広報・広聴活動
手触りで変わるコーヒーの味 ―世界初・さらさらした触感が酸味を弱めることを発見―
2026年06月17日
<成果のポイント>
・これまでコーヒーカップの材質がコーヒーの味覚評価に影響することが報告されてきた。しかし、それらの研究では視覚情報や唇からの触覚の影響を十分に排除できておらず、手で感じる触感そのものの効果は明らかになっていなかった。
・この課題に対して、本研究は、コーヒーの味覚評価における「手触りだけの効果」を世界で初めて実証した。
・ざらざらした手触りのスリーブを付けたカップで飲む場合よりも、さらさらしたスリーブを付けたカップで飲む場合の方が、コーヒーの酸味が弱く感じられた。さらに、カップやスリーブとは無関係の物体に触れている場合でも、さらさらした手触りはコーヒーの酸味を弱めた。
・本研究は、スリーブや周辺素材の手触りによってコーヒーの味覚体験が変化する可能性を示すとともに、今後、飲用シーンを感覚全体からデザインすることの重要性を示唆するものである。
概要
中央大学文学部教授の有賀敦紀と大学院文学研究科学生(研究時)の久保夏海さんは、手触りがコーヒーの味わいに影響を及ぼすことを発見しました。
これまで、コーヒーカップの材質がコーヒーの味覚評価に影響することが報告されていました。しかし、それらの研究では視覚情報や唇からの触覚の影響を十分に排除できておらず、手で感じる触感そのものの効果は明らかになっていませんでした。
本研究は、コーヒーの味覚評価における「手触りだけの効果」を世界で初めて実証したものです。
具体的には、ざらざらした手触りのスリーブを付けたカップで飲む場合よりも、さらさらしたスリーブを付けたカップで飲む場合の方が、コーヒーの酸味が弱く感じられました。さらに、カップやスリーブとは無関係の物体に触れている場合でも、さらさらした手触りはコーヒーの酸味を弱めました。これは、普段コーヒーを飲む際に触れている机やスマートフォンなどの手触りが、コーヒーの味わいに影響する可能性を示しています。
近年、カップやスリーブの素材は、「ブランド体験」の一部として注目されています。本研究は、スリーブや周辺素材の手触りによってコーヒーの味覚体験が変化する可能性を示すとともに、今後、飲用シーンを感覚全体からデザインすることの重要性を示唆するものです。
本研究成果は、2026年6月3日(日本時間)に国際学術誌「Multisensory Research」でオンライン公開されました。
【研究者】
中央大学文学部
有賀 敦紀 教授
【発表論文】
雑誌名: Multisensory Research
題名: The contextually tolerant but temporally intolerant sensation transference from tactile to taste in drinking coffee
著者名:Natsumi Kubo & Atsunori Ariga
DOI: https://doi.org/10.1163/22134808-bja10198
【研究内容】
1.背景
これまで、容器(グラスやマグカップなど)の色・形状・材質などの特徴が、そこから飲む飲料の味覚評価に影響を及ぼすことが報告されてきました。しかし、実際に飲料を飲む際、私たちは常にそれらの特徴を意識しているとは限りません。例えば、飲んでいる最中には、グラスの形状は視界に入りません。そこで本研究では、飲料を飲む間に常に接触している「カップの手触り」に着目し、手の触覚がコーヒーの味覚評価に及ぼす影響を調べました。
先行研究では、コーヒーカップの材質が味覚評価に影響することが報告されていました。しかし、それらの研究では視覚情報や唇からの触覚の影響を十分に排除できておらず、手で感じる触感そのものの効果は未解明でした。本研究は、コーヒーの味覚評価における「手触りだけの効果」を世界で初めて実証したものです。
2.研究内容と成果
実験では、手触りの異なる2種類のスリーブ(紙やすりから作成したざらざらしたスリーブ、クラフト紙から作成したさらさらしたスリーブ、図1参照)を用いました。それぞれのスリーブを付けたカップ(以降、ざらざらカップ、さらさらカップ)にブラックコーヒー(68.0℃)を約115 mlずつ注ぎ、参加者92名に目隠しをした状態で順に飲んでもらいました。
その結果、参加者がざらざらカップの後にさらさらカップからコーヒーを飲むと、コーヒーの酸味が弱く感じられました(図2右)。一方、逆の順番ではこの効果は見られませんでした(図2左)。このことから、さらさらした手触りがコーヒーの酸味を弱める可能性が示されました。
参加者は目隠しをしており、使用したカップの材質も同一であったことから、この現象は視覚情報や唇からの触覚ではなく、「手触りだけの効果」であると考えられます。なお、甘味や後味については、手触りによる影響は確認されませんでした。

図1 実験で使用したスリーブとカップ:ざらざらしたスリーブ

図1 実験で使用したスリーブとカップ:さらさらしたスリーブ

図2 ざらざらカップの後にさらさらカップからコーヒーを飲むと酸味が弱く感じられた(smooth condition)。一方、逆の順ではこの効果は見られなかった(rough condition)。
その後の実験では、カップを持つ手とは反対の手で、机に置かれた紙やすりやクラフト紙に触れている場合でも、同様の結果が得られました。つまり、カップやスリーブとは無関係の物体に触れている場合でも、その手触りがコーヒーの味覚評価に影響することが明らかになりました。この結果は、机やメニュー表、スマートフォンなど、飲用場面のさまざまな物体の手触りがコーヒーの味わいに影響を及ぼす可能性を示唆しています。一方で、紙やすりやクラフト紙に触れるタイミングと、コーヒーを口に含むタイミングがずれると、手触りの効果は消失しました。つまり、手触りは「同時に体験している」コーヒーの味わいに影響を及ぼすことが示されました。
一連の実験で示された「手触りによる味覚誘導効果」は、「ざらざら―強い酸味」「さらさら―弱い酸味」の概念が心的に連合していること、それが感覚間で共有され、知覚に影響を及ぼすことを示しています。
3.今後の展開
本研究の成果は、人間における触覚と味覚の感覚統合の心理・神経メカニズムのさらなる解明につながることが期待されます。また、UXデザインやフードマーケティングへの応用も期待されます。
近年、環境配慮の観点からさまざまな素材開発が進み、コーヒーの大手チェーンでもリユースカップや繊維系スリーブなどの導入が進んでいます。本研究は、それらの素材がもたらす「手触り」が、コーヒーの味わいそのものに影響を及ぼす可能性を示しています。
さらに近年では、カップやスリーブ自体が持ち歩くアイテムとなり、ファッションアイテムとしての側面も強まっています。本研究の成果は、「自分好みの味わいを引き出すカップやスリーブ」を選ぶという新たな価値観につながる可能性があります。また、マイカップやマイスリーブを持ち歩くといった、消費者個人の環境配慮行動を後押しすることも期待されます。
このように本研究は、カップやスリーブ、さらには周辺素材の手触りがコーヒーの味わいを変化させる可能性を示すとともに、飲用シーンを「感覚全体」からデザインすることの重要性を示唆するものです。
【関連情報】
厚いグラスは甘く、薄いグラスは苦く ~触覚がひらく新しいビールの楽しみ方~
https://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/communication/press/2025/12/83457/
厚いグラスで甘いお茶に、薄いグラスで苦いお茶に〜グラスの厚みと重みが飲料の味を変えることが明らかに〜
https://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/communication/press/2023/06/66260/
本研究成果のもととなった研究経費
中央大学基礎研究費、中央大学特定課題研究費、中央大学人文科学研究所
【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
有賀 敦紀 (アリガ アツノリ)
中央大学文学部 教授(人文社会学科)
E-mail: aariga413[アット]g.chuo-u.ac.jp
<広報に関すること>
中央大学 多摩研究支援課
TEL: 042-674-2434・2109
E-mail: kkouhou-grp[アット]g.chuo-u.ac.jp
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