「究める」では、大学院に携わる人々や行事についてご紹介します。
今回は、学芸員として活躍する修了生、山岸くららさんにお話を伺いました。大学院での学び・研究と現在の学芸員としての業務との関わりや、大学院進学を目指すみなさんへのメッセージ等を掲載しています。
山岸 くらら(やまぎし くらら)さん
●文学研究科 博士前期課程 仏文学専攻 2024年度修了
●現在:藤田美術館 学芸員
学芸員という職業に関心を持ったのはいつ頃ですか
最初のきっかけは中学1年生の夏休みだったと記憶しています。学校の課題でいくつかの美術館を訪れるうちに、次第に美術館のもつ空間や雰囲気に惹きつけられていきました。一緒に美術館をまわってくれた母にキュレーター(学芸員)という職業を教わり、その頃から美術館で働くことに魅力を感じていました。ただ、同時に異文化交流にも興味があり、国際関係の仕事に就きたいなとも考えていたので、高校は国際情報科に進学しました。その後、本格的に興味を持つきっかけとなったのは大学で美術史を学ぶようになり、関心が美術館という施設から美術史という学問や作品に移ったことだったように思います。
大学院への進学を決めた理由を教えてください
理由はふたつあります。ひとつ目は、単純に自分の関心に向き合う時間が足りないと感じたことです。美術史を学ぶことや、ゼミでの研究が楽しかったので、もっと掘り下げたい気持ちがありました。
ふたつ目は、進路に悩んでいたことです。
学芸員という職業を意識するようになってからは、自然と大学院進学を考えるようになりました。しかし、周りが就活をするなかで進学を決めるのは、目の前に敷かれたレールから脱線するような不安が伴うものでした。そんなとき、ゼミで配られた進学案内のパンフレットを開いてみると、「研究を深めるとは、狭い分野のマニアになることとは違います。むしろ学問は、あなた⾃⾝とあなたの世界に広がりをもたらします。」とありました。このことばに勇気づけられ、将来の選択肢の幅を拡げるために進学を決めました。
院生時代はどのような大学院生活を送っていましたか
まず、授業については先生と他の院生たちとの勉強会のような雰囲気でした。美術史の演習では自分の関心に向き合う時間をじっくり取れたので、確実に学部生時代よりも深いところまで足を踏み入れることができました。また、文学の演習も受講し、マルセル・プルーストの小説や、聖書に触れました。文学と美術の関わりを探りながら横断的に考えをめぐらせ、文学専攻の院生たちとも対話ができたことはとても貴重な時間だったなと思います。また、単位互換制度を利用し、他校で講義を受講したのも良い刺激になりました。
次に、課外活動ではインターン生として約1年間、東京都庭園美術館で美術館業務に携わらせていただきました。ここでは展覧会ができるまでの流れや、外からは見えにくい業務について実地に学ぶことができたので、学芸員という職業についてあらためて考える良い機会になりました。
最後に、研究について。指導教員と相談しながら、ピエール・ボナールの空間表現についての修士論文を提出しました。2年間という短い期間で、就職活動や課外活動と研究を両立させるのは正直大変でしたが、いま振り返るとその分充実した日々だったなと感じます。同期とも互いに相談に乗り合い、励まし合いながら研究に打ち込むことで濃密な時間を過ごせました。少人数だからこその恵まれた環境だったなと思います。
大学院での学びは、今の職業にどのように役立っていますか
藤田美術館(展示室)
まずは横断的に関心を持つ素養、美術を観察する力が何よりも役立っています。現在は美術館で主に東洋の古美術を扱っていて、学生時代に触れてきたフランス近代美術とは正反対の世界に飛び込むような気持ちでいましたが、幸い大学院でジャンルにかかわらず関心を持つ基盤を築けていたので、両洋の美術を知れる環境を享受できているのかなと思います。また、さまざまな美術に触れるなかで鍛えた観察眼も大いに役立っています。東洋美術と西洋美術ではそれぞれ異なる“決まりごと”や見かたのコツがありますが、かたちを捉え、比較することができる目を持っていれば、同じように作品をよくみることができます。
もうすこし具体的なところでは、テーマを設定し、議論を設計し、適切な情報を集め分析する研究の技術は日々必要とされます。とくに所蔵作品の研究、それを公開する展覧会の業務は院生時代に行った研究活動とおなじようなプロセスを踏みます(しかも限りなく近い距離で作品を見ながら)。その点においても、院生時代にやってきたことが頼もしい基礎となって自分を支えてくれていると感じます。
受験生に向けて、メッセージをお願いします
藤田美術館(外観)
院生時代を振り返りよく思い出すのは、先生方や他の院生たちとの何気ないやりとりで映画や小説、コーヒーなど文化についての話をしたことです。さまざまなジャンルのつながりを感じることで得られる充足感は、大学院ならではだと思います。そのような環境で視野を広げるために進学するというのも立派な進学理由なのではないでしょうか。
進路については、誰もが迷うところだと思います。以前、院の先輩が「自分でまいた種や、他者がまいた種に意識的になること、さらにそれをどのように実らせるかが肝要だ」と言ってくれたことがあります。
この言葉の通り、何を選択をするかよりも、選んだその先で自分の中にあるものをどう生かし、結果を出していくか、すべては自分次第なのだと思います。そして、大学院はそのために必要な土壌を豊かに育てるのに最高の場所だと言えます。皆さんもぜひ大学院という場で自らの可能性を広げ、その先の人生を充実させる力を養っていただけたらうれしいです。
※この記事は、2026年9月時点の内容です。