現在、活性炭処理、イオン交換処理、RO膜処理などのPFAS除去技術や、高温焼却による分解処理が実用化されていますが、前者ではPFASを含む残渣の処理が課題となり、後者では高エネルギー消費によるコスト増が問題となっています。しかし、半導体製造分野のようにPFASの代替が困難な分野も存在することから、高い分解性能と経済性を兼ね備えた、実効的なPFAS分解・無害化技術の開発が強く求められています。
2.開発の概要
本先導研究では、半導体製造分野やフッ素化学製品製造分野等で発生するPFAS含有RO濃縮水の完全無害化を達成するために、①水中の共存物の前処理技術、②PFASの吸着技術、③プラズマを用いたPFAS分解技術、④処理水のPFAS濃度の迅速測定技術を組み合わせた「PFAS自己濃縮型回転円板プラズマ分解装置・検出装置」を開発します。中央大学は、本研究を統括すると共に、イオン交換やRO膜によるPFAS処理や水処理における吸着メカニズム解明で培った技術と経験を活かして、②PFAS濃縮技術の開発、③のプラズマ処理リアクター開発を行います。
3.今後の展開
今後3年間で要素技術開発を進め、その後はシステム最適化、実証フェーズと順にスケールアップしながら開発を進めていく予定です。PFAS分解後のフッ素を回収するケミカルリサイクルの実現も視野に、産学共同での取組みを推進していきます。
現在は、より複雑な筋骨格構造を模したシステムへと発展させるために、複数のHADECを束ねた「筋束型アクチュエータ」の設計・製作に取り組んでいます。これにより、より実用的かつ生体模倣的なアクチュエーションが可能となり、福祉機器やロボット分野への応用が期待されます。今後は、動作周波数や混合ガスのモル比、供給圧力の違いが出力特性に及ぼす影響を詳細に評価し、制御性や耐久性を含めた性能の向上を図ります。これらの課題に取り組むことで、実世界における持続的かつ高応答な人工筋肉としての応用を目指します。
【山村 寛教授のコメント】
フッ素化学産業や半導体産業は、日本経済と安全保障を支える非常に重要な産業です。フッ素化学と共に発展する社会を形成するためにも、廃水中のPFAS分解は必須の技術となります。
我々の研究グループでは、PFASの分解率、分解効率の面で世界一を目指して、産官学が協力して革新的イノベーションを推進していきます。
「中央大学の社会連携と社会貢献に関する理念」に関する当面の方針
https://www.chuo-u.ac.jp/usr/idea/
【PFAS処理関連の研究論文】
Important properties of anion exchange resins for efficient removal of PFOS and PFOA from groundwater
https://doi.org/10.1016/j.chemosphere.2023.139983
Rejection of perfluorooctanoic acid (PFOA) and perfluorooctane sulfonate (PFOS) by severely chlorine damaged RO membranes with different salt rejection ratios
https://doi.org/10.1016/j.cej.2022.137398
【「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム」について】
NEDO先導研究プログラムは、脱炭素社会の実現や新産業の創出に向けて、2040年以降(先導研究開始から15年以上先)に実用化・社会実装が期待される要素技術を発掘・育成し、国家プロジェクトを含む産学連携体制による共同研究等につなげていくことを目的としています。このうち、新技術先導研究プログラムでは、脱炭素社会の実現や新産業の創出に向けて、2040年以降(先導研究開始から15年以上先)の実用化・社会実装を見据えた革新的な技術シーズを発掘・育成し、国家プロジェクトを含む産学連携体制による共同研究等につなげていくことを目的として、先導研究を実施します。
詳細については、下記URLをご覧ください。
NEDO先導研究プログラム 事業紹介
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100100.html
【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
山村 寛 (ヤマムラ ヒロシ)
中央大学理工学部 教授(人間総合理工学科)
TEL: 03-3817-7257
E-mail: yamamura.10x[アット]g.chuo-u.ac.jp
中央大学理工学部 水代謝システム研究室 ホームページ
http://yamamura.waterblue.ws
<広報に関すること>
中央大学 研究支援室
TEL: 03-3817-7423または1675 FAX: 03-3817-1677
E-mail: kkouhou-grp[アット]g.chuo-u.ac.jp
※[アット]を「@」に変換して送信してください。
【用語解説】
注1)PFAS(Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl substances、ピーファス)
ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の総称で、主に炭素(C)とフッ素(F)から構成される化合物群。化学的に極めて安定しており、耐熱性や撥水性などに優れている。水や油を弾くなどの性質を活かして、さまざまな製品に用いられている。
注2)残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)
環境中での残留性、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、長距離移動性が懸念されるポリ塩化ビフェニル(PCB)、DDT等の残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)の、製造や使用の廃絶・制限、排出の削減、これらの物質を含む廃棄物等の適正処理等を規定している条約。日本など条約を締結している加盟国は、対象となっている物質について、各国がそれぞれ条約を担保できるように国内の諸法令で規制することになっている。対象物質については、残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)において議論されたのち、締約国会議(COP)において決定される。
注3)REACH規則案
既存化学物質の安全性評価が進まないこと等を克服するため、EUが2006年12月に採択し、2007年6月に施行した規則。主な特徴は、既存化学物質と新規化学物質の扱いをほぼ同等に変更する、これまでは政府が実施していたリスク評価を事業者の義務に変更する、サプライチェーン(流通経路)を通じた化学物質の安全性や取扱いに関する情報の共有を双方向で強化する、成型品に含まれる化学物質の有無や用途についても情報把握を要求することである。